アナキズム界の巨頭であった大澤正道は、戦後日本の歩みに関して、自称左翼とは違って公平な判断を下した。石破茂が日本を貶めようとしていることに対して、怒りを覚えるのは保守派ばかりではないのである。
米英の連合国にとっては、日本との戦争目的は、日本人を抹殺することであった。だからこそ、戦闘員、非戦闘員の区別なく、無差別殺戮が行われたのであり、広島、長崎に原爆が投下されたのである。
それでもなお日本はドイツのような全面的な破壊を免れた。大澤は「昭和天皇は強力な求心力をなお国民の間に保持しており、天皇の裁断委よって一糸乱れぬ降伏となった。硫黄島玉砕や特攻隊などの日本軍の必死の好戦が、日本の完全破壊を米軍に躊躇させたことも付け加えておくべきだろう。玉砕や特攻作戦は日本の完全破壊を阻止する役割を、立派に果たしたのである」(『戦後が戦後でなくなるとき』)と書いている。
米英やそれに加担したソ連や中国による日本への弱体化政策は、まさしくその戦争目的の継続であった。第二段階として「人の心の征服」が断行されたのである。
日本はポツダム宣言を受託したが、その内容で注目されるのは「日本国国民の自由に表明せる意思に従ひ平和的傾向を有し且責任ある政府が樹立せらるるに於ては、聯合国の占領軍は、直に日本国より撤収せらるべし」「日本国政府が直に全日本国軍隊の無条件降伏を宣言し、且右行動に於ける同政府の誠意に付適当且充分なる保障を提供せんことを同政府に対し要求す。右以外の日本国の選択は、迅速且完全なる壊滅あるのみとす」の二点である。
あくまでも連合国による軍事占領は期間が限定されたものだったし、無条件降伏とは日本の軍隊に向けられたものであった。
しかし、昭和20年9月2日、統合参謀本部から出された連合国最高司令官の権限は「天皇及び日本政府の権限はマッカーサー元帥の支配下に置かれる。連合国と日本政府との関係は契約基礎の上にあるのではなく、日本は連合国に対して無条件降伏を行なったのである」との見解を示し、ポツダム宣言に反する声明を出したのだ。
そうした連合国の背信行為を日本人は批判することもできなかった。情報管理が徹底的に行われ、傀儡政権の樹立、戦争裁判、歴史の神話化で日本人を骨抜きにしてしまったのだ。いかに敵国であっても、ハーグ陸戦規則では、「占領地ノ現行法律」を尊重しなければならないのに、連合国はマッカーサーの強力な権限のもとで、日本国憲法すら制定してしまったのだ。
私たちは占領軍によって押し付けられた神話を、自らの手で否定しなくてはならない。戦後80年間にわたって、そこから抜け出せないでいることは、日本人として屈辱でしかなく、子孫に負の遺産を背負わせることなのである。