ラブアンドペディグリー7(CM) | Fragment

Fragment

ホミンを色んな仕事させながら恋愛させてます。
食べてるホミンちゃん書いてるのが趣味です。
未成年者のお客様の閲覧はご遠慮ください。

大好きだった兄が、一瞬で憎いものになってしまった気がする。

好きだけれど。
でも、情けなくて、とても悔しいと思う。
なんだか憎らしくて、辛い。

考えれば考えるほど、自分が情けなくて、バカみたいに思える。
けれど思い出せる兄の姿は、皆僕にとって大好きだったものでしかない。

兄は何故今になって家を出たいと言うのだろう。
つい先日まで、もう少しいたいって言っていたのに。
気がかりなこととは、なんだったのだろう。
それらは全て、僕に原因があったりするのだろうか。

知りたい。
怖いけれど、知らなくては僕は身動きもとれないまま、また老いていくだけだ。



自分から好きとは、きっと言えない。
これまで散々言ってきたことだけれど、大人になってから気付いてしまったからには、簡単にはその言葉を口にできない。
できなくなってしまった。

僕達は、兄弟だもの。
血は繋がっていないけれど、同じ両親に育てられた、大切な家族だもの。

言いたいとは思わない。
けれど、気付いてしまった気持ちの落とし所を見つけたい。

そうでなくては、この先の生き方を見失ってしまうから。






大好きなトンカツは、みんなが食べ終わったその後にこっそり頂いた。
母親に心配されたけれど、トンカツを食べている僕を見たら安心したようで洗い物は自分でしろと言われて消えていった。
家族とはそんなものだ。
詮索も干渉もあまりされないから、そのくらいの態度だと助かるよね。

その夜は隣の部屋の気配を感じながら動いて顔を合わせることなく終わった。
生まれて始めて兄を避けた気がする。
そんな初めては、僕の人生に必要なかったはずなのに。

食欲はあったけれど、考えてしまうと眠れなかった。
あの車の中の会話に何かヒントがあるのではないかと考えていた。
僕の何が兄を不機嫌にさせたのか。
その中にこの家を出る決定打となるものが含まれていたのではないか。
考えていた。
けれど、答えなんて出てきてくれなかった。

それから数日に渡って、兄とはぎこちない感じが続いた。
顔をあわせれば話すけれど、結局互いに核心に触れることせずに1日を終えるのだ。
その繰り返し。
よくよく僕自身のことを考えてみると、僕はこういう時誰とも深く突っ込んで話すようなアクションを、自分から取ることはあまりしないかもしれない。
微妙なまま距離が出来た場合、時間の流れに任せてきたように思う。
それでよかった時もたくさんある。
けれど今は、多分それでは何も解決しないパターンだろう。
これが他人であれば何年後かに会った時に穏やかな会話もできる気はするのだけれど、今だって大切な兄であることに変わらない存在に対しては、曖昧にも有耶無耶にもできないと思う。
僕自身の気持ちを伝えるか否かではなく、兄がこの家を出るということの中身を知りたいのだ。

だって、僕達は家族だ。
そうだ、普通に聞けばいいんだ。

どうして出ていくの。
何かあったの。

そう聞けばいいだけだ。

そう思いつつも、結局また土曜日を迎える。
土曜の朝、既に起きていた兄はリビングで朝のニュース番組を見ていた。
隣の席に座る。

『兄さん、おはよう。』

『おはよ、』

いつもの朝。
いつもの笑顔。
いつもの声。
まるでこの1週間、僕だけが気を揉んでいたみたいな。
そんな朝だ。

『ねえ、』

『うん、』

今週の土日は、兄と予定は特に入れていない。
入れていられるほど僕の気持ちに余裕なんてなかった。

『……、いつ頃、出るの?その、この家。母さん達には言ったの?』

『まだ。…、』

兄は何かを言いかけて、口を噤んだ。

『聞いてもいい?』

『うん、』

『もっと前に、気がかりなことがあるって言ってたよね、』

『うん、』

『それって、何?』

兄の目が僕の目を真っ直ぐ見つめる。
今日なら話してくれるだろうか。

『もしかして、実の両親を探したいのかなとか思って、』

『、』

当たりかな。

『俺の実の両親は、俺が生まれてすぐに亡くなったそうだ。それを俺が中学生ぐらいになって、俺は知っていたんだけど、お前には特に話すことでもないかなって思って、黙ってた。』

『そうだったんだ、じゃあ…、』

『うん、だからそっちのことでここに思いとどまってたわけじゃない。』

『そう、』

もどかしい。
では、どんな理由だというのだろう。
やはり気になる。
知りたい。

『今、俺の中にとても大きな大きな欲求があって、』

『欲求…、』

『うん、どうしようもない感情なんだ。それを今はまだ話すことが出来ないんだけれど、必ずお前に当たったり迷惑かけるとは思ってる。』

『そんなこと、』

『あるんだよ。迷惑、かけてるんだ。もうね。』

『わからない、迷惑だとか、そんなもの感じたことひとつもないよ。』

『…、』

兄が口を噤んだ。
だめだ、僕も落ち着かなくてはいけない。
逃げられてしまう。
ひとつでも多く聞き出さなくてはいけない。
兄の本当の気持ちを、ひとつでも多く。
少しでも深く。

