ヨシカツ…アタシの父(既にあの世)
昭和一桁生まれ
モーレツ暴君
タイコ…アタシの母(同じくあの世)
古き昭和時代の
父に纏わるアタシんちの話
お若い方には意味不明な表現あり
暴言表記多々あり
それでも宜しければ…
その日のヨシカツの腹巻の中には
数百万円の札束が入っていた
(大好きな博打で儲けたのか)
ヨシカツの故郷 茨城に
自分ちを建てるための資金だ
今のように
ATM なんて便利なもんは無い時代
大工でもあるヨシカツの兄に
直接現金を手渡したかったらしい
それは
アタシを連れ
茨城に向かう途中の上野駅で起きた
乗り換えで階段を上っていると
後ろから突然ぶつかってきたオッサンがいた
しかも ヨシカツにだ
つまずいたのか
それとも故意だったのかは不明
ヨシカツの
「テメェ気をつけろっ」
たじろぐオッサン
「す、すいません…」
それで終わりかと思った…
ところが オッサン
ヨシカツの言葉にムカついたのか
なんやかんやと因縁をつけてきた
そうなるとマジ ヤバイ
暴君ヨシカツの血が騒ぐ
「なんだっこの野郎っ」
ってな具合になるわけで
まさかまさかの喧嘩かっ
混雑する上野駅構内で
すると ヨシカツ
オッサンともみ合いながら
「いいかっここを動くんじゃないぞっ」
そうアタシに言い残し
オッサンを引き連れどこかに行ってしまった
ひとり残された小学二年のアタシ
暴君ヨシカツの言いつけだし
動けるはずがない
道端の地蔵のように
そこに突っ立ったまま…
ヨシカツが無傷で戻ってくるのか
ヨシカツの腹巻の中の札束は無事なのか
喧嘩で
血だらけになってるんじゃないか
たとえ血だらけでも
お金が無事ならそのまま茨城まで行くのか
ヨシカツならあり得るが
父とは言え
血だらけの人と一緒だなんて
そんなのやっぱ恥ずかしい
はたまたヨシカツじゃなく
もしあのオッサンだけが戻ってきたら…
アタシの頭の中は
不安と怖さでぐちゃぐちゃだった
どれほど時間が経ったか覚えていない
人混みの中
地蔵と化していたアタシの元へ
血だらけじゃないヨシカツが戻ってきた
その姿を見た時は
とにかく安堵したのは言うまでもない
鼻息荒く歩くヨシカツと
地蔵から解放されたアタシは
予定遅れで茨城へレッツゴー
後日 タイコから聞いた話
本当はあの時
オッサンをボコボコにしてやろうと
でも アタシがいたのでやめたと
巻き込んだら不味いと思ったらしい
それで
オッサンを警察につきだしてきたんだと
日頃の暴君らしからぬヨシカツではないか
血の気の多いヨシカツの
乱闘話はいくらでもある
タイコが
警察署にヨシカツを迎えに行くこともあった
上野駅では逆だったけど
ただ
アタシが絡んでいたのは今回だけで