ラブアンドペディグリー8(CM) | Fragment

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ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

涙が出る瞬間を感じることが出来なくなってしまったのだろうか。
この前も、今日も、泣いていることを兄に先に気づかれるなんてね。

僕を抱きしめてくれた兄の腕はとても優しい。
とても温かい。
このまま全部なかったことにして、兄の腕のなかで眠ってしまいたい。
そして起きたら何もなかったことになっていて、僕と兄はこれまでもこれからもここでふたりで生きていく。
それだったら、どれだけ幸せだと感じられるだろう。

好きという気持ちに気づかなくてもよかったとさえ思う。
何も変わらず、何も失わず、何も得られなくても、このまま兄弟として生きていけたらいいのに。

ダメなのかな。

ダメなんだと思う。

やっぱり互いの心は独立して、芯を持って生きなくちゃいけないのだと思う。
でも僕は、それをどうしたら自分が得られるのかがよくわからない。
ただ弱く情けない生き物でしかない。

わかっていても、離れることがとても怖い。

怖い。

違う明日が来ることが、とてもとても恐ろしく感じてしまうのだった。


高校を卒業する頃になれば、離れて暮らすことは家族として自然なことなのに。
僕はその経験がないまま、兄からの溺愛を受け止めながら生きてきた。
同級生だって、近所の同世代の友人だって、みんな実家を離れて生きているし、家庭を持って父親をしている。

その自然な変化に、自分にはどうしてこうも耐性がないのか。

それは溺愛されていたものをそのまま僕自身が兄弟以上の感情を潜ませていたからだった。

兄が好きだった。
それに自分が気づいていなかった。
だから今、僕は離れていこうとする兄に駄々を捏ねているのだった。







『…チャンミン、』

上から降ってきた声は、色々な色を含んでいたような気がする。
嬉しい時の声、悲しい時の声、困っている時の声。
全部含まれていたような気がする。
だから僕は、どんな顔で拾って上げたらいいのかが分からなかった。

抱き寄せられている状態で、兄の顔を見上げている。
僕は初めて兄にドキドキしている気がする。
初めて女の子と付き合うことになった時と同じような、そういうドキドキを感じていたのだった。

ああ、僕は、やっぱり兄さんが好きなんだ。

そう思って、見上げていた。

兄の目が細められ、苦しそうに眉間を寄せ、瞼を伏せた。
唇はきつく締められ、頷くように僅かな瞬間で俯いた。
その一瞬の表情の変化を見ていると胸が痛かった。
苦しかった。

『ごめん、』

『、』

何に対しての、その言葉なのだろう。
僕が好きだと言ったことに対してだろうか。
きっとそうなのだろう。
僕が最後に発した言葉がそれだったのだから。

僕の気持ちは、地面に落ちてしまった結果になったということかな。
そうだよね。

『俺のなかにある、お前にも見せられない感情は、きっと父さんや母さんを悲しませる。』

どういうこと。

『何より、お前を傷つけることになる。』

どうして。
僕はこれまで、あなたに傷つけられたことなんて1度もないのに。
むしろあなたは、僕を守って生きてきたじゃない。
それとも、もう僕を守るということに疲れてしまった?
それなら、僕は頷かなくてはいかない。

『お前には謝らなくてはいけないことがたくさんある。けれど今は、弱い俺のままではそれすらできない。』

『なん…、』

なんで、どうして。

『俺はお前に甘えきって、結果的に父さんと母さんを悲しませる。だから、もうこの家を出ようと思うんだ。』

だから、なんで、どうして。

『遅過ぎた。』

胸が痛い。
それは僕が言われているようだったからだ。
遅過ぎた。
僕の全てに、そう言えることだもの。

兄離れもそう。
親離れもそう。
仕事もそう。

何ひとつ、僕は大人としてすべきことが出来ていない。

だから兄から離れていく。
そういうことか。
僕がこんなにも情けないから、大好きな兄が離れていくことになるんだ。

『…、兄さ、』

でもどうして、僕を離そうとするのに、あなたの腕は離れていこうとしないの。
僕を閉じ込めたまま、あなたは悲しい顔をしている。
言葉と、体が伴っていないじゃない。

『チャン、』

ねえ、兄さん。

『兄さん、』

こうしたら、離れようとする?
僕からキスをしたら、やめろって突き放す?

