東洋経済によると、2024年度の「粉飾倒産」は過去最多の101件を記録し、今年度も高水準が続いています(帝国データバンク調べ)。
こうした中、2025年10月に大型の「粉飾倒産」が関西地区で3件相次いで発生しました。
1社目は、業歴60年を超える総合建設業者「中川企画建設」(大阪府大阪市)です。
同社は近年メガソーラー工事の受注を拡大させていましたが、売上代金の回収長期化などもあり資金繰りが限界に達し、10月9日に大阪地裁へ会社更生法の適用を申請しました。
負債は債権者約608名に対し222億円にのぼり、建設業では2025年最大の倒産となりました。
2社目は、婦人服の縫製加工を行っていた「阪神服装」(兵庫県西宮市)です。
近年はスポーツウェアや制服などの分野に進出し、業容を急拡大させていたかに見えていましたが、突然資金調達に変調を来して事業継続を断念しました。
10月24日に事業を停止し、自己破産申請の準備に入いりました。
負債額は62億円にのぼります。
3社目は、カプセルトイ(いわゆる“ガチャガチャ”)の専門店「ガチャマンボウ」を展開していた「ネクサスエンタープライズ」(大阪府大阪市)です。
業界注目のスタートアップと見られていたが、創業者の急死をきっかけとして取引金融機関の支援を絶たれ、10月28日に65億円の負債を抱えて、大阪地裁より破産手続き開始決定を受けました。
これらの経営破綻は、倒産被害に巻き込まれた金融機関や取引先の数も多く、全国的にも話題を集めました。
3社に共通するのは、従前から「不適切な会計処理(=粉飾決算)」を行っていた点です。
見かけ上は“順風満帆な優良企業”を装い続けた末に、突如として行き詰まるケースが後を絶ちません。
「粉飾決算は文化だから。」
そう言い放ち、豪快に笑う支店長が、ある信用金庫にいました。
「決算書分析だけでは限界がある」「長期にわたって粉飾決算をされると、正攻法のアプローチだけでは見抜けない」とも語る彼に、粉飾決算の兆候に気づくための7つの極意を聞いています。
①急成長企業
業種、規模を問わず、企業の業績は良いときもあれば、悪いときもあります。
同じ業界、同じ規模の企業の業績が悪いのに、その会社だけ「業績絶好調」はありえません。
構造的な不況業種の中で、1社だけ急成長しているのも怪しいです。
過去の業績推移を振り返り、日本中で社会経済の動きが止まったコロナ禍(2020~2022年)に「増収増益」を続けた企業があるとすれば、良くも悪くも何かしらの“カラクリ”があります。
極端なことを言えば、このご時世で売り上げが急上昇している企業は、一度疑ってかかるべきとも言えるでしょう。
②取引先の業績と整合性が取れない企業
仕入先や得意先の業績もあわせて確認しましょう。
ある企業の業績が伸びていれば、その仕入先や得意先の業績は増加基調にあるのが普通でしょう。
取引金額の整合性も要注意です。
ある仕入先との直接取引額が5億円あったとして、その仕入先の年売上高が1億円しかないのは明らかにおかしいです。
それでも、「取引先業績との整合性」という観点は、意識していないと見落としてしまいがちなポイントです。
取引形態により一概には言えませんが、どちらかが嘘をついている可能性を考えるべきでしょう。
③バンクフォーメーションが変化した企業
バンクフォーメーションとは、取引金融機関との関係性(主に融資シェア)のことを言います。
a)メインバンクはどこか、b)取引行数は適正か(=多行取引に陥っていないか)、c)地元以外の顔ぶれはどうか(=越境融資の状況)は必須の確認項目です。
中でも大事なのが、これらの「変化」です。
通常、こうしたバンクフォーメーションが変わることはそうそうありません。
にもかかわらず、メガバンクの名前が取引行からいつしか消えていたり、地元以外の金融機関が入ってきたり、しかもその融資シェアが上昇していたりしたときには、警戒度を一段引き上げなければならないでしょう。
既存の取引金融機関が「何か」に気づいて動いた可能性が十分考えられるからです。
④詳細な資料提出を断る企業
これだけ「粉飾倒産」が相次ぐと、貸し手側が新規融資に慎重になるのは当然です。
