疲労がピークを過ぎると

もしくは体が死ぬ間際って幻覚見るんですよね。

異常をきたしているから

思考も鈍るし

おかしくなった時というのは本当に奇妙なものを見る。



僕が当時自衛隊での訓練で雪山の森の中で

状況下入って

敵が出たため対処に向かうんですが

その訓練では人手がおらず

唯一のバディと別行動をして

敵の対処に一人で向かうという異例の事態が起きてました。



マイナス20度の真夜中、

運がいいことに無風かつ移動命令が出された場所は開豁地域でその場まで移動したのち警戒しながら待機していました。

実際移動命令された場所で見張る場合、開豁しているとゲリコマにバレやすくてダメなんですが

俺からしたらいただきで

なんせ休憩ひとつろくにとってない

1日目で疲労困憊してた上に

夜光が見えるから見張りやすいという面もあって

待機場所で座り込んでました。



それこそ酷いことに集結地の移動はスキーですが

索敵以降はツボ足なので

道無き道を永遠に歩いているという

それが非常にきつかった。

とにかく休む暇なくアホみたいな荷物背負って

何十キロを歩いていたので

マイナスいってようが汗だくで

持ってきた水分は底を尽きてたり凍ってたりで

踏んだり蹴ったりの中の唯一の一人行動だったため

安堵しました。



最初の15分くらいは涼しいなあ

足痛いなあと思いながら警戒してたんですけど

だんだん汗が冷たくなって体温が奪われるんですね。

30分もすれば死ぬかと思うくらい寒くなり

体の震えも止まらず

座ってられなくなっていました。



待機命令が出されていましたが

解除命令を受けるにも連絡の取れる無線機も

人による逓伝もないので

待ちぼうけ状態。

1時間もすれば足と手に感覚がなくなり

予備の手袋に変えたり

必死に体を動かしたりしましたが

まるで無意味で寒さにより

段々ボケが始まってくるんですね。



結構直感で死ぬということのラインってわかるんですけど

1時間すぎた辺りからこれ以上続いたら死ぬって

思って必死に体動かしてたんですけど

感覚がなくなってきたあとは疲労による睡魔が来るんです。

頭が動かなくてぼーっとしてしまい

目を瞑ると死ぬとわかってか細い声で歌を歌って

気を紛らわせながら

何となくわかったんです。

これ俺忘れられてるって。



その通りでした。

当時俺は新隊員で認知されてなくて

現場はどこに誰を配置してるかなんて掌握しきれておらず

俺だけ現地に置かれたまま

とっくの昔に警戒なんて解除されてたみたいで

暖を取るためにみんなこぞって休憩に入って

ここぞとばかりに休んでたらしくて

俺とその他数名が取り残されてる状態という

最低最悪のお粗末具合でした。



もちろんそんなことは知らない俺は

死にかけながら警戒を続けているんですが

ひとりって結構怖くて仮に敵がでた場合は

ひとりで対処しないといけないし

そんなの複数できたら勝てるわけないやん

って話ですが

俺みたいな雑魚に指摘できる資格もなく

また人的な問題で仕方ないのですが

内心は対敵行動どうしようかっていう部分で

おっかなかったんですよね。



そんなこともつかの間

1時間半経ったくらいに

俺が警戒している方向の右を見渡した時に

黒い影が見えたんですね。

で、こっちに近づいて来てるので

最初は味方かなと思ったんですが

眠過ぎて目がボケてて

近づいたり遠くなったり一定じゃないんですよ。



なんか嫌な感じがしたので

銃を向けながらずっと見てるんですけど

やっぱり人影で

連絡伝えに来た人だったら名前呼んでくれるだろうと思い

これもしや敵か?と思ってしばらく見てたんですが

ボヤけててなんだか分からず仕方が無いので

止まれ、動くなと誰何したら

反応がなく、

あ、これ俺狂って変なもん見えてんのかなと思い

目を擦ってもう一度見ると

そんな影なかったんですよ。



そもそも開豁地域で夜光で影ができるのはそうですが

林内なのでまばらに影ができるから

人影が大きく立体的に見えるわけもなくて

ああ、俺幻覚見えたんだなあと実感しました。

こりゃそろそろ死ぬんかなあと思いながら

2時間経過した時にバディが来てくれて

その後も永遠に歩き続け

また警戒に駆り出されを繰り返し

朝になりました。



俺から言わせてもらえば極限状態になると

ありもしないことが起きても

目に見えてる情報しか頼れない時は

どうしても信じ込むしか無くなるくらいに

思考が狂うんですよね。

3日とか寝てないと人の名前も呼べなければ

ゾンビみたいに這いずって

会話も成り立たなくて

今まで我慢してた感情や苦痛が溢れたりする。

それは日常でも一緒。



本当に恐ろしいことは

自分が狂うあるいは狂っているということをエビデンスを立証できる余裕が作れない限り

いつまでもいつまでも発狂し続けて

壊れていることに気づけない。



俺が気づけたのはその影が消えてくれたという根拠の元であって

後日談的に言えば

逆サイドから敵は回り込んできていて

そこに在中していたバディが処理したらしいので

完全に俺は何かがおかしく

変なものを見ていたんだと思います。



オカルトは一切信じないので

そういった類のものだと思わずあたふたもしなかったので良かったですが

実際ひとりでくらい森の中で何かと戦わないといけないって

怖いですよ。

そういった環境下では案外自分が壊れ始めていることって気づけない。



金縛りとか

良くない夢を見るとかそういう類も

実際は自分のどこかが壊れている証拠で

変なことが動作してるのかなって

こういう経験からしてみれば思います。



後日風呂に入った時には

足と手は凍傷で

ついでに言えば塹壕足で痛くて痛くて仕方がなかったです。

痛いと言うより痺れて動かせないんですよね。

すげー経験だったなと思います。




 

 

 

 

 

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