この本に出会う前、爆笑問題の「ニッポンの教養」というNHKの番組で著者には出会っていた。このときから、この人は何か違うと思っていた。爆笑問題の質問に対し、分子生物学のエッセンスをまじえながら、極めて分かりやすく明快に答えていた。その語り口は、落ち着いているが、その内容は僕にとって非常に新鮮で、かつ刺激的なものばかりだった。


「生命とはなにか」。この人間の根源的な問いに対して、分子生物学の観点から説明するのがこの本である。石ころに生命はない、貝には生命がある。この「生物と無生物のあいだ」には一体何があるのか。そこを考えていくことで、新たな生命観を打ち出していくのである。


これだけ聞くと、専門的で難解な知識を書き連ねていくのではと思われるだろう。しかし、その文体が他の専門家の書くものとは一線を画していると、僕は思う。とてつもなく文章が上手いのだ。小説に比べ、ドラマティックでもなければ、ロマンティックでもない。しかし、その滑らかで美しい文体によって、ある種の美しいストーリーになっているのだ。そこに、この本のもう1つの特徴がある。


著者自身も専門論文を書く一方、「専門家にしかわからない“楽譜”を見せ合う以外に、分野外の人にもわかるように“演奏”しなくてはならない」と、わかりやすく解説し執筆する姿勢も大切にしている。

読んでみると、中には難しいところもあるにはある。しかし、全体を通して分かりやすく例えることで非常に読みやすい文章になっていると思う。それに加え、前半には有名科学者の輝かしいサクセスストーリーの影で、ひっそりと活躍していた科学者の奮闘記などもあり、物語としての面白さもあるので楽しめると思う。


是非、読んで欲しい1冊である。


脳科学者の茂木健一郎さんはこう評する。「福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと詩的な感性の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。