足元では、銀行口座の入出金明細書のほか、預金の残高証明書を偽造する悪質なケースが散見されます。
このため、これまで求めなかった詳細な資料提供を求めるようになった金融機関の話も耳にします。
資料提供に応じない企業には「一切融資を行わない」方針とした金融機関もある中で、それでも資料を出さない(出せない?)企業には、何か“秘密”があるのでしょう。
業績が良い時は金融機関に対して流暢に説明しますが、業績が厳しくなると、一転して口ごもるようになる企業側の説明姿勢にも通じるものがあります。
⑤適正な金利水準ではない企業
「金利ある世界」がすでに始まっており、企業側にとって今後の利上げ局面はコスト増がさらに重くのしかかります。
このため、少しでも金利が低い企業の方が、対外的には「良い会社」と評価されるのが一般的でしょう。
ところが、(市場の相場や、業界内の平均値に比べて極端に)低すぎたり、高すぎたりする企業は考えものです。
どちらのケースにおいても何らかの「理由」があり、企業側と金融機関との力関係が歪なものになっている可能性があります。
前述した「③バンクフォーメーションの変化」とあわせて注視したいポイントと言えます。
⑥悪評が聞かれる税理士が関与している企業
昔も今も、中小企業に「粉飾決算」を手ほどきする、筋の悪い税理士や自称コンサルタントは存在します。
最近では、企業に粉飾決算を指南する税理士が暗躍中とされており、企業の決算書作成に関与している税理士名のチェックが、融資審査における「新たなスタンダード」となりつつあります。
中には、特定の税理士名が出てきたら、融資を見送る『NG税理士リスト』を本店で作成している金融機関もあるようです。
そのリストを営業店に共有し、融資候補先でヒットすれば法務部門と連携して対応しているそうです。
会社側には詳細な資料(税務申告書類等)の提示を求め、これに応じない企業には融資しない方針に切り替える地銀も出てきました。
⑦アポの時間と場所を、過度に気にする企業
良くも悪くも、企業はトップの考え方が色濃く反映されるものです。
明示的に社長が粉飾決算を指示するケースが多いですが、業績必達への過度な重圧から、周囲の取り巻きがトップに忖度して粉飾に手を染めるケースもあります。
「訪問アポの時間と場所を過度に気にする企業」も考えものです。
過去の粉飾事例を振り返ると、ある会社を金融機関の営業担当者がアポなしで訪問したら、烈火のごとく先方の経理部長から激怒されたことがあったようです。
結論から言うと、その会社は借入金を簿外化(過少計上)する手口で、多くの金融機関から不正に資金調達していたのです。
金融機関としては、オフィスの近くまで来たのであいさつするためでしたが、会社側は(借入金を簿外化している事実を隠している状況の中で)金融機関の担当者同士が鉢合わせしてしまうことは、何としても避けたかったのでしょう。
金融庁は2025年6月30日に『金融機関における粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたモニタリングレポート(2025)』を公表しました。
そのレポートの中で、具体的な粉飾等の事例が詳細に記載されているため、ぜひ参照にしてください。
昨年来、粉飾決算が相次ぐ現状に、金融当局も警鐘を鳴らしており、来る2026年はこれまで以上に警戒度を高めていく必要があるでしょう。
会計事務所をやっている人間としては、⑥の『NG税理士リスト』に入らないようにしないといけないですね(笑)。
僕自身も、税理士変更やM&A案件やコンサル案件などで、他の税理士の記名のある申告書を見て、この会計事務所は大丈夫なのだろうか?と思うことが年に数回はありますので、かなり多くの申告書を入手している金融機関だと明らかなんでしょうね。
金利のある世界になり、来年から『事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)』が施行になり、事業性融資が促進されるため、普段から金融機関とのコミュニケーションを図っておかないといけないですね。
"信金の支店長"はここを見る《粉飾決算》を見抜く「7つの極意」について、あなたはどう思われましたか?




