中計のない大企業は株価が上がる! | 体脂肪率4.4%の公認会計士 國村 年のブログ

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日本経済新聞で、藤田勉一橋大学大学院経営管理研究科客員教授が、企業経営の視点から株価を見ています。

結論として、トヨタ自動車、キーエンス、ファーストリテイリングの経営力に注目したいと述べられています。

以下、中期経営計画(以下、中計)をめぐる日本的経営の在り方と株式投資との関係について検討しています。

 

自己資本利益率(ROE)8%、統合報告書、決算短信など、日本独自、あるいは海外ではあまり存在しない事業慣行は数多いです。

例えば、日本ではROEが過度に重視されがちです。

中には「ROE経営はアメリカ型」という誤解がありますが、アメリカでROEを重要業績指標(KPI)にする事業会社はほとんどありません。

 

アップルのROEは175%と著しく高いです(2022年)。

これは過去10年間で83兆円(1ドル=150円換算)の自社株買いを実施し、株主資本比率が67.1%から14.5%に低下した結果です。

言い換えると、株価を高めることが目的であり、ROEを高めることが目的ではないのです。

スターバックスは過去10年間に4.5兆円の自社株買いを実施した結果、株主資本は1.3兆円の債務超過です(ROEは計算不能)。

 

同様に中計を作成、公表するのは日本独特であり、欧米ではほとんどありません。

筆者はその効用を否定するものではないそうですが、大企業には中計は不要であると考えているようです。

一方、中小型企業は中計の策定を通じて、会社全体の運営を高度化、組織化することができるため、中計に取り組むことには大いに意義があると考えられます。

 

1956年に松下電器産業(現パナソニック)が「5カ年計画」を公表しました。

これは1955年から5年間で売上高を年220億円から800億円、従業員を1万1,000人から1万8,000人、資本金を30億円から100億円にするというものでした。

1960年に売上高1,054億円、従業員約2万8,000人、資本金150億円となって、計画を大きく上回りました。

 

こうして「経営の神様」と言われた松下幸之助社長(当時)の手腕は大きな注目を集めたのです。

池田内閣の国民所得倍増計画(1960年から5カ年計画)に刺激され、長期経営計画(5年間)ブームが起こりました。

 

やがて高度成長期が終わり、1980年代には経営計画の期間は3年間が主流となりました。

日本では社長の任期は6年が多くなっています。

中計を2回こなすと6年になります。

こうして、現在では中計は3年が一般的になったのです。

 

中計は株主、従業員、取引先、金融機関、地域社会など重要なステークホルダーに対して、経営計画を知らしめる効果があります。

しかしながら、以下のような問題点があることから、「中計は意味があるのか」という疑問があります。

 

第一に、3年先の経済やマーケットの状況など予想しようもありません。

例えば、3年前に現在の世界情勢や1ドル=150円の為替相場が予測できたでしょうか?

マクロ経済の前提が当たらないのであれば、中計の数値目標には意味がないのです。

 

第二に、コストです。

1年先も読めない時代に、経営企画部は3年先を予想して計画を作らねばならないのです。

さらに多くの部署との調整が必要であり、労力と時間を消費します。

 

第三に、中計の経営目標は経営者のコミットメントではなく、目安に過ぎません。

目標が達成できないので辞任した経営者はあまりいません(例外は、2020年大成建設社長など。)。

 

筆者は長年、アメリカの金融機関に勤めていたそうですが、もちろん中計はありません。

日本のような年功序列、終身雇用制など存在しないので、アメリカでは3年間の中計はなじまないのです。

アメリカ企業では1年間の「短期経営計画」が一般的です。

これは一般に「バジェット(予算)」と呼ばれ、経営者や社員が必ず達成すべき目標値となります。

これらの目標値を満たせないと、報酬や昇進、雇用などに大きな影響を与えるのです。

 

アメリカでは中計がない代わりに、バリュー、ミッション、ビジョン、パーパスのような長期的な理念を重視する企業が多くなっています。

最も代表的な例はジョンソン・エンド・ジョンソンのOur Credo(我が信条)です。

つまり、アメリカ企業は長期的な理念や会社の存在意義などを掲げ、それを目指して1年ごとに数値目標を策定するのです。

それを積み重ねることによって、企業を発展、進化させるのです。

 

日本でも中計を公表しない企業が増えています(作成していても公表しない場合もあります)。

トヨタ自動車、キーエンス、ファーストリテイリング、ソフトバンクグループ、信越化学など優良企業が中計を公表もしくは作成していないのです。

さらに最近、味の素、中外製薬が中計を廃止しました。

中計がない企業は信越化学を筆頭に株価が上昇している企業が多くなっています。

 

成長力の高い中計非公表企業の共通点は、第一にオーナー企業が多く、経営のリーダーシップが強力ということです。

中計を策定しなくても、企業は社長や経営最高責任者(CEO)のメッセージを通じて、株主など重要なステークホルダーに経営に対する考え方を示すことができるのです。

 

これが巧みなのは、ファーストリテイリングです。

柳井正会長兼社長は「次の10年も3倍以上に成長し(売上高)10兆円を目指す」「今が第4の創業である」「世界最高のグローバルブランドになる」など、ワクワクする夢を述べています。

こうした明確なビジョンの提示と毎四半期の適切な情報開示があれば問題がないことは、ファーストリテイリングの業績と株価が証明しています。

 

第二に、これらは明確な企業理念を持っています。

トヨタ自動車の場合、バリュー、ミッション、ビジョンの最上位に、創業者である豊田佐吉氏の遺訓をまとめた「豊田綱領」があります。

つまり、トヨタ自動車の経営理念は会社のDNAに根差しているのです。

トヨタ自動車の株価上昇は加速しており、時価総額43.7兆円と2位の三菱UFJフィナンシャルグループの16.1兆円の3倍近くになっています。

 

キーエンスは「付加価値の創造」こそが企業の存在意義と位置づけ、新商品の約70%が世界初、業界初です。

売上高営業利益率は54.1%と驚異的な水準に達し、当期純利益は過去10年間で5.4倍(2022年度)、同株価は6.0倍(2023年9月末)となりました。

 

他に注目されるのが任天堂です。

過去10年間に株価は5.6倍になりました。

上述の3社はオーナー企業ですが、経営理念として「娯楽を通じて人々を笑顔にする会社」「任天堂独自の遊び」を掲げ、経営者が交代しても独自の企業文化を継承しているのです。

また、ソフトバンクグループは2010年に「新30年ビジョン」を発表しました。

 

これらは中計はないものの、いずれも素晴らしい経営理念を掲げており、そして素晴らしい経営実績を達成しています。

他の日本企業も、「長期的な経営理念+1年間の短期経営計画(必達の予算)」の追求をしてみてはどうでしょう。

 

昔からアメリカは短期志向、日本は長期志向と言われ、これを理由に上場廃止する企業も見られますが、何か違和感を感じていましたが、この記事を読んですっきりしました。

アメリカ企業も、長期的な理念を重視したうえで、1年ごとの数値目標を策定し、積み重ねていくんですね。

ファーストリテイリングの柳井さんのことばにはすごくメッセージ性があると思います。

一方で、PBRが1倍を切っている状況に対し、忸怩たる思いというコメントをしてい大和ハウス工業の社長のことばには、メッセージ性がないということなんでしょうね。

最近、バリュー、ミッション、ビジョン、パーパスが重要という話を聞いたり、記事を目にしたりすることが多いですが、ここが重要であって、大企業には中計はそれほど重要ではないということなんでしょうね。

 

中計のない大企業は株価が上がることについて、どう思われましたか?