この記事は、ビクトル・ユゴー原作「レ・ミゼラブル」の簡単?な「あらすじ」文。
ミネトの個人サイトで過去に公開していたものです。

ミュージカル「レ・ミゼラブル」に通って、テンション高めになっていた時期に
「レミゼという物語を広く紹介したい!」と書いたものです。
当時、原作を読み込んで必死にまとめたのに(笑)お蔵入りするのも惜しいかなぁと思い(自画自賛)、
加筆修正したものを公開。
約13000のぎゅうぎゅう文字を一挙にどうぞー。

古典文学でネタバレも何も……とは思いますが。
あらすじは結末まで書かれているので、ネタバレがイヤという人は見ない方がいいです。


01・舞台は1815年10月、フランスのディーニュ。
パンを盗んだ罪により投獄されたジャン・バルジャン。脱獄の罪も加わって合計19年の刑期を終えて出所したものの、前科者への世間の視線は冷たく、どこへ行っても追い払われてしまう。
すっかり荒んでしまった彼は、手をさしのべてくれたミリエル司教宅で盗みを働き、そのまま逃走。しかし司教は、翌日警官に引き立てられて来たバルジャンを庇い「これを使って正しい人になりなさい」と 一対の燭台を託す。
バルジャンは茫然としたまま街をさまよい、人気のない夕暮れの小道で子供から無意識に 小銭を取り上げてしまい、我に返った時、その罪の重さに気付いて慟哭する。

02・ミリエル司教の大いなる愛によって、気高く生まれ変わったバルジャン。そんな彼が立ち寄った街モントルイユで火事があった。彼は、燃えさかる建物内に子供が取り残されていると知るやいなや単身火に飛び込み、無事に子供を救出する。
その子の父親が恩義を感じ、身元を確認することなくバルジャンへ仕事を世話した。追われる身であることを自覚していたバルジャンは、以降マドレーヌと名乗ることになる。
その後、自分のアイディアが当たって資産家となり市長にまで登り詰めた彼だったが、新たな運命の荒波が忍び寄ってきていた。
(01、02 ミュージカルでは仮出獄のまま逃げ延びたことになっている)

03無学な貧しい女工ファンティーヌには愛する男があった。しかし学生であった彼はもともと一時の遊びのつもりで彼女に近づいていたので、用なしになったらとっとと故郷へ帰ってしまう。不幸にも、その時すでに彼女は妊娠していたのだった。
父のない子供を連れた女がまともな仕事を得られる時代ではない。彼女は行きずりの宿屋に娘を預け、モントルイユの工場で仕事を見つけて働くことになるが、やがて子供の存在が発覚して工場を追い出される。その仕打ちが工場のオーナーであり市長であるマドレーヌ氏の差し金だと思いこんだ彼女は、ひどく彼を憎む。

04・ある日、馬車の転倒事故が起こった。車輪の間に挟まれたのはフォーシュルバン老人。起重機が届く前に、馬車の重みで老人が押し潰されてしまうことは、誰の目から見ても明らかだった。それを見たマドレーヌ市長は、市民の見ている前で怪力を発揮し、馬車を持ち上げて老人を助け出す。更に、足を痛めてしまい今までの仕事ができなくなったフォーシュルバンに新たな仕事先の世話をした。
(04 フォーシュルバンの名はかろうじて旧版ミュージカルにも登場していた)

05・一方ファンティーヌ。娘を預けている宿へ仕送りするために金が必要なのに、髪を売り、歯を売っても思うように金が集まらない。宿からは、お前の娘が病気になり金をよこさなければ満足な治療も受けさせられない、という手紙が届いている。
彼女はついに娼婦になった。
ある夜、雪のかたまりを悪戯で背中に投げ込んで来た男に掴みかかったところを警官に見とがめられて、禁固六ヶ月の宣告を受けてしまう。彼女は慈悲を請うたが、警官は聞き入れない。そこへマドレーヌ氏が登場。彼は一連の事情を目撃していたのだ。反対する警官を押しのけ、誤解して唾を吐きかけてきたファンティーヌを市長の権限で救い出したが、彼女は長い苦労の結果すっかり体を壊していた。

