構造改革が私たちにもたらした現実を整理してみよう! | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 ここ25年ほどの間に日本において構造改革がどんどんと進められてきたはずですが、日本経済に勢いがない状態が続き、「失われた10年」がいつしか「失われた20年」と呼ばれるようになり、さらにそうなってからもすでに何年か経過したかと思います。そこでこの間にどのような変化が生み出されているのかを概観しておくことも、実は大切なのではないかと思っています。

 まず、日本の雇用者報酬(労働者の取り分)がどう推移していっているかを見てみましょう。


 1997年を頂点として、それ以降は雇用者報酬は低迷していることがわかります。企業はグローバル競争に打ち勝つために合理化を進めてより筋肉質に変わっていかなければならないということで、様々なコスト削減に取り組みました。そしてその中には労働者の給与を低く抑えていくために、アウトソーシングを活発化して正社員の人数を絞り込むとか、非正規社員の割合を高めるといったことが行われていきました。さて、この状況は日本経済を向上させるのに役立ったのでしょうか。

 個別企業についてみれば、企業体力を向上させる構造改革が進んだと見ることはできるかもしれませんが、日本社会全体で考えれば、雇用者報酬が低迷したことで、GDPの6割近くを占める民間最終消費支出(日本に住む人が日本国内で消費に使ったお金)を抑制させてしまったといえないでしょうか。実際、企業の売上高の推移を見ても、当たり前ですが伸びていないわけです。


 では企業は利益を増やせていないのかというと、それもちょっと違うようです。以下のグラフを見ればわかる通り、日本企業の経常利益は1997年の2倍以上で、ほぼ60兆円に達しています。経常利益率も1997年当時の2倍以上で、4.5%を超えてきていることがわかります。


 では、企業はそのように稼いだお金をどうしているのでしょうか。以下のグラフは企業の内部留保の推移です。2012年にはついに300兆円を突破しました。そしてその増加スピードは日本経済の拡大ペースとは比べるもなく高いことがわかるかと思います。2011年度末において、日本の上場企業の過半数が無借金経営になりました。企業の経営体力は非常に向上していることがわかります。


 企業が借金に依存しなくなった中で、一般の家庭の貯蓄はどうなっているでしょうか。以下のグラフをご覧下さい。


 日本の家計貯蓄率は1992年段階では15%程度あったのに、現在では2%程度にまで下がってしまい、浪費傾向が強く将来設計を考えないと揶揄されるアメリカすらをも下回るようになっています。では、日本人の中に浪費家が増えたのかといえば、そんなことはないはずです。かつて若者の乗り物だと思われていたオートバイは、今やおじさんの乗り物の扱いとなってしまいました。若者が無理してローンを組んで車を自分のお金で買うことも聞かなくなりました。ワタミの決算が赤字になったように、居酒屋にも大きなお金を落とさなくなってきました。生活水準はむしろかなり慎ましやかになってきたのに、雇用者報酬が減ってきたために貯蓄もできなくなってきたといった方が適切でしょう。

 高度経済成長期であれば、一般家庭が将来設計を考えて貯蓄を行い、企業は自己資金では足りない資金をこうした貯蓄を借り入れて利用しながら旺盛な投資を行い、経済を拡大させていくということが行われました。ところが現在では一般家庭が貯蓄を行うことが難しくなり、企業は一般家庭の貯蓄をあてにしなければならない状態から抜け出してきました。

 これを経済成長との観点でさらに考えてみましょう。雇用者報酬の低迷によってGDPの6割近くを占める民間最終消費支出の伸びも抑え込まれました。さらにGDPの2割を占める政府最終消費支出とGDPの5%程度を占める公的固定資本形成(公共事業に回る政府支出)も、国家財政が危機的であることを理由として抑え込まれてきました。要するにGDPの85%ほどを占める項目を抑制することを「構造改革」として押し進めたわけです。その結果、需要が伸びない国内マーケットを対象にしては設備投資を行っても利益が見込めないことから、GDPの残りの15%ほどを占める民間企業設備投資も低迷するという事態を招いてきたわけです。大企業はこうした環境の中でも確実に利益が上げられるように構造変革し、売り上げが伸びなくても利益が確保できるビジネスモデルを確立してきたということがわかるでしょう。

 この全体構造を見た時に、法人税を減税して企業が内部留保をさらに蓄えやすくすることが、日本経済の起爆剤になるのでしょうか。これまで進めてきた構造改革がまだまだ岩盤規制によって阻まれることが多くて徹底していないから、日本経済は伸びないのでしょうか。その理解は違うのではないかということがわかるでしょう。構造改革の流れをストップさせることは、私たち日本人の生活を守る上でも、日本の経済力を高めるためにも必要なことだと、私は考えます。


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追伸
 目下アベノミクスによって、経済が回復しているように見えますが、これは実はアベノミクスのせいだとは思わない方がよいと思います。アベノミクスによって株価が上がったことも好景気には影響していますが、20年ほど本格的設備投資を怠って日本国全体の供給能力が衰えてきたことによって需要不足が解消してきたのではないかと思います。このような経済の流れにおいて大きな転換点が出現したように、私には感じられます。このような時代の反転によるものによって経済が伸びてきているのにすぎないのに、アベノミクスによるさらなる規制緩和によって経済が伸びていくように錯覚する時代になってきたように感じられます。このことに、私は却って危機感を募らせています。


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