日本経済新聞によると、太陽監査法人は2024年1月末までに金融庁に業務改善計画を提出します。
ディー・ディー・エス(DDS、2023年8月に上場廃止)に対する監査に重大な不備があり昨年12月に行政処分を受けていました。
企業の監査人交代の受け皿役を積極的に引き受け、大手法人の一角をしのぐ規模まで成長してきた太陽監査法人の拡大路線は方針転換を余儀なくされます。
2023年12月下旬、監査業界に激震が走りました。
「重大な虚偽記載がある財務諸表を虚偽がないと証明した」として、金融庁が太陽に対する処分を公表したためです。
処分内容は2024年1〜3月における新規契約締結の停止や業務改善命令などで、9,595万円の課徴金納付命令も出ました。
監査法人への課徴金納付命令は会計不正があった東芝を担当していた新日本監査法人(現EY新日本監査法人)が2015年12月に受けて以来です。
公認会計士法上の課徴金制度が導入された2008年以降で2例目と、ほぼ例がないのです。
事の発端はDDSの会計不正です。
2022年5月に売上高の過大記載の疑いが発覚しました。
貸倒引当金繰入額の過少計上なども明らかになり、訂正報告書の提出を求められていました。
DDSは2022年8月12日に太陽監査法人の監査意見付きの訂正報告書を提出しました。
しかしながら、当期と前期の繰越利益剰余金の差額が損益計算書の最終損益と整合しないなど多くの虚偽記載があったのです。
実は太陽監査法人は、DDSの訂正報告書のドラフト段階で修正が必要な箇所があることを認識しており、修正が必要な箇所もDDSに伝えていました。
ところが、DDSは修正しないまま提出を強行してしまったのです。
太陽監査法人の石井雅也経営管理本部長は「クライアントへの指導力不足が露呈した」と語っています。
今回の失敗はいくつもの要因が重なっています。
DDSは度重なる不正で経理人材の退職が相次ぎ、正しい財務諸表を作る能力が著しく下がっていました。
また、訂正報告書の提出がこれ以上遅れれば、上場廃止になると焦っていました。
太陽監査法人の担当会計士は「指摘部分は当然修正されるはず」と考え、業務効率化のため事前にレビュー報告書を渡していたのです。
青山学院大学大学院の町田祥弘教授は、太陽監査法人について「中身を確認せずレビュー報告書を事前に渡すなど言語道断だ」と話しています。
金融庁の担当者も「簿記3級程度の基本的部分の見逃しで到底考えられない」と憤っているようです。
太陽監査法人が規模を急拡大させてきたことへのひずみを指摘する声もあるようです。
上場企業監査顧客数は350社と2019年比で6割増えました。
監査業界で太陽は「ビッグ4」と呼ばれる大手に次ぐ「準大手」の位置づけですが、上場企業顧客数だけでみれば大手の一角のPwC Japan(約200社)より多いのです。
ある大手法人の公認会計士は、「公認会計士の負担が増すなか太陽監査法人側の顧客受け入れや従業員の教育体制が十分だったか疑問だ」と話しています。
太陽監査法人がリスクの高い会社の監査の受け皿になっていたという事実もあります。
5〜6年前から企業が会計監査人を大手法人から準大手や中小に交代する動きが加速しています。
金融庁傘下の公認会計士・監査審査会によると2022年度の監査シェアは準大手と中小法人が合計で40%を超えました。
人手不足に悩む大手法人は、不正リスクが高く採算も厳しい中堅中小企業の監査を絞る、実質的な顧客選別を進めてきたのです。
大手法人から切られた企業にとって太陽監査法人は頼れる先で、金融庁などが課題視する「監査難民」問題の緩和に一役買っていました。
DDS事案を教訓に、太陽監査法人は監査や審査体制の見直しを始めました。
顧客のガバナンスリスクに応じた適切な人員配置ができるようにします。
さらに、今後はリスクの高い企業の監査契約にはより慎重になる公算が大きいでしょう。
よって、拡大路線にはブレーキがかかりそうです。
駆け込み寺的な役割を担っていた太陽監査法人が選別を始めれば、国が進める新興企業などの育成に支障がでる可能性が高いです。
しかしながら、DDSのように「上場の意義を理解していない企業が存在しているのも事実」(町田教授)です。
監査インフラが有限である現実を踏まえ、野放図な上場企業増加も見直す必要があるでしょう。
事前にレビュー報告書を渡すというのは完全にアウトですね。
太陽監査法人が駆け込み寺みたいになっていたのは知りませんでしたが、駆け込み寺となる監査法人が今後出てこないことを願いたいですね。
監査法人が会計監査を引き受けないような会社は、何かしらの問題があるということでしょうから、上場にふさわしくない会社ということでしょう。
急拡大でひずみが生じた太陽監査法人が業務改善計画を提出することについて、あなたはどう思われましたか?