背伸びばかりして本を読んでいる身としては、沢木耕太郎はホッとする。レベルがどうのこうのではない。ニュージャーナリズムであるかどうかも関係がない。僕の背丈に合っているのだ。

 もしかすると、漢字があまり多くないからだろうか。僕の息づかいに合致しているからだろうか。よくよく考えてみると、足まめに取材しているから、スンナリと入ってくるのだろう。

 この本もそうである。題名からして『作家との遭遇全作家論』なのである。井上ひさしを論じながら、自分が目撃したエピソードから筆をおこす。心憎いではないか。それは山口瞳に対しても同じである。もちろん、それが全てではないが、ある種の実感が先行するのだ。

 「小林秀雄の文章には、香具師(やし)の啖呵のようなところがあり、眼で読んだだけのはずなのに、いつまでも耳に残っているようなものが少なくない」と書かれると、ついつい頷いてしまう。

 それぞれの作家が見事な取材者であり、語り手であるのだ。瀬戸内寂聴などの例を引きながら、沢木は賛辞を惜しまない。

 ドトールでケーキを食べ、珈琲を飲みながら読んでいる。こんな場所でも読めるのは、背伸びしなくても済むからなのである。