「その資本コスト低すぎます」と市場が暴く甘い見積もり! | 体脂肪率4.4%の公認会計士 國村 年のブログ

体脂肪率4.4%の公認会計士 國村 年のブログ

香川県高松市で会計事務所(税理士・会計士)をやっている公認会計士・税理士です。●棚卸●事業承継●M&A・組織再編●贈与・相続のコンサルティングをしています。会計・税務に関することなら、お気軽にお問い合わせください。

日本経済新聞によると、2023年12月11日の日経平均株価は反発し、上げ幅は一時600円を超えました。

追い風の一つは企業統治改革への期待ですが、上場企業が見積もる資本コスト(投資家の期待リターン)への市場の目は厳しいです。

前提条件によって数値のブレが大きく、投資家と認識の差が生じやすいものです。

説得力が欠ければ、企業価値向上策への信頼も揺らぐでしょう。

 

「株主資本コスト4〜5%強は低すぎる」と、熱収縮性ラベル大手フジシールインターナショナルは今夏、国内外の株主との面談で指摘を受けました。

同コストの開示を始めましたが、株主の目線は2〜3ポイント高かったようです。

 

株主資本コストとは株主の期待収益率のことで、東京証券取引所が要請する「資本コストや株価を意識した経営」で重要視されています。

理論上はROE(自己資本利益率)が同コストを上回る時に企業価値が拡大します。

算出法は複数あり、正解があるわけではありません。

 

フジシールは、2023年11月、指摘を踏まえ同コストの想定を6%弱〜7%弱に引き上げる検討をすると表明しました。

「資本コスト超え」とみていたROE(6%)も上積みが急務になります。

 

株主との認識が違った主因は、資本コスト算出によく使う数値「ベータ値」のようです。

 

ベータ値は相場全体の変動に対する個別株の変動の大きさを示すものです。

ベータ値の取り方によって資本コストの値が大きくブレるため、複数の算出結果を参照したり業界平均を使ったりすることもあります。

フジシールは「資本コストへの理解が浸透しておらず、ベータ値の精査が足りなかった。今後は投資家の目線も参考にする」としています(後藤文孝IR室長)。

 

株主資本コストや、負債コストも加味した加重平均資本コスト(WACC)への認識は企業に広がってきましたが、道半ばです。

 

イギリスのアセット・バリュー・インベスターズの坂井一成共同日本調査責任者は、「企業が考えるWACCがこちらの想定より大幅に低く、株価に照らすと正当化できない場合がある」と指摘しています。

ストラテジックキャピタルの丸木強代表は「証券会社に計算してもらった資本コストだけ認識している企業もある。投資家の期待値なのだから投資家に聞くべきだ」と話しています。

 

生命保険協会によると「ROEが株主資本コストを上回る」と答えた企業は55%でしたが、投資家は4%と差が歴然です。

 

知見が少ない中堅以下の企業は、投資家目線と差が大きい場合が多いとみられます。

大企業でも「市場が考える資本コストは当社認識の水準より高くギャップがある」(三井住友トラスト・ホールディングス)との声があります。

 

日本総合研究所の山田英司理事は「資本コストが低いと事業投資の選択肢が広がるため、企業はベータを低く見積もるといったバイアスがかかりやすい。逆に投資家はリスクを厳格に織り込んだ結果、資本コストを高く見積もる傾向もある。両者で差が出るのは仕方ない面もある」と話しています。

 

大事なのは、資本コストを説明できる方法で求めた上で「投資家に納得してもらえるよう議論すること」(山田氏)です。

収益安定化などで投資家の目線を下げるのも手です。

 

事業別にWACCを開示する味の素は、ベータ値は同業他社の数値も使い算出します。

「投資家から質問があればロジックを丁寧に説明する」とのことです(味の素)。

減配しない方針で個人株主を増やし、株価の安定性を高めることを通じて資本コストの引き下げも狙います。

株価は2020年の資本コスト開示以降で2.7倍になっています。

 

企業に一番重要なのはバランスシート改革や事業再編、成長投資などで結果を出すことです。

前提となる資本コストがあやふやだと施策は説得力を失います。

資本コスト意識が浸透するかどうかは、統治改革期待の持続性も左右しそうです。

 

僕自身は、株価算定業務などを行っているため、資本コストの知識は普通の方よりはあるとは思いますが、なかなか説明するのが難しいので、こういうことをきっかけにでも、資本コストについて、経営者の方などの知識が高まっていくことはありがたいですね。

やはり、資本コストを意識した経営も大事だと思いますので。

 

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