僕としては、離れていって欲しくないのだから。

『チャン、ありがと。』

『、』

『今の俺は、誰かの幸せを願うことができないくらい、醜いことになっている。』

『…、』

それはどういうことだう。
誰の幸せについてそう言っているのだろう。
他人にそう思うことと、この家を出ることが関係あるのだろうか。
兄は、家族に対しての幸せを願うことが出来なくなっていると言いたいのだろうか。

『そんなふうに思ってしまうほど、僕や父さんと母さんは、兄さんに何かいけないことを言ってしまったのかな。』

『違う、そうじゃない。誰も悪くない。俺が悪いんだ。』

そういうのって、多分あまりよくない。
誰も悪くないのに離れていってしまったら、何も解決しないし、誰も幸せにならないんじゃないかな。
両親は息子の巣立ちとして素直に考えられるかもしれないけれど、僕は違う。
僕は結局何がいけなかったのかわからないまま兄と別れることになる。
家族から、他人になってしまう気がしてとても怖い。

逆に僕が何も考えずに兄を送り出したらいいのだろうか。
僕は何も聞かなかった、知らなかった、ただ「またね」って送り出せば誰も何も感じずに丸く収まったのだろうか。

いやだ。
そんなのいやだ。
これまでの僕だったらそうしていたかもしれない。
「僕が騒ぐことではない、それは相手のためにならない」そう思っていただろう。
けれど今回の場合は違う。
僕は知りたい。
だって、自分の気持ちに気付いてしまったのだから。

『僕は、やっぱり出ていって欲しくないよ。』

『、』

『どうして兄さんがそう思ってしまうのか原因が未だに掴めないけど、兄さんがここにいたかったのに出ていこうとしているのであれば、僕は引き止めたい。』

好きだから。

それは言えないけれど。

あ。

言えないけど、この気持ちをずっと抱えたまま、同じ家で暮らしていたら――――

僕は、それから兄とどうしていけばいいのだろう。

引き止めたいと言ってしまった後に、自分のこれからのことにやっと気付く。
気付いてしまった。

馬鹿だなあ、僕は。

『チャンミン、ありがと。』

微笑む顔を見て、胸が痛んだ。

『もういいよ、結婚とか、僕は多分しないから。』

『、』

ヤケクソ気味かもしれない。
だって、今好きなのは、目の前にいる兄弟なのだ。

『すくなくとも、兄さんが結婚するまで僕はしないと思う。あんまり自分が結婚するってことを、考えられないのかもしれない。』

『…、』

それとも、失恋してやっと自分の結婚を考えるのだろうか。
失恋したまま、結婚も恋人も欲しいと思えず一生を終える気もする。

なんだかそれって、とても悲しくないかな。

いや、そもそも僕はどんなふうに歳を取っていこうとしていたのだろう。
このままずっと兄弟で歳を取って老いていこうとしていたのか。
結婚して家庭を持ってひとりの大人として独立した生き方をしていかなければいけないはずだ。

何が悲しくて、何が幸せなのだろう。

兄弟で生きていくことを望むって、いけないことなのだろうか。
「そうでなくてはいけない」という目に耐えられるのであれば、「いけないこと」を選んでもいいのかな。
僕は耐えられる?

兄とふたりで生きたい。

それを選んでは、いけないこと?

両親は怒るかな。
友人が聞いたら呆れるかな。
赤の他人が聞いたらバカにされるだろう。

それとも、それとも、今告白をして失恋したら、それを機に兄も僕も独立した大人になれるのだろうか。

そうするべき?

頭の中が、おかしなことになってきた。
本来の僕なんて、もう消えてしまったかのようだ。
本来の僕が結局なんなのかというのも、もう分からないけれど。


『チャ…、』

兄さんの短い声。
なあに、どうしたの。

『お前、』

兄さん、僕が好きって言ったら、どうする?

『また…、』

僕が兄さんがいない生活は嫌だっていったら、どうする?

『泣いてる。』

大人になって、今になって、どうしてこんなに子どもみたいな考え方しか出来なくなっているのだろう。


『家を出るなんて、言わないで。』


『チャンミン、』


肩に回ってくる手は大きい。
いつだって大きい。
そして優しい。


『好き。』

『、』

『兄さん、好き。』


言ってしまった。
今までの「好き」とは違うことが伝わってしまっただろうか。


肩に置かれた手に力が入って、もうひとつの手が僕の体をさらうように抱き寄せた。

こういうの、好きかもしれないなんて思った僕は最低だ。
こういう、兄の力強さを感じられる瞬間がとても好きだ。


ああ、言ってしまった。

もう、これからどうしようだなんて、結局考えられなさそうだ。

もう、もう、僕は泣くしかできないみたい。

ダメな大人になってしまったものだな。










続く
(∵)ノマッテタ

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