06・ファンティーヌを逮捕しようとした警官が就任した街の市長は、むかし彼が某監獄で副看守を務めていた時に見た、凄まじい怪力を持ち何度も脱走を繰り返した凶悪犯、 ジャン・バルジャンという囚人によく似ていた (ジャン・バルジャンは現在、少年から金を奪った罪で追われている身の上)。 馬車の事故の件で警官の疑惑はさらに強まり、娼婦の事件でついに確信へと変わる (というか自分の仕事を邪魔された腹いせに決めつけたという感じだった)。
警官の名はジャベール。彼は、権威に対する尊厳と反逆に対する憎悪を持つ、厳しく頑迷であるが潔癖で正直な人物である (しかしそれだけに犯罪者に対する処分に慈悲がなく、まったく容赦がない)。

07・ジャベールは市長を当局に告発したが、聖人ともうたわれるモントルイユ市長がそんな囚人であるわけがないと一蹴され、さらに「バルジャンという前科者はもう捕まっている」という情報を得る。ジャベールは、名誉を傷つけていわれのない告発をしてしまった罪の意識から市長に謝罪をして、自分の免職を求めて去ってゆく。
マドレーヌ氏=バルジャンは、自分と間違われて捕われ終身刑(再犯囚は終身刑か死刑)を言い渡されようとしている見知らぬ人間を助けるべきかどうか、凄まじい苦悩を抱えて一夜を明かし、ついに裁判所へおもむき真実を告白したのだった。裁判所に居合わせた人々はその感動的な光景に身を震わせ、誰もその場でバルジャンを捕らえようとしなかった。
(07 原作では、この場にジャベールはいなかった)

08・市長は娘を連れてきてくれると約束してくれた。今や、離れて暮らしている娘と再会することだけを生きがいに命をつないでいるファンティーヌ。
裁判所から戻ってきたバルジャンは、彼女を元気づけるために「いまドアの向こうに娘が来ている」と言う。しかしマドレーヌ氏の言葉を信じた彼女の見たものは、知らせを受けて飛んできたジャベールの姿だった。
彼は「市長は脱獄囚だ、そして娘などここへ来てはいない」と言う。その言葉にショックを受けファンティーヌ死亡。バルジャンはこのとき、彼女の子供を引き受けることを決意する。
彼はその場で逮捕され、それ以降モントルイユの工場はさびれてゆく一方だったという。

09・軍艦オリオン号に終身刑の囚人が送られてきた。
ある日事故が起こり、人助けをした囚人がひとり海へ落下してそのまま二度と浮き上がってこなかった。その囚人の名はジャン・バルジャンといった。
(08、09 ミュージカルではジャベールを叩きのめして逃げ去るバルジャンだが、普通は逃げられない。原作ではいったん逮捕されたものの、海に落ち死んだふりをして逃げることに成功する)。

10・ファンティーヌの娘、コゼット(本名ユーフラジー)は幼いときに別れた母の顔を知らない。彼女が預けられた宿屋のテナルディエ夫婦という人物は、実はとんでもない悪党で(気づかずに預けたファンティーヌも気の毒だが、コゼットはもっと悲惨)、 娘を口実に母親から金を搾り取り、一方コゼットはあらゆる方法で虐待を受け、そして女中としてこき使われていた。
ある晩、水くみに出された真っ暗な森の奥で、水の入った重い桶を抱えて泣いていた彼女の傍らに黒い影が立つ。その人物は足音もなく現れ、彼女の背後から無言で桶の柄を掴んで持ち上げたのだった。しかし少女は別に恐怖を感じなかった。

11・そうやって現れた人物は、テナルディエ夫婦に大金を渡してコゼットを連れて出て行った。その金額に不満を感じたテナルディエは二人の後を追うが、男が睨むと諦めて戻っていった。
さて、コゼットを連れ去った人物とは、言うまでもなくジャン・バルジャンだ。彼は死んだと見せかけて脱走したあと、隠してあった金を持ち出してテナルディエの宿へと向かったのだ。

