大切に育てられたんでしょ。

そんな目をしてるよ。私にはわかる。

職場の人間にそう言われ

人は色々あるんですよ、と返した。

絶対にそんなことないと返された。



人は見えない。

話しても理解されることもない。

自分でしかわからない。

いくら嘆いても喚いても

わかって貰えないことも知ってるし

わかって欲しくて苦しい痛みも知ってる。



俺は自衛隊に入った。

強くなりたかった。親の前から消えたかった。

ひとりでも孤独でも生きていこうと自ら意思を決定すること、選択することをしないといけなかった。

誰も飛び込みたがらない世界にひとりで入って色々経験して強くなる必要があった。

世の中の弱い奴らが寄り添って生きて、俺を傷つけてきた社会や人間を嘲笑ってやりたかった。

そして俺はイカれた家族によってできた過去や

親のことを理解する必要もあった。



俺の父親は自衛官で鬼畜だった。

毎日殴られ酒浸りの父親に怒鳴られ萎縮して

物心着いた時から生きるのが嫌だった。

母親はアダルトチルドレンで

勝手に産んだ挙句に生活が困窮した責任を全部俺に擦り付けられた。



母親との時間が多かった。

ママ友と電話をしながら聞こえるように俺の悪口を言う事がストレスの解消で

また度々奇声を発して発狂して言葉にもならない何かを俺に言い続ける。



自衛隊に入ってわかったが

父親は俺を陸士の時に産んでおり

当時は月給も少なく生活は最悪で

金がないから貧乏でそれが原因で家庭は不仲であった。



昇任をして陸曹になると給料が上がり

その階級になってから結婚や家庭を持つのが自衛隊でのセオリーだが

それもせずに産まれてきた官品の子供は

大抵がデキ婚であるのは今も昔も変わらなかった。

確証はなくとも俺はそれくらい無責任の中に産まれた無価値な生体だった。

ただの快楽で産まれた望まれぬ子供ではなかったら

死ね等と言われなかったと思う。

きっと。



離婚の引き金だった自分は幼稚園の年長の時に

どちらについていきたいかを選べと言われた。

今となれば母親についていくことくらい確定してるとわかるが選ぶ権利があったとして

そんなのどちらがいいかわからなかった。

わかるわけがなかった。



俺はただ泣いていた。

母親はソファに寝そべり適当に俺を見つめていた。

俺は覚えているよ。

生きることは既に辛く厳しかった。



押し入れに閉じ込められたり

夜になると暗闇の部屋に入れられ

出てくるなとだけ言われ

怒鳴り合いが聞こえ覗き穴でずっと除く。

毎日毎日同じこと。



パチンコと酒に溺れ酔った中で殴られて

部屋の隅で毎日泣く。

母親は常に発狂して今すぐ死ねと包丁を渡して

自殺をしろという。

俺は望まれて産まれていない。

とわかった。



学生になり同級生が親と手を繋いでいる光景を眺めていた。

家族と話している隣の子

友達ができたと自慢している子

俺は世間を知らなくて

自分と違う何かを持っていて

無償に与えられていることを知った。

俺は何もかも与えられていなかった。



中学生になり等々ストレスと思春期も重なり

重度のうつ病や色々な障害等も増えて

健全な生活も自由な時間も失った。

親からの暴言は毎日で

部活動をなけなしに通ったが

休む暇もなく人間関係でもかなり負担がかかり

おかしくなった。



中学2年で自殺をしようとしたが

あと少しのところだったのにドアノブから自転車のロック用の輪が取れて意識を失ったまま

無駄に死ねずに生きてしまった。

その時にもう俺は元に戻れない人間だということを知った。



もうダメなんだなと。

最初から何も持ってないものを自分ひとりで穴埋めする暇も方法もない。

必死に生きて

何かを犠牲にして

そんな必要のない人間と比較され

皮肉にもその価値を測るのは無価値の上で俺を産んだ親だと思うと



人生全てがくだらなくどうでもよくなった。

俺の人生はこんなにも粗末でゴミの塊のような価値なのに

周囲の人間はくだらないことで辛いだの苦しいだの

恵まれてる人間に限って完璧を求めて粗を探す。

本当にくだらないのは俺のような人生だと。



恵まれて欲しいものが手に届く可能性が高い奴らが根こそぎ弱者の芽を摘む法則に絶望しながらも

そんな簡単な苦痛ですら乗り越えられないカスの集まりを

自分だけが納得できるように出し抜いて

腐った家族もいじめてきた人間も

社会の強いフリした弱いやつらも

みんなを笑って死のうと思った。



俺はひとりだし

誰かが理解してくれることも

加味して優しくしてくれることもない。

俺は俺で選択するための経験は浅い奴らよりも十分にあって

俺はこの人生や選んできたことは間違ってない。

ガキの頃に選ばされたあの時のようにはもういかない。



どれだけ俺が表面的に綺麗に見えようがどうでもいい。

他人から決めつけられようと俺は俺。

お前に俺はわかるわけがない。



クソみたいな時間を過ごしクソみたいな経験をしたという人生の全ては必ずどこかで俺のためになる。

そしてそれがどうであれ俺が選ぶ時が来た時にきっと台座になって支えてくれる。

生きていてよかったなんて言わないし

普通の人々のような幸せなど一生持つことは無理だが

別にいい。たまに引っかかるけどどうでもいい。

どうせすぐに死ぬんだから。



俺は強くなったと思う。

こんな酷い人生をよく耐え抜いて生きてきたと思う。

俺は世間の雑魚どもを見て大いに笑う事ができたし

そんなのが作るこの社会に興味すらない。

あとは過程を踏んで

静かに死のうと思う。



俺はどう言われたってどうも思わない。

自分が大事にされてきたように思えるならそれは嬉しい限りかもしれない。

俺はまともな振りをして周囲に溶け込んでいるから

俺は普通の人間と同じように擬態できているのだと思うと

よくやってるんだってわかるから。



無敵だ。素晴らしいよ。

自分の鼓動も呼吸も静かになりつつある日々は

今までにない豊かな期待と

まるでゲームが最終戦を迎えるような

ようやくかといった安心と胸を撫で下ろすような気分で

心の中の目的も果たせたからよかった。

俺が俺でいることができたこと。

自分を好きに思えたこと。

それで十分。