ラブアンドペディグリー9(U) | Fragment

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ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

人の道を外れたことをしてしまった。
悔いているけれど、心底悔いているとは自分自身に対してまだ思えていないはずだ。
罪悪感はある。
それと共に得難いものを得られたのも事実だった。
弟の体が欲しいと思った。
悔いている感じつつも、弟の体から得られる快感はとても大きなものだった。

夢現に俺の名前を呼びながら腰を振る様。
求められているような気になってしまう。
力なんて入らない手で、俺の背を抱こうとする。
舌が回らないままの声で俺の名を呼ぶ。
俺に好意を持っているかのように、終始笑いながら抱かれていた。

止められない自分に恐ろしくなった。
いつもの弟の顔に戻って、記憶がないままに俺と接する。

どうしても我慢が出来なかった。
麻薬のように、弟の体が欲しくなった。
深く眠っているくせに、体は俺に開かれるために覚醒しているようにすら思えた。

だから止めれなくなる。
危険だと思った。
いつまでもこのままなわけもない。
近いうちに必ず気づかれる。

嫌われる。
弟にも、そして両親にも。
傷つける。
弟も、両親も。

だから俺は、この家を出てとりあえず弟から離れなくてはいけないと思った。

盛った薬の数だけ、自分に返ってくることはわかっていたのに、止められなかった。


合意ではない行為を重ねる日が増えていく。


血が繋がっていないとわかった時から抱えていた、共に育った弟への狂気。

俺は最も愛してはならない相手を愛してしまったのだった。







小学生の高学年になった頃、両親から俺が血が繋がっていない子どもだということを聞かされた。
チャンミンには黙っていろと言われた。

今度は中学生に上がってすぐ、何故俺が貰われてきたのかを聞かされた。
俺を産んでくれた方の両親は、俺を産んですぐ車の事故に遭ったのだそうだ。
母親に庇われて、俺は無傷で済んだようだ。
母親が俺を産んで、退院した帰り道だったとか。
何故祖父母にあたる人達に引き取られなかったのかはわからない。
その辺は考えない方がいいと思った。

俺が引き取られた理由も聞いた。
けれどそのことは、チャンミンに話すなと言われた。
だったら俺も聞かない方がよかったのではないかとも思ったけれど、聞いたからこそ今の両親も弟のことも大切にしようと思えた。
人には人の、見えない苦悩と葛藤がある。
それを大人になってようやく、なんとなくだが理解できる気がしてきた。

その話は、また後程するとしよう。


俺の名前は、俺を産んだ両親が付けてくれたものだった。
俺を育てるという覚悟は、相当なものだったのではないかと思っている。
だから俺は、育ててくれた両親に不自由のない子どもでいようと思った。
俺を引き取ったことで、俺が産みの両親を恋しがったり知りたがることをするんじゃないかと、子どもながらに思ったのだった。
産みの両親に対して何かを我慢していたわけではない。
会いたい気持ちはあったけれど、もう会えない人達のことだ。
言葉にしない方がいい人達の前で、声にするようなことは決してしなかった。
育ての両親にもそうだが、何よりチャンミンには産みの両親やその家族に関することで不安にさせたくなかった。

弟の気持ちが離れていくことが、何よりも怖かった。

いい息子、いい兄貴でいたかった。
育ててくれたこの家族に、俺のことで不安な要素をひとつも与えたくなかった。
そんな自分が偽りの姿だとも思わないが、自分の中に潜んでいた狂気を知ってしまった時ばかりは、そんな偽善でしかない自分の首を絞めたくなったものだった。

似ても似つかない兄弟。
目も鼻も、唇も、何ひとつ似ていない。
身長だけは同じように伸びた。
弟は何よりも美しい容姿に育った。
でもそれが悪かった。
その容姿も、俺を惹き付けるいけない要素だった。
内向的な少年だった弟が美しい姿に育つと、俺の中にたくさんの不安が生まれた。
弟に寄ってくる人間は敵にすら思えた。
大学生になって彼女が出来た時、俺は自分を抑えることに必死だった。
自分を抑える為に、自分も彼女を作った。
チャンミンが別れた頃に、自分も相手に別れを切り出した。
自分に彼女がいたことを知らせはしなかった。
存在を気付かれてもいいために「女性」にしておいた。
そうしてでも、弟との関係の均衡を保っていたかった。
弟と付き合う相手との関係を、俺の手で引き裂いてしまいそうだった。