12・ふたりはパリでひっそりとした生活をはじめた。バルジャンは目立たない粗末な身なりをしていたが、街を歩きながら物乞いに施しをするので「施しをする貧乏人」としてかえって目立ってしまっていた。
そんなバルジャンに注目する男がひとり。モントルイユからパリに職場を移していたジャベールである。彼はバルジャンが死んだということを知って満足し、そのまま彼の存在など忘れており「謎の貧乏人」には好奇心で近づいただけだった。しかし彼の顔を見たジャベールは、そこにバルジャンの面影を認めて慄然とした。とはいえ彼は暗がりで一度見ただけだったので確信がもてず、しばらくその男の様子を窺うことにした。

13・バルジャンの方でも、ジャベールの影を見たような気がしていた。ひしひしと近づく危機。錯覚だと思ったが日に日に疑惑は大きくなり、ついに彼はコゼットの手を取って、逃げるために家を出た。満月の夜だった。
追われているのは気のせいではなかった。ジャベールもまた疑念を持ちつつも、確実に獲物を追いつめようと行動に出ていたのだ。
彼らがお互いの存在をはっきりと認識したのは、すぐあとのことだった。

14・バルジャンは追いつめられていた。前方には高い壁、後方には迫り来る警官たち。そして手の中には怯える少女。取るべき道はひとつしかなかった。
彼が壁を乗り越えて向こう側に消えた瞬間、ジャベール達の激しい声が足音とともに近づいてきた。間一髪だった。ジャベールはそのとき、バルジャンを追いつめることに残忍な喜びを感じていた。だから逃がすはずのない者の姿が忽然と消えてしまったことに驚愕、落胆し、一時は絶望と凶暴に駆られたほどであった。
彼はその後、バルジャンが消えた一郭を一ヶ月以上見張っていた。

15・バルジャンが入り込んだ場所は、どこかの庭のようだった。
庭を歩く人物に声をかけると「マドレーヌさん?」と思いがけなく懐かしい名前で呼びかけられる。見ると、声の主は馬車の事故で足を悪くしたフォーシュルバン老人だった。
そこは、馬車の事故のあとマドレーヌ氏の推薦により老人が雇われた修道院だったのだ。
とりあえず自分の部屋にふたりを匿った老人は、市長の出現に謎を感じながらも聖者に何かと尋ねるものではないと思い、どうやら困っているらしい彼の手助けができることを喜んだ。バルジャンにしてみれば、ここに住みつくことができれば、これ以上に安全な隠れ家はない。
しかし問題があった。修道院にいるのはフォーシュルバン老人以外全員女性なので、どこから入ってきたのかわからない男がいたら、すぐにばれてしまうということだ。フォーシュルバンはバルジャンを自分の弟ということにして、修道院で雇ってもらえないかと考える。

16・一方、修道院側でもひとつの問題が生じていた。一人の修道女が病死した。死者の望みは修道院の地下に葬られることだったが、死体は埋葬地に埋める規則があった。
院長に相談を受けたフォーシュルバンは、死者は修道院の地下にこっそり埋葬し、空の棺を埋葬地に埋めるのはどうかという提案を出す。その意見に満足した院長は、「孫娘のいる弟を庭師として修道院に招き入れてほしい」という老人の願いを快く聞き入れた。

17・庭師として雇って良いという約束を交わすことはできたが、最大の問題がある。バルジャン自身がいったん修道院の外へ出ることだ。警察の見張りを恐れているから、入ってきた壁からは出られない。コゼットはフォーシュルバンの背負う籠の中に入れて外に出れば済む。偽の死体を擬装する棺の話を聞いたバルジャンは、自分がその棺に入って修道院の外へ出ることを思いつく。棺が埋められる前に墓堀人足を適当に言いくるめてしまえば良い、ということになり作戦は開始された。

18・棺は手違いで埋められてしまう。なんとか人足を追い払うことに成功し、慌てて棺の蓋を開けたフォーシュルバンは、自分の恩人が死んでしまったことを嘆く。しかしバルジャンは一時的な仮死状態になっていただけで、すぐに息を吹き返した。
その足で修道院にとって返し、首尾良くフォーシュルバンの弟としての居場所を手にしたバルジャン。コゼットは修道院の中の女学院に通うことになり、二人はそこで幸せな日々を送ることになる。
(12~18 ミュージカルでは11のあとすぐに「パリ10年後」となり、完全にカットされている部分)


