18年前、我が家にやってきた生後40日の小さな子犬。
おすわりすれば、両手の手のひらにのりそうなほど、小さく可愛い豆柴。
名前は「ちいこ」。
父が亡くなった直後、大阪の母は、電話のむこうで力ない声だった。
東京に住む私は、一人にしておくことがとても心配で、
母のために、岐阜県のブリーダーから、航空便で送ってもらった。
「こんなワンちゃん、送ってもらっても・・。」
そう言った母だったけれど、それから笋慮?海Δ寮爾蓮張りがあった。
いつも、ちい子のことばかり、話してた。
数年して、大阪に帰省して、一緒の暮らし始めたちいこ。
むだ吠えがなく、言葉も覚え、一緒に歌も歌った。
時間があれば、私はいつも、ちい子と会話する。
「ねぇ、どぼじゃん・・」
私の腕に抱かれたちい子は、私を見上げて聞く。
「なあに?」
「あのな・・ちぃはな・・ちぃは・・・可愛い?」
「かわいいよぉ~。」頬ずりすると、ちぃは、目を細める。
「あのな、どぼじゃん・・」
「なあに?」
「ちぃは、かしこい?」
「かしこいよぉ~~!!」思いきり、また頬をくっつけ、揺する。
「あのな、どぼじゃん・・」
「なあに?」
「ちぃはな、ちぃは、ええ子かぁ~?」
「ええ子やでぇ~~!!」
「ほんまかぁ~?」
「ほんまやでぇ~~!こんなにええ子で、可愛くて、かしこい子はおらんでぇ~!」
ちぃは、いつも満足そうな顔をしてた。
幾度かの大病をし、子宮摘出の大手術もしたけれど、
そのたびに危機をくぐってきた。
後ろ足がなえて立てなくなっても、目が見えなくなって、耳が聞こえなくなって、嗅覚もダメになっても、
このとき、頬ずりしていたしぐさで、会話した。
ちぃは、もうすぐ死ぬ。
もう、水も飲めなくなった。
横になったちい子の口の隙間から、哺乳瓶で水を差し込んでも、吸う力もない。ストローで水をすくって、その隙間から点滴のように流し込む。
もう一度、会話しよう。ちぃ・・。
もう一度・・・。
「なぁ・・どぼじゃん・・・ちぃは、ええ子か・・・」
「あぁ、ええ子やで。ちぃは世界で一番、一番ええ子やで・・・。」