肩に手を置いて、逃がさないように目を捕まえる。
それから鼻先同士で少し触れる。
ほら、逃げない。

兄さん、唇を少しだけ貰いますよ。

触れる唇を、唇が受け止める。
ほら、逃げない。
舌を入れたら、引き込まれた。
ねえ、兄さんのほうが誘ってるじゃない。

『んう、』

手首を強く掴まれる。
その痛みが心地いい。
もっと、もっと、もっと強く。
僕を離さないで。
捕まえていて。
そばにいて。

『ん…、』

『チャン…、』

『にいさ、』

行っちゃ、嫌だ。
僕を傍に置いて。
このまま、ずっと。

行かせない。

離さない。

『そばにいて。』

僕を見て。

『大人になって、好きになってしまった僕を、置いていかないで。』

『、』

体が震えたのは、強ばった瞬間。
兄さんが何に我慢をして、何に恐れているのかはわからない。
だって教えてくれないんでしょう?
僕を嫌いになったわけではないのなら、僕は兄さんを繋ぎ止める努力をするよ。

僕があなたにできることを全てやってから、それでも僕から離れていくというのなら、その時に落ち込むことにする。

なんだよ。
さっきまで泣いていた僕はなんだったの。

こんなに強かなやつだったなんて、自分でも驚いた。

それに僕の野心で燃えた唇だったけれど、兄さんだって僕を貪るように吸っているじゃない。
キスを楽しんでいる。
僕の唇で、舌で、体で。

なんだ、もしかして夢のなかでしていたセックスが現実になってしまうんじゃないのかな。

それでもいいよ。
それで僕といてくれるなら、いくらでも抱いてくれていい。


『僕だって、遅過ぎたことに、後悔しているんでから。』


もう1度キスをして、兄の震える指が僕の内股にやってきた時だった。
ほら、僕を求めているんじゃないか。
ほくそ笑んだ瞬間。
近所に出かけていた両親が帰ってきた音がした。
瞬間的に離れる僕達の体。
リビングにやってくる両親。
また西瓜を貰ってきたと苦笑している。
苦笑で返す僕達兄弟。
鼻先で感じる唾液の匂い。
それはとても僕の脳を刺激するものだった。

離さない。
テーブルの下で僕が掴んだままの手を、僕は絶対に離さない。
兄が振り払おうとしても、僕は絶対に離さない。

負けてあげない。
こればかりは、絶対に。




家族みんなで西瓜を囲む時間。
それはもう、これまでの僕達家族とは何も変わらない時間だった。
僕も兄も、両親の話に耳を傾け、相槌を打った。
僕達からも話を振り、両親は楽しそうに笑っていた。
両親は僕の決心を何も知らない。
兄は感じとってはいるかもしれない。

迷っているのは兄の方。
きっと僕の豹変ぶりに困っているはず。
悩んでいいよ、考えていいよ。
僕のことをたくさんたくさん考えて欲しいよ。
離れることに迷ったらいい。
悩んで迷って考えて、最後に僕を選んだらいい。


『父さん、母さん、あのね、』

僕はこの1週間、兄さんのことで頭がいっぱいだった。
そして今までも、兄さんのことで頭がいっぱいだっから、自分の気持ちに気付く暇がなかったんだ。
でもやっと気付いたの。

『このまま兄さんとこの家にいてもいい?』

テーブルの下で捕まえた左手。
それがまた、強ばる瞬間を感じてみた。

『私もお父さんもいなくなったら、この家残っちゃうからね。』

そうでしょう。
そうだよね。
僕と兄さんが育った大切な家だもんね。

『守ってくれるなら、それはそれでありがたいけどね。』

父が言った。

『兄さん、家を出たいとか言うから、』

兄の手が強く震えた。

『あらそうなの?』

『いや、まだ決まったわけじゃなくて、』

そう、迷っているの。
だから、ここにいることを選んでもらうために僕は動くよ。
攻めるよ。

『まあまあ、やっと彼女でもできた?』

やっと?
じゃあしばらくいなかったんだ。

ふうん。

『お父さんとわたしのことは気にしなくていいから、好きになさい。』

それでも僕は離さない。
テーブルの下のこの手も。

ねえ?兄さん。

今度は僕が、兄さんを溺愛してあげる番が来たんだ。
そういうことだね。

覚悟してよね。

30年分の、溺愛返しの始まりだ。












続く
((((;∵))))コワッ

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