ここで、舞台背景となる史実の紹介。
18世紀末、フランスは長いルイ王朝の政治で腐敗しきっていた。相次ぐインフレ、狂乱物価に民衆の苦しみは日に日に大きくなり、ついに武装蜂起。フランス革命の幕開けが訪れた。
革命軍はルイ十六世、マリー・アントワネットを断頭台の露と消し去ったのを手始めに、 王族貴族を正義の名のもとに葬り去った。
これにより、ルイ王朝はひとまず消滅する。
しかし国家をつかさどるには、革命政府はあまりにもひ弱であった。混乱に乗じ、ヨーロッパの各国がフランスを手中に治めんと暗躍をはじめ、状況はまさに風前の灯であった。
そこに彗星のように登場したのがナポレオンである。
彼は奇跡に等しいアルプス越えをやってのけ、イタリア・オーストリアを撃破。ヨーロッパ中を向こうに回して一歩も退かず、逆に各国を次々に手中に治めてゆく。
彼は皇帝ナポレオン一世を名乗り世界中にその名をとどろかせたが、イギリスに破れてから勢力は次第に衰えはじめ、戦いに敗れた彼はエルバ島に流される……が脱出。再びパリに入城、皇帝に復位し宿敵イギリスに最後の決戦を挑んだが、ワーテルローの決戦で敗れ、ついにセントヘレナ島に流されたのだった。
ナポレオンが寂しく世を去った1821年、フランスは再びルイ十八世の王朝時代を迎えていた。ナポレオン派の貴族はことごとく宮殿から追放され、ワーテルローで戦った勇者たちも、 蔑まれて日陰を歩く身分に堕ちてしまっていた。逆にルイ王朝派は大手を振って外を歩き、 優雅な暮らしをしていた。
ルイ十八世亡きあとフランス国王の座についたシャルル十世の政治は民衆を押さえつけ、 世の中は再び革命前そっくりのあやしい空気に包まれはじめていた。
(わかりやすくまとまっていた、みなもと太郎著「レ・ミゼラブル」の文章を、ほとんどそのまま引用しています。この漫画大好きだ!)

19・ポンメルシー大佐はワーテルローの戦いにおいて重傷を負ったが、テナルディエと名乗る軍曹に救われて生還し、皇帝より男爵の地位を授かった。愛した妻はすでになく、一人息子も妻の実家(王朝派の金持ち)に引き取られ、会うことさえ禁じられている。
彼はひとり寂しく暮らしていたが、やがて病気になり床に伏した。息子が見舞いにやって来たとき、彼はすでにこと切れていた。

20・父親であるポンメルシーの死に立ち会えなかった息子の名はマリウス。しかし彼は別になんとも思わなかった。祖父ジルノルマン氏は父親に会うことを禁じていたし、また父親のほうでも彼に会いにくることはなかったのだ。
父親の遺言には「男爵の位を受け継ぐことと、戦場で恩を受けたテナルディエ軍曹に礼をつくすこと」という内容がしたためられていた。
ある日教会で彼は、ミサに来る息子を柱の影で見つめながら涙を流していたという生前の父親のことを知り、ショックを受ける。父親を誤解していたマリウスは自分で色々調べるうちにナポレオン崇拝者になってゆき、父親に対する尊敬の念を強く抱くようになる。
そのことが祖父にばれて言い合いとなり、マリウスは行き先も告げずにジルノルマン邸を飛び出した。

