Hちゃんが初めて私の教室に来たのは、中学2年生の時でした。
音楽がとても好きで、吹奏楽部でクラリネットを吹いていました。
ピアノは幼少から習っていたものの、タッチが荒くて、音に対して執着がない感じでした。
まずは、タッチを直して、「音を聴いて、音楽を作る」という喜びを知ってもらおう!と、レッスンを始めました。
それが楽しかったのでしょう!生き生きと弾いていました。
将来ずっと音楽をしていたいと言うので、ソルフェージュの勉強をしてみないかと、誘ってみました。
その頃、将来音楽の方に進みたいという生徒さんが多かったので、グループでソルフェージュ教室をしようと思いついたのです。
みんなでコールユーブンゲンを歌ったり、リズム打ちをしたり、聴音をしたり、楽典の基礎を勉強したりしました。
そのとき、Hちゃんには絶対音感があり、また、いい声を持っているという事に気がつきました。しかも聡明。移動ド読みも初見でスラスラ読んでしまうのです。
楽典も理解が早い!
彼女の才能を開花させたいと思いました。
ところが、東高を受験するにはちょっと勉強が足りないと、中学3年の秋に教室をやめてしまいました。
そして、4月には高校に合格。また、吹奏楽部に入り、忙しくなって教室に戻ってくることはありませんでした。
彼女とは携帯の番号を交換していたので、ある日ラインで繋がりました。それから時々、お互いラインで会話をしていました。
ある時は将来バンドがしたい。ある時は音響の仕事がしたい。いろいろやりたいことがありすぎて、決められないようでした。
でも一貫して、やりたいことは音楽に関係していることであるということに気がつきました。
それで一度、うちに来て、話そうということになりました。それが高校3年の5月。
提案として、とりあえず、その音感と声を使って大学に行き、そこから音響なり、バンドなりしたらどうか。と私の意見を話しました。
それなら、ピアノや歌の指導者になれたり、教員になれたりと、つぶしがきくけど、音響の専門学校に行ったら道はそれしかなくなるよ。バンドマンもうまい人はちゃんと音楽の理論も分かって、音楽の基礎もちゃんと勉強してやってるよ。と話しました。
妙に納得して帰って行きました。が、それから返事がありませんでした。「あー、もう音楽への道はあきらめたんだなー。」と思いました。
月日が経ち、11月になりました。そろそろ早い人は大学に合格している頃です。
Hちゃんから、ラインが来ました。
声楽で大学受験したいです。死ぬ気でします。よろしくお願いします。
「え~~~~~~っ!!!」
私は、思わず携帯に向かって叫んでいました。ミュージカルがしたくなったようです。
とりあえず来てもらってピアノと声楽のレッスンを始めました。
一番向いている大学はどこなのか手探りで、国立の教育学部の音楽科を受ける勉強を始めましたが、ピアノも歌も勉強もどれもこれも
一度にするのは難しいということになりました。
あっという間にお正月が来ました。忘れもしない元日。お母さんも一緒に来てもらって三者面談。(笑)
もう志望校を決めないとヤバい!
彼女の一番いいところで勝負できて、まだ募集している学校。となると武蔵野音楽大学声楽科、特待。ここしかない!!ってなりました。
特待を受けるには曲数が多く、するべきことが多いので、猛特訓が始まりました。
まずは、聴音、楽典、ピアノを私の娘にお願いしました。
娘が、楽典は「この本を1冊解いたら基礎ができるから、あとは武蔵野の過去問を解いたらいいよ。」と言ったら、自分で解き方をネットで調べてどんどん解いていきます。
聴音はもちろん娘が指導しましたが、家でたくさんの問題に挑戦してあっという間に取れるようになりました。自分で曲を弾いて録音したものをどんどん取っていったようです。
ピアノもとても上手になりました。
声楽は毎日レッスンに来ました。私が風邪やインフルエンザになったら、Hちゃんを指導できないから、常にマスクを使用し、R-1を毎日飲みました。
まずはコールユーブンゲン。自分でどんどん譜読みして、暗譜してきます。難しいリズムや、音程もきちんと取ってきます。私は彼女のために、コールユーブンゲンを歌って録音してあるCDを購入して、ダビングするようにいいました。すると彼女はずっとイヤホンで聞いて覚えたようです。
自由曲は、彼女のとても高い声をアッピールできる選曲をして、あとはいかにイタリア語の発音をうまくするかにかかっているね。と彼女に話しました。そしたら、パソコンのサイトで、イタリア語の単語を打ち込むと、正しい発音をしてくれるのをを見つけて、自分で発音を覚えたのです。
「学ぶ」ということはこういうことなんだと、こちらが勉強させてもらいました。
あとは、単語1つ1つの発声です。クリアに聞こえるようにレッスンしました。
そして、2回ほど、演奏家コース出身の声楽の先生にレッスンしていただきました。
その先生と私の音楽感が似ていたので、良かったと思いました。
3月15日、16日が試験で、直前にオープンキャンパスがあり、レッスンもあるというので、少し早めに東京に旅立って行きました。
私の顔をお守りにするといって、携帯で写メを撮って行きました。
着いてからもラインで練習しているところを動画で送ってくるので、私もピアノを弾いて動画に撮り、こんな風に弾くようにと送ったりしました。
無事試験が終わりました。私は、「先生の好物のねんりんやのバームクーヘンを買って来てね!!」とお願いしました。
3月21日合格通知が送られてきました。
特待は無理でしたが、特待に受かるためには、今までのコンクールの受賞歴なども考慮にいれるそうで、全く何もしてなかったHちゃんには無理でした。
でも、在学中に特待に入ることは可能で、成績表でSをたくさん取る必要があります。
お勉強も、実技もがんばって来年こそは入ってもらいたいです。
彼女は明るくて積極的で、前向き。
前向きな人には幸運がくるのかも。なんと武蔵野音大にはミュージカルサークルがあり、思いっきり活動ができます。これは、全くの偶然です。(笑)
最後にお母さんとご挨拶に来たとき、
「東京に行ってしまうのね。寂しいなぁ~」というと、2人とも、ちょっと涙ぐんでおられました。
バームクーヘンは見つける事ができなかったので、違うお土産になりましたが、Hちゃん、今度帰省するときはバームクーヘン、楽しみにしてるからね!!
ミュージカルスター目指してがんばれ!
竹本喜代美
