「今」を生きる子どもと、「未来」を背負う親
──過干渉の正体を時間軸から解く
なぜ、こんなにも分かり合えないのか
娘のためを思って言っただけなのに。
将来困らないように、今のうちに伝えておいただけなのに。
それなのに返ってくるのは、
「うるさい」
「わかってるから」
「放っておいて」
このやり取りのあと、
胸に残るのは怒りではなく、
言いようのない罪悪感ではないでしょうか。
「私の関わり方が悪いのかもしれない」
「過干渉なのかもしれない」
「この子の人生を壊しているのでは…」
でもここで一つだけ、はっきり言います。
このすれ違いの正体は、
愛情の量でも、伝え方の巧拙でもありません。
問題は、
親と子が“違う時間軸”を生きていることです。
親は「未来」を見て、子は「今」を生きている
多くの母親は気づいていません。
自分が娘と会話するとき、常に頭の中にあるもの──
それが、
・将来困らないか
・失敗しないか
・社会でやっていけるか
という未来のシミュレーションだということに。
一方で、思春期以降の子どもはどうか。
彼女たちが生きているのは、
ほぼ例外なく「今」です。
・今日の人間関係
・今日の感情
・今日の恥
・今日の小さな成功と失敗
ここに、親の「5年後」「10年後」が差し込まれると、子どもはこう感じます。
「今の私を見ていない」
「将来の失敗予防の材料として扱われている」
この違和感が、反発や拒絶の正体です。
思春期に強まる「現在志向」という特性
発達心理学では、思春期〜青年期は
“現在志向”が極端に強まる時期とされています。
これは未熟さではありません。
自我を形成するために、今の体験に没入する必要があるからです。
一方、親世代はどうか。
人生経験を重ねるほど、人は「予測」と「回避」を重視します。
・あの時こうしていれば
・同じ失敗をさせたくない
つまり親は、
過去と未来を同時に生きている存在なのです。
この時点で、親子の時間軸は噛み合っていません。
母に固定されやすい「未来管理者」という役割
家族力動の視点では、母親はしばしば
「未来を管理する役割」を引き受けます。
・この子の人生を守る
・失敗を最小限にする
・軌道修正をする
問題は、この役割が無自覚なまま固定されること。
母は善意でやっている。
でも子ども側から見ると、
「私の“今”は信用されていない」
「常に修正対象として見られている」
この感覚が、母娘関係を静かに冷やしていきます。
過干渉の正体は、子ども不信ではなく「未来不安」
ここで核心に入ります。
多くの母親がやってしまう過干渉は、
「子どもを信じられないから」ではありません。
自分が、未来を背負いすぎているからです。
・この子が失敗したら私の責任
・取り返しがつかなかったらどうしよう
この思考が強くなるほど、
母は「今の娘」ではなく、
まだ起きていない未来の娘に話しかけ始めます。
しかし子どもは、未来に生きていません。
だから、会話は必ずズレるのです。
「今言わないと後悔する」という思い込み
ここで、多くの母親が無意識に握りしめている
強力な思い込みを一つ、丁寧にほどいていきます。
それが、
「今言っておかないと、後で取り返しがつかなくなる」
という感覚です。
この思いは、決して身勝手なものではありません。
むしろ責任感が強く、真面目な母ほど抱えやすい。
だからこそ、
この思い込みは、なかなか手放せません。
◎親の視点は、いつか必要になる
まず認めるべき点があります。
この考えは、半分は正しい。
親の人生経験から見えている視点
・この先でつまずきやすい場所
・後から取り返すのが大変な選択
・遠回りになりやすい道
それらは、確かに
いつか娘にとって必要になる視点です。
ここを否定してしまうと、
「じゃあ親は何のためにいるのか」という話になります。
問題は、視点の内容ではありません。
渡す“タイミング”です。
︎◎ 「今、受け取れる」という思い込み
多くの母が無意識に置いている前提。
それが、
「今の娘は、この話を受け取れる状態にある」
という思い込みです。
しかし、思春期の子どもは
常に“受信可能”な状態で生きているわけではありません。
・感情処理の途中
・自分の輪郭を必死で保っている最中
・親からの評価に過敏になっている時期
この状態で差し出される正論は、
どれほど内容が正しくても、
理解ではなく干渉として届きます。
◎タイミングを失った助言の末路
タイミングを無視した正論は、
子どもの内側に土足で踏み込む行為になります。
子どもはこう感じます。
「私の今は、間違っている」
「このままの私は、信用されていない」
その瞬間、
母の言葉は助言ではなく、
自己防衛の対象に変わります。
侵入された子どもが取れる行動は、
多くありません。
・黙る
・反発する
・距離を取る
どれも、母から見れば「問題行動」に映りますが、
子ども側からすれば
自分を守るための正常な反応です。
◎未来を守ろうとして、今の信頼を削る
皮肉なことに、
「後悔したくないから今言う」という選択が、
最大の後悔を生むことがあります。
それは、
・娘が何も話さなくなる
・大事なことほど母に隠す
・表面的な会話しか残らない
という形で、静かに現れます。
母は未来を守ろうとしただけ。
でもその結果、
“今の信頼”を削ってしまうのです。
◎未来より先に守るべきもの
ここで、問いを一つ残します。
娘の未来を守るために、
今、守るべきものは何でしょうか。
それは、
正しい助言を渡すことではありません。
「この人は、私の今を尊重してくれる」
という感覚です。
この信頼があるからこそ、
未来の話は、いつか届きます。
◎「言うかどうか」ではなく「失うかどうか」
「今言わないと後悔する」
ではなく、こう置き換えてみてください。
「今言うことで、
信頼を失わないだろうか」
この問いを一つ挟むだけで、
母の関わり方は、
“侵入”から“伴走”へと変わります。
ここまでで、
「なぜ、うまくいかなかったのか」は
もう見えているはずです。
では、これからどう関わればいいのか。
ここから先は、
理解を行動に変えるための具体編です。
https://note.com/hapihapi7/n/n345e8ee4a33a