21・ふとしたことから知り合ったレーグルという学生に連れられて行ったカフェで、マリウスは 「ABCの友」と名乗る弱者救済を目的とした秘密結社の萌芽のようなグループと邂逅する。彼らの目的は、腐敗しきった王朝派を叩きつぶし、民衆のための未来を切り開くことであった。
そのメインメンバー。
原作で天使のような美青年と記述されているグループのリーダー、アンジョルラス。
誠実で思慮深い考えの持ち主、コンブフェール。
努力家の扇子職人フイイ。
貴族の出身で快活な性格のクールフェラック。
機嫌のいい好人物、バオレル。
不運だが陽気、若くして禿頭のレーグル(通称ボシュエ)。
気に病むたちの医学生、ジョリ。
内気なたちの詩人、プルベール。
大酒呑みの懐疑派、アンジョルラスを熱烈に賛美する男、グランテール。
しかし「ナポレオンが偉大なのは個人的にではないか」という彼らの見解に影響を受け、自分の考えが父との距離を置くようになるのを恐れて、マリウスはそのカフェに行くのをやめた。ただ、クールフェラックという学生には生活のアドバイスを受けたり、居候させてもらったりと、今後なにかと世話になることになる。
(21 ミュージカル中の学生の性格はまた違った味があるので紹介。かなり主観が入っているんだが。
アンジョルラス 学生をまとめる包容力を持ったリーダー。
コンブフェール リーダーの補佐的人物 その1。行動派。
フイイ リーダーの補佐的人物 その2。頭脳派。
クールフェラック 熱血青年。
レーグル 冷静で落ち着いた感じの人物。
ジョリ 仲間内みんなに可愛がられていそうなイメージ。
プルベール 優しげでナイーブな雰囲気。
グランテール はずれ者のように見えるが学生たちとうまくつき合っていそう。腰抜け。
マリウスは全員とそれなりに仲良し。原作ではレーグルとクールフェラック以外ほとんどつき合いはなさそう。なお、バオレルという名はミュージカルに登場しない)

22・ゴルボー屋敷という薄汚いアパートに身を置いたマリウスは、貧乏ながらも何とか生活を続けていた。道を歩くと女性が振り返る理由を粗末な身なりのせいだと思っていたため、女性に対して臆病になっていたのだが、実際のところ女たちは彼の容姿に見とれていたのだった。
そんな彼が電撃的な出会いをした。老人とともに公園を散歩している、名も知らぬ娘に恋をしたのだ。視線を交わしあい、彼女のほうにも脈がありそうな気配。マリウスは彼らの住居を知りたいと思ったのだが、突き止めたときにはすでに引っ越したあとで、その後彼らが公園に現れることはなかった。

23・マリウスの隣人ジョンドレットと名乗る貧しい失業者のもとに、慈善家が訪れる。
壁の節穴から隣の部屋を覗いてみたマリウスは驚いた。それは、あの公園の娘と老人だったのだ。借金が返せないと泣いて訴えるジョンドレットに、老人は夜あらためて金を持ってくると言って去る。マリウスは後を追ったが、馬車に乗る金がなくて諦めることになる。
戻ってくるとジョンドレット達の会話が聞こえてきた。
「あいつは8年前の男に違いない。そしてあの娘は……」
「あの娘」のことが気になったが、どうやら隣人は仲間と共謀して老人を罠に嵌めようとしているらしい。マリウスは迷わず警察に通報することにした。
話を聞いた警視は彼に拳銃を渡し、潮時を見計らって銃を撃って知らせろという。マリウスは自室でひっそりと息を潜めて待機することになった。

24・やがて現れた慈善家を、ジョンドレットと仲間のならず者達が取り囲む。 老人の危機が間近に迫ったのを見て取ったマリウスは、建物の外で待機している警察に知らせるために 銃の引き金を引こうとする。
そのときジョンドレットは老人に言い放った。
「覚えているだろう、俺はモンフルメイユの宿屋の主人テナルディエだ」
その名を聞いて呆然としたのは、老人ではなくマリウスだった。それは父親の恩人の名であったからだ。老人を助けたいが、テナルディエを警察に引き渡すことは父の遺言に背くことになってしまうのだ。マリウスはジレンマで気が狂いそうになる。
(実はこのテナルディエという男について、ポンメルシー大佐が勘違いしていることがある。戦場に転がる死体から金品を抜き取っている最中、懐を探られているときに意識を取り戻した大佐が、自分を介抱してくれたのだと勘違いしてしまっただけのこと。気の毒で泣けてくる)。
結局、彼が悩んでいるうちに(本当はもうちょっと複雑なやり取りでマリウスと老人それぞれが時間をかせぐのだが、ここでは省略) 警察が踏み込んでテナルディエ達はあえなく逮捕。しかし、老人の姿も消えていた。マリウスに銃を渡した警視ジャベールは、逃げた被害者が「一番の大物」だったことに気づいて悔しがる。
(22~24 ミュージカルではマリウスとコゼットの出会いと、テナルディエの襲撃が一度に語られている)

