保険の解約で保険屋に手続きをしてもらった。

割と忙しなく淡々と話を進めたかったが

辞めたらどうするのか

という話から始まりその都度世間話をうだうだと続けた。

はっきりいってそれもビジネスする上で効率が悪いようで相手の気を良くするテクニックなんだと思いながら

流すように会話して

保険屋は終始笑顔でよく喋る。



相手は女性で歳も5歳以上上だが

完成された笑顔と客である1個人の俺と

歳下であるという観点で

上手い具合に敬語とタメ口を使い分ける。

そこにどのようなロジックがあって線引きをしてるかはわからないけど

強調したいところを親しみを込めて

タメ口を使っているようにも思えた。

特に共感や相手を褒めたりする時などは

そうなんだ!頑張ったねえ!なんて

ハキハキとタメ口で話すが

そこに至っては特に悪い気はしなかった。



邪推すれば

お前に俺の何がわかるのか

本当は興味無いくせに人の内側に突っ込んで

なんにもわかんないくせに評価してんじゃねえよ

利害関係の中で友達づらすんな

とも思えるが

表面上での関係性はこんなものであり

そのような事を前提とした関係性ならお互いが不利益がないように思える。



俺は薄情だしそもそも客として出汁を取ろうとして

あの手この手で契約を取ろうとする

保険屋は普通に扱いを雑にしてるし

しつこく勧誘するので宗教家と同じように見てて

本当にうざい時は

ドタキャンした上に連絡もしなかったりと

酷い扱いをしても

彼らは必ずまたここに来る。




その関係性に価値とかがあるんじゃなく

ある程度のラインまで引っ張って

目的のためだけの関係性にしか価値を見出してない。

彼らにはそこら中に出汁をとる人材が転がっているようなもので

どんなに雑に扱われようが

金と契約のために行動している部分で考えるに

どうでもいいのだ。

それ故にこちらも考える必要がなく

お互いがお互いをどうでも良くて

ただまあ上手い話に賛同するご都合の良い利用者を捕捉するためにさまよってるだけでしかない。



相手を思ってではなく

利用してもらうために、好印象を残すために

常に態度はよく、話せば大抵は同情するし共感する。

例えそれが無機質だとしても

本心ではなかったとしても

俺はそれでいい思いができていて凄く心は軽く感じる。



自己を犠牲されるほど

気持ちのいいものはないんだと思う。

犠牲にする方は苦しいんだろうな。

上司と距離を保つために

俺は幾度と自分を犠牲にしてよく笑うし

笑えば笑うほど疲れるが

それで関係を保っている部分はある。



保険屋との会話は気を使わなくて済む。

申し訳ないが凄く気軽で話しやすい。

話しやすいほど相手は気を使ってるからストレスだろうけど

本心で俺はそうしてくれる人が周りにいないから

凄くいいなと思う。

身勝手でもそこに愛も情もなくても

俺は人と会話してこんなに安心できることがない。



深く人と関わって

自己開示してお互いを考えて欲しいと思うと

相手も同じように思ってる。

自己犠牲のやり合いも相手が1度する必要がないとみなした場合は一方的にこちらが不利益を被り虚しくなるだけである。



俺の周りはみんなそうだ。

最初だけは優しく対等に接してくれても

相手がわかればすぐにバカにして悪さをしたり面白がって笑って嫌な思いをさせてきたり

自分だけがいい思いをしようとするために動こうとして

適当になっていく。



深く関わればより一層

相手を考える必要があっても

みんな楽をしようとして適当で雑な扱いをしてくるのは

どうでもいい存在だと思っているから。

俺はどんなに色んな人と関わっても

みんな適当で俺の扱いはいいものじゃなかった。



だからまがい物の愛であっても

ビジネスとしての関わりであっても

俺はなんかあれだけ人に優しく丁寧に話してもらえて

本当に感動してしまった。

それだけ俺の周りは

俺に冷たくて否定と罵詈雑言と雑で適当でゴミのような扱いしかしてくれなかったなって

色々振り返ってしまって

凄く辛くなった。



本当に今まで自分の意思を殺してきて

意思を出しても否定されて

誰との会話もなんにも楽しく思えなかった。

保険屋さんが

初めてなんにも知らない人の中で

1番優しかった。



仕事辞めたらゆっくり休んでくださいね。

1年5ヶ月もやめられなかったんですか、

大変すぎますね、本当にお疲れ様でした。

何やられるんですか。音楽の仕事やるって言ってましたよね。

本当にやるんですね!

まずは進学するんですよね?そっかそっか。

頑張ったね。



嘘でも適当でもそれでも肯定されて

俺は本当に泣きそうになった。



お前なんか失敗する。

どうせ後悔する。

そんなんで生きていけるわけないじゃん。

お前の人生なんてきまってる。たかが知れてる。

どうせ無理。

やめられないのもお前がわるい。

全部お前のせい。

お前の人生はおわりだ。

どうせお前は再入隊する。

お前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんかお前なんか。



否定され続けて

今までどれだけ周りに俺を想ってくれる人がいなかったかわかった。



俺無機質でもいいや。

そういう愛ですら貰えなかった人生だったから

建前でも褒められて

認められて

嬉しく思えるなら。