中国軍が尖閣諸島や先島諸島に侵攻してきたときに、自衛隊がどう対応するかをシュミレーションしたのが、中村秀樹の『自衛隊は中国軍とこのように戦う 尖閣諸島沖海戦』である。今から十一年前に光人社から出た本であるが、専門家でなくても、すらすらと読むことができる。

 中国軍は宮古島の自衛隊への襲撃、那覇の自衛隊施設への迫撃砲攻撃を行ってから、尖閣諸島ばかりか、先島諸島の宮古島、石垣島、与那国島を侵略した。出版当時は、与那国島に自衛隊の駐屯地はなかったが、日本の一番西の島で、先島諸島に属する。注目すべきは、主戦場となったのは、尖閣諸島ではなく先島諸島であることだ。

 日本政府が決断できずに、自衛隊は手の出しようがなかったというストーリーも説得力がある。中国本土と先島諸島の間に海上自衛隊の護衛艦6隻が集結し、海上からの増援を阻止しようとした。中国の軍艦3隻とにらみ合いとなったのである。

 しかし、中国が日本国内の親中派の政治家やマスコミを使って自衛艦の動きをけん制した。本格的な戦争を誘発させると騒ぎ立て、シビリアンコントロールからの逸脱だ、と親中派が主張したのである。これによって護衛艦6隻は尻尾を巻いて母港に帰らざるを得なかった。邪魔されることがなくなった中国軍は、先島諸島と尖閣諸島を自分の勢力圏とし、兵力と物資が船舶によって運び込まれたのだった。下地島空港も中国軍機の基地と化したのである。

 日本政府の対応が変ってきたのは、先島諸島の現状が伝えられ出したからだ。マスコミが報道しなくても、ネット民が情報を流したのだった。この結果、防衛出動に反対していたキャスターやコメンテーターも一斉に口をつぐむようになった。日本政府は放置しておくわけにはいかず、「速やかに領土の回復を図る」「回復にあたっては必要最小限の武力行使に留める」という方針を決めた。そして、いよいよ虎の子の海上自衛隊の潜水艦が活躍するのである。先島諸島を奪還するための特殊部隊を運ぶとともに、下地島空港の駐機場に潜水艦の甲板から迫撃砲で攻撃を加え、中国軍戦闘機をほぼ壊滅させたのである。

 ここから自衛隊の本格的な反撃は始まる。制海権を確保したい中国軍は、航空母艦を中心とした艦隊を先島諸島に向けてきたが、潜水艦によって進路を阻まれ大損害を受けた。空の方も中国軍機は航空自衛隊の戦闘機に圧倒された。これによって尖閣諸島や先島諸島を占領した中国軍は孤立し、海上自衛隊の輸送艦から発進したヘリが次々と陸上自衛隊の戦闘部隊を送り込んだほか、上陸部隊には戦車まで含まれていたのである。この段階で勝敗は決したのである。

 著者が強調したかったのは、中国の侵略を阻止するために日本国民が一丸となることであった。そうすれば、戦わずして勝つことになるからだ。現状では、平和ボケが逆に戦争を誘発しかねないのである。その戦いの後の日本国内の空気が一新したという文章は、親中派への警告でもある。

「自衛隊の行動を妨害したり、情報を漏洩した政治家、官僚、マスコミ関係者はネットで個々に事実関係が暴かれていった。中国の工作の有無は確認できないまでも、多くはその疑いが濃厚だった。中国系企業からの献金や、中国政府との関係や接触が明らかに過剰だったからである」

 中国軍以上に、日本人にとっての、内なる敵に油断してはならないのである。さらに、親中派と目されている岸田内閣は、最悪の事態になったとしても、オタオタするのは目に見えている。優柔不断に終始するはずだ。それだけに、この本は読む価値がある。政治が駄目であっても、日本を守り抜けるという希望を、私たちが持つことができるからだ。