25・ゴルボー屋敷を出て、クールフェラックのアパートに転がり込んだマリウス。公園の娘と老人の行方もわからず、やるせない気持ちで毎日を過ごしていたが、ある日、若い女が声をかけてきた。見るとジョンドレットつまりテナルディエの娘、エポニーヌだった。彼女は以前マリウスから、あの慈善家の住処を調べてくれと頼まれていて、それを突き止めたことを彼に伝えに来たのだった。
ついに彼女の住処がわかったのだ。

26・マリウスは今までに書きためていた恋文を、彼女の家の庭にそっと置いてきた。そして、彼女がそれを見たと思われる夕刻、再び庭に赴くと――そこに彼女がいた。彼女は彼のことを覚えていた。
二人は相思相愛だった。
彼らは瞬く間に親密になり、今までのせつない胸の内を語り合う。そして最後に名を尋ねあった。
「私はマリウスといいます。あなたは?」
娘は言った。「コゼットです」と。

27・マリウスにはもう、コゼットなしの人生は考えられなかった。コゼットも同じ気持ちではあったが、深刻な事情が持ち上がってきていた。彼女は一週間後に父と一緒にロンドンへ行くと告げ、マリウスにも同行を求めてきた。しかし彼にそんな旅費を工面できるはずもない。
マリウスはある決心をしてコゼットに待っているように言うと、翌日ジルノルマン邸へと足を運び、祖父に結婚の許しを請うた。数年ぶりに戻ってきたマリウスに愛情を感じながらも、祖父は「そんな娘は愛人にすればよい」と言ってしまう。マリウスは憤慨し、もう二度と戻るつもりはないと席を立ち、ジルノルマン邸を立ち去った。

28・自由派の代議士として活躍したラマルク将軍の死をきっかけに、暴動が始まった。 パリのいたるところでバリケードが築かれ、街は銃を持った叛徒側と政府側の戦いの場と化した。
一方、マリウスは絶望したまま一日中あてもなく歩き回ったあとでコゼットの家へ行ってみたが、すでに彼女の姿はなかった。結婚も許されずコゼットはもういない。死ぬしかない、と思った。彼は「ABCの友」が築いたバリケードへ向かうことにした。
(26~28 ミュージカルでのマリウスは「彼女と行くか、仲間とともに戦うか」と悩んでいるのに対し、原作ではコゼットと一緒になることができなくなってヤケになり、死に場所を探してバリケードの戦いに参加する。 みなもと太郎コミック版「レ・ミゼラブル」の「ええい死んだるわいっ生きがいがないと強いんだから」 「わーあいつなぜかやけくそになっとるぞ」という台詞が的確で面白かった)

29・マリウスが来たとき、バリケードの仲間には危機が迫っていた。友人クールフェラックと浮浪少年ガブローシュを救い、危険をかえりみず敵を追い払った彼は、仲間達に感激とともに迎えられる。バリケードには、以前会ったことのあるジャベール警視が捕虜として囚われていたが(間諜任務に失敗)、マリウスは気づきもしなかった。
戦闘に参加した彼は、バリケード周辺の見回りに出た。すると足下で自分を呼ぶ声がする。 見ると瀕死のエポニーヌだった(彼女はマリウスを狙う銃の前に飛び出して撃たれたのだが、マリウスはそのことにまったく気付いていなかった)。 彼女はコゼットから手紙を預かっていたが隠していたと詫び、自分はマリウスを愛していたと告白して息を引き取る。
コゼットからの手紙には現在の居場所と状況が書かれていたが、どうせコゼットはすぐにイギリスへ旅立ってしまうと思ったマリウスは、せめて自分の死を知らせようと別れの言葉をしたため、父の恩人テナルディエの息子である彼をバリケードから遠ざけるという意味も込めて、 ガブローシュに手紙を届けてくれるように頼んだ。
(29 テナルディエには娘二人息子三人がいる。ミュージカルではエポニーヌのみが彼らの子供で、ガブローシュは赤の他人という設定になっているようだ)