次に交際相手ができると、いよいよ弟は自分の道を進むために俺から離れていくのではないかと思った。
それに気付いた頃に、俺は弟に薬を盛った。
強い睡眠薬だ。
そして熟睡しきっているところを襲い、弟の体をひとり楽しんだ。
最初は不安が暴発させた1回きりの行為のつもりだった。
けれど、夢の中で俺の名前を呼んで体を反応させる姿に、俺は2度、3度と同じように薬の力を借りて行為に及んだ。
本人にバレていないことをいいことに、数年間続けていた。
現時点で本人が、俺がしていることに気付いているのかはわからない。
だが、チャンミンの突然の告白とキスを思うと、気付いているのではないかとも思う。
その突然の変わりようにはさすがに戸惑った。
困っている。
気付かれいるのか。
試されているようだ。
俺の「犯行」と俺の長年の歪んだ想いを、揺さぶって試している。

駅で偶然見かけた弟が、女性と親しそうにしているのを見て、俺のなかの狂気が全身に出てきてしまいそうだったのを感じた。
だからもう、弟から離れようと思った。
「犯行」を重ねていくこともよくないことだと自覚はしていた。
けれど、何も気付いていないような素振りをし続けることに甘えて、俺は「犯行」を繰り返していた。
愛する弟を眠らせて行為に及ぶ。
その自分のなかから湧き出てくる優越感と狂気に恐ろしくなった。
だからもう、終わりにするために離れようと思った。
それなのに、離れないと弟から先手を食らってしまった。
それも、両親の前で。
同じ家に住んでいて、自分が知らないうちに犯されているにも関わらず、あの弟は俺とこの家に住み続けると言う。

何も知らないくせに。

俺のなかにあるこの汚い感情も、眠らされているうちにされている行為のことも、その時の自分の顔も声も、何もかも、知らないくせに。

それらを知った時、きっとお前は俺を軽蔑以上の目で見て、呪うように俺を突き放すだろう。

だから、そうなる前に、全ての感情を思い出にして切り離すべきだった。
物理的に触れられない場所へ行くべきなんだ。
俺が。

それなのに。

それなのに。






『ねえ、明日はどうする?』

明日は日曜日。

『兄さん、ジムに行かない?週末一緒に通おうよ。』

一緒に。

『どうせ鍛えるならやっぱりいいトレーニングマシーンがあるジムでやろう。』

そうなると、週末の行動パターンが出来上がってしまうではないか。
ジムに入会してしまえば、通える範囲でしか暮らさないじゃないか。

俺の決心とは、その程度のものだったのか。

『泳げるジムがいいかな、ねえ、それとも格闘技のジムにする?』

『いや、普通のがいい、』

なんだよ。
行くのかよ。
俺はこんなにも意思が弱い男だったのか。
これまで家族に対して徹底した態度を貫いてきたというのに。
惚れた弱みというものも、また極端なようだ。

『どうして?』

『…、』

若い男ばかりしかいないジムに行かせたくないとも言えない。

『静かに走りたいだけの日だってあるだろ、』

『ふふ、うん、そうだね、』

そういう笑い方がいけない。
俺の胸の奥をくすぐるような笑い方。

『知ってる?ジムって不倫の現場によく使われるみたいだよ、』

そんなこと、どうでもいい。
そんな現場に俺を誘うんだな。

『兄さん、やっぱりプールがあるジムにしよう。』

『うん、好きにしたらいい。』

『兄さんと泳ぐって子どもの頃からしてないもんね、』

頬杖をついて微笑む。
懐かしむように、そして楽しむように。

『ああ、』

弟は今、俺を試していることを楽しんでいるのかもしれない。

『兄さん、』

『うん、』

『キスしてもいい?』

『、』

 なんだって言うんだ。
お前はどういうつもりなんだ。
何故俺とキスがしたいと思える?

『こういうことしたいって、変なことかな、』

試している。
気づいている。
そうなんだろう?

『ダメだ。』

『どうして?』

向かい座った弟が、テーブルに手をついて、椅子から腰を浮かせて近付いてくる。
見下ろしてくる。
近付いてくる。

『嘘だ、してくれるよ、兄さんなら。』

首が傾けられる。
近付く唇。
睫毛が伏せられる。
刹那の吐息を感じた。

『兄さんとなら、なんだってできるもの、』

試されている。
セックスすらできると言いたいのだろう?

重なる唇。
結局拒むことは出来ない。

揉むように唇を重ね、舌で真意を探ろうとする。
解りっこないことに、夢中になれる。
うねる舌。
滾る欲情。

『ウェアを、見に行こうよ、』

キスをしながら話すもんじゃない。
叱ってやりたい。
集中させろと、言ってやりたい。

『形から、入らなくちゃ、』

なんでも買ってやるから、お前の狙いを聞かせてくれ。
今度はお前のことが、恐ろしくなってしまう前に。




大人になってから気付いたこと。

それは、自分のなかの汚い感情と、行為に及ぶことが出来る狂気。

そして、底知れぬ弟の純心。

わからない。

今度は俺の方が、流されかけているようだ。

これまでは俺が泳がされていた。

そして今度は、溺れそうになっている。

止められないキスが何よりの証拠。
縋るように求めてしまうのは、俺の方だったのだ。













続く
(´◉J ◉`)ニヤ

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