一仕事終わると、決まって足が向く場所といえば、僕にとっては会津柳津温泉です。柳津駅から虚空蔵尊円蔵寺を見上げながら緩やかな坂道を下ると、会津桐下駄屋、粟饅頭の店、小さな宿屋が並ぶ小さな門前町です。只見川を眺めながら、四季折々の風景を楽しむことができます。

 脚本家の山田太一さんが先月29日に亡くなられましたが、山田さんは「秋の駅」といったテレビドラマで、柳津町を舞台にしたテレビドラマの脚本も手がけています。

 僕は今日の午後、温泉に入るために会津柳津温泉の花ホテルに出かけところ、塩田恵介支配人が山田さんのことを話題にしました。もう30年も前にことであっても、取材を受けたときのことが忘れられないのだそうです。

 東京に一度出て、それから家を継いでいる柳津町の若い人の話を聞きたいということで、町役場が中に入って数人に声をかけ、一堂に集まってもらいましたが、2回目は塩田支配人だけ。その後はロケハンで塩田支配人は山田さんと2人で柳津町の隅から隅まで見て回ったのでした。その当時を思い出して、塩田支配人は「あのドラマの中で『花ホテル』という名前までも出してくれたんですよ」と述懐しています。

「秋の駅」というテレビドラマは、福島テレビ開局三十周年を記念して、1993年3月5日に、フジテレビ系列の「金曜ドラマシアター」で放送されました。主な出演者は田中好子、布施博、益岡徹、村田雄浩、小倉久寛、金山一彦、大森博、中原ひとみ、丹阿弥谷津子、千秋実、髙橋里香。

 駅のキヨスクで働いている美代子(田中好子)は、バツイチで子連れでしたが、彼女の思いを寄せる駅員の宗形(布施博)、農家の良雄(益岡徹)、警察官の砂子田(村田雅浩)から求婚されますが、なかなか踏み切れないという女心が描かれています。そこに死に場所を探しにきた老夫婦が登場したり、不法滞在者の外国人が、同じ国の女性に会いにきたりで、柳津町の地で様々な人間ドラマが繰り広げられるというものです。

 キャンディーズのスーちゃんが健気な女性の役を演じていますが、柳津駅のキヨスクということもあり、大都会では考えられない長閑の光景と、そこで生きる人たちの、やさしい心遣いが伝わってきます。「秋の駅」というタイトル名も、わずか3文字であるにもかかわらず、心に響くものがあります。