30・しかしその手紙は、コゼットではなく彼女の老父フォーシュルバン(そう名乗っていた)の手に渡ってしまう。言うまでもなく、この老人はジャン・バルジャンであった。
彼はコゼットが自分の家の庭で見知らぬ男と毎晩逢瀬を重ねていることを、まったく気付いていなかった。警察の影を恐れて住居を移動し、ついにフランスの外へ脱出しようとしていた彼は、とうとう、コゼットの心が自分以外の誰かのものになっているということに気付かされる。
公園で見かけた男だ、絶望から生まれた洞察は正確にマリウスを射当てた。
バルジャンにとってコゼットという少女は、自分の中のあらゆる愛情をそそぎ込むことのできる唯一の存在であり、そんな彼女を奪う存在である男を、彼は憎悪した。
だから、マリウスからの手紙を見たときは心の底から歓喜の叫びを発した。この手紙さえ隠してしまえば、自分とコゼットはまた二人きりになれる、と。
心の内でそう考え終わると、彼は陰鬱な気持ちに襲われた。

31・国民服姿でバリケードに現れて、救世主のように仲間を救った者がコゼットの父親フォーシュルバン氏だと知ったとき、マリウスは不思議と何の疑問も感じなかった。老父のほうも彼に話しかけてくることはなく、ただ無言でバリケードの仲間としてその場に参加したのだった。
そうしている間にも戦いは激しさを増し、ついに少年ガブローシュが凶弾に倒れる。
一方、捕虜になっていたジャベールにはいよいよ死が近づいていた。学生たちが処刑の算段をしているところに通りかかったバルジャンは、 バリケードを救った報酬として間諜の射殺は自分にやらせてほしいと申し出る。
二人きりになるとバルジャンはナイフを取り出してジャベールに近づき、彼を縛っていた縄を切って「君は自由だ」と言った。復讐を覚悟していたジャベールは、茫然とバルジャンを見る。
ジャベールが立ち去ると、バルジャンは銃を空に向けて撃ち、バリケードに戻ってひとこと「済んだ」と言う。皆その言葉を疑わなかった。
マリウスはコゼットの父親が人を殺したという事実に、背筋が寒くなった。

32・ついに政府側の総攻撃が始まった。バリケードの学生達は次々と倒れてゆき、マリウスも全身に傷を受けてついに撃ち倒される。
一方、その場にはいたが攻撃は一切せず黙々と怪我人を救っていたバルジャンは、マリウスを無視しているようでいてその実、彼から目を離すことはなかった。一発の弾がマリウスを倒したとき、彼はすかさず彼の体を抱きかかえると、その場から素早く運び去った。
意識を失ったマリウスを抱え、どうやってそこから脱出するか思案しているとき、足下に下水道へと続く鉄格子を見つける。彼は地下の暗闇に降り立つことに決めた。

33・迷宮のような暗黒の中をくぐり抜け、外の光が見えるところまで辿り着くとそこには鉄格子がはまっていた。 出口はない。悲嘆にくれ膝を落としたバルジャンに、声がかけられた。見るとそれはテナルディエだった。 彼は脱獄して、警察に追われ下水道へ逃げ込んでいたのだ。
死んだように横たわった男(マリウス)の側にいたバルジャンを、 死体を下水道に捨てに来た殺人者と勘違いした彼は「奪った金を山分けにしよう」と言った。金を受け取り、合鍵を使って鉄格子を開け、バルジャンに出てゆくように合図したテナルディエは、そのとき、こっそりと死体(まだ死んではいないマリウス)の衣服の一部を切り取った。
(30~33 ミュージカルでは「まるで我が子です」とマリウスのことも心から愛したバルジャンだが、 原作では、実際のところ何度も見捨てようと思っていたようだ)

