帰還した若田さんの浴びた放射線量は危険なのか? | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 国際宇宙ステーションに約半年滞在し、国際宇宙ステーションの船長の職務も果たされた若田光一さんが、無事地球に帰還しました。日本人として大変名誉なことでもあり、お役目ご苦労様でしたとの思いをしています。

 ところで今回若田さんが宇宙に滞在したのは188日間。過去3回の飛行も含めると合計348日間になります。そして宇宙空間では地上と違って放射線を遮るものがないため、宇宙空間を飛んでいる莫大な放射線をそのまま浴びることになります。その量は平均して1日あたり1mSvくらいです。日本で1年間で受ける外部被爆量は平均して0.67mSvとされていますから、宇宙空間に1日いれば、日本で普通に暮らした場合の1年間に受ける外部被爆量を超える被爆があることになります。(内部被爆を合わせた自然放射線量全体で見ても、日本では1.4mSv程度です。)

 若田さんは恐らく今回のおおよそ半年間の宇宙滞在で150mSv程度、過去3回の合計だと300mSv程度の被爆をしているのでしょう。福島では年間20mSv以上の被爆がある場所では強制移住が行われたことを考えると、非常に過酷な環境下で仕事をされてきたという感じに見えますが、昨日のブログでもお示しした国立がん研究センターの「わかりやすい放射線とがんのリスク」に書かれている表によれば、それでも生涯の発癌リスクが1割程度上昇するにとどまり、発癌リスクの上昇度合いは毎日2合以上飲酒するレベルから見れば、まだまだ小さいということになります。(図をクリックすると拡大して見やすくなります。)

わかりやすい放射線とがんのリスク

 さらに言えば、その程度のリスク上昇にとどまるからこそ、宇宙飛行士という職業が普通に成立しているともいえます。仮に宇宙飛行士となって宇宙に100日も滞在したら、その後10年程度しか生きられないというのであれば、滞在日数は考えられるリスクとの関わりでもっと短く設定されることになるはずです。そうなっていないのは、この程度のリスク上昇はその後の市民生活を送るのに不都合を生じさせるようなレベルではなく、いわば十分「許容範囲」だと考えられているからだといえるでしょう。 

 もっとも宇宙飛行士になるというのは当然好き好んで目指すものですし、飲酒も好き好んで行うものです。好きなことをやって発癌リスクが高まるのは自業自得ともいえます。従って、自己責任とは関わらないところで地域環境が汚染され、それによって強制的に被爆を受けるというのとは、同列で扱うことは適切ではないかもしれません。

 とはいえ、仮に100mSvの放射線量を1年間で浴びたとしても、毎日2合ずつ晩酌した場合のがん発生リスクと比べた場合にはそれよりも低いことがわかっているということを丁寧に伝えられた上で、移住するかどうかを住民に決めてもらうということを行っていたとしたら、ほとんどの方が移住することを選ばれなかったのではないかと思います。慣れ親しんだ故郷を捨てていくというのは、様々な地理的なつながり、人的なつながりにも大きな変容を与え、これまでの仕事ができなくなることにもつながるのであり、そのこと自体が大きなリスクであるというのは言うまでもないでしょう。この意味で、放射線のリスクについて正しく国民に伝えるということを怠った政府の責任は重いものがあったのではないかと思います。

 しかも実際にその土地で生活した場合に外部放射線量が年間100mSvに達する地域というのは皆無と言ってよいくらいの状態にありました。もはやどの程度の影響があるのかすらわからず、一部の研究者によってはホルミシス効果によってかえって健康増進に役立つのではないかとさえ言われているレベルの外部放射線量しかなかったところで強制移住を行わせたわけです。

 繰り返しになりますが、マスコミが無責任な報道しかしない中で、科学的知見に基づいた正しい情報提供を粘り強く行い、無責任なマスコミの報道の流れをきちんと正していくのは、政府の務めでしょう。嘘がはびこっているこの世の中で嘘の跋扈を許さないという姿勢を鮮明にして闘う姿勢を政府自らが見せていかないと、この流れを断ち切ることができないことに、政府自身が気付くべき時だと考えます。


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