34・河原へ出たバルジャンは背後に人の気配を感じた。そこにジャベールが立っていた。
彼はバリケードから生還したあと、新たな任務を帯びて脱獄囚テナルディエを尾行していたのだが、その付近で見失っていたのだった。
バルジャンは自分から名乗りをあげ、マリウスを身内のもとへ送り届けるまで逮捕は待ってほしいと頼む。ジャベールは拒絶せず、辻馬車を呼んで、マリウスをジルノルマン邸へ担ぎ込んだあと、バルジャンとともに彼の自宅へ寄った。準備のため家に入るバルジャンに「私はここで待っている」と言ったが、バルジャンが用事を済ませて外を見ると、すでに彼はその場から消えていた。

35・ジャベールは街を歩いていた。彼は生まれて初めて経験する義務と感情の葛藤に、ひどく混乱していた。自分は正義を信じて生きてきた。正義とは法律であり、それを犯す者を許さない。そして一度法律を犯した者が善を為すなどとは、考えられないと思っていた。
しかし脱走囚であるジャン・バルジャンは、ジャベールを赦し、命を救った。そして今度は自分がバルジャンを赦してしまったのだ。それはなぜなのか。再犯囚を追いつめていながら、それを放免してしまった、これは明らかなる違反の罪なのだ。
この混乱した状態から抜け出すためには、二つの道しかない。ひとつは今すぐとって返し、バルジャンを逮捕すること。そしてもうひとつは……
彼はセーヌ川に身を投げた。
自らの義務を否定した自分を、自己処罰という形でしか処理できなかった者の最期であった。
(リーアム・ニーソン主演の映画版はここで終わっていました。おいおい……)

36・意識を回復してからマリウスが考えていたのは、コゼットとの結婚のことだけだった。
彼が意を決して再度結婚の話を切り出すと、祖父は予想に反してあっさりと同意した。彼は孫の愛情に飢えていたのだ。
老父フォーシュルバン氏と一緒に現れたコゼットを見て、ジルノルマン氏は一目で彼女を気に入ってしまった。マリウスとコゼット、二人の間には、もはや何の障害もなくなっていた。
結婚式は恙なく執り行われた。しかしその祝宴の場に、フォーシュルバン氏の姿はなかった。

37・バルジャンは自分の正体(本名を告げ、前科者の脱走囚であること、コゼットは赤の他人だということ)をマリウスだけに明かして、コゼットの前から去った。
マリウスは独自にバルジャンの過去を調べてみたが、よくわからなかった。しかし事実彼はバリケードでジャベール警視を射殺しているし、どうやら過去にはマドレーヌという人物を殺して大金を奪ったらしい。コゼットの持参金六十万フランも盗んだ金かもしれず、 手をつけることができないでいた。
一方で、自分を戦渦から救い出してくれた人物を捜したのだが、手がかりすら掴めずにいた。
しかし、金をせしめるつもりでマリウスの元に現れたテナルディエによって、バルジャンの過去がはっきりする。 彼はマドレーヌ市長本人であり、ジャベールは自殺したのであり、そしてバリケードから自分を救い出した人物だったのだ。 バルジャンに冷たい仕打ち(コゼットの側から離れるように仕向けた)をしてしまったマリウスはその行為を悔やみ、コゼットを連れて彼の元へと急ぐ。

38・バルジャンはコゼットに会えない悲しみによる絶望ですっかり老け込んでしまい、ひとり死の迎えを待っていた。
そこへ飛び込んでくる二人。マリウスは恩人に対する非礼を悔やみ、これからは一緒に暮らしましょうと頼んだが、バルジャンは「自分はもうすぐ死ぬ」と言った。そしてコゼットの母の名を明かし、かつて自分を救った司教から託された燭台の明かりのもと、コゼットとマリウスに両手を預けて息絶えた。
しかしその死は、彼にとってけして不幸な死ではなかったに違いない。




【参考にした本】
レ・ミゼラブル 岩波文庫版
レ・ミゼラブル百六景
レ・ミゼラブル みなもと太郎コミック版

*文中の表記はミュージカルのもので統一しました。