「最近眠れないんだよねぇ~」
美猫姫が云った。
「お父さんに頼んでドライブに連れて行ってもらうかい?」
「ホント、わたし、車の中ではよく寝るよなぁ~」
朝から、そんな会話を交わす。
美猫姫は赤ん坊のころから、眠るのが下手だった。
「眠い」と云って泣き、「眠いのに眠れない」と云って興奮し、癇癪を起してさらに激しく泣き、吐き戻す。そんな日々……。
そんなとき、父親NGが車に乗せ車を動かすと、何とか寝ることができた。しかしながら、「寝た」と云っても、眠りが浅いので、抱き上げることもできず、持ち運び可能なかご型チャイルドシートに乗せたまま、部屋に運んでくることが多かった。
それでもまた目を覚まし、回れ右して、ふたたびドライブなんてことも……。
「猫さんが赤ちゃんのときは、お父さん、よく、仕事から帰ってきてから、猫さんが眠れずにいると、深夜にドライブに連れて行ってくれていたよ」
「申し訳なかったねぇ~。今でも車に乗るとよく眠れるのは、そのときの名残か?」
「まぁ、とにかく、先生に相談してごらんよ」
「そうだねぇ~」
ちょうど今日は通院日だったのだ。
美猫姫には、ふたり精神科医がついている。そのうちのおひと方は、「眠り」専門の精神科医なのだ。
午前中に、その先生と会い、午后からは、幼児期からずっと見守っていてくださる精神科医の先生。こちらはカウンセリング中心で、先生ご自身が美猫姫の話をよく聞いてくださる。
「とりあえず、薬の増量は見送って、まずは運動量を増やすことになったよ」
夕方帰宅して、美猫姫が報告してくれた。
「何をするつもり?」
「もう一駅歩くか?」
美猫姫、就労移行施設に通所中だが、今現在、地下鉄一駅分歩いているのだ。
「〇〇駅からなら、坂道も多いし」
その道、誘惑の多い道だ。門前街がつづいている。和菓子屋、ケーキ屋、団子屋、カフェ、ドーナツ屋にサンドイッチ専門店もあったかな?
sei-sei、今日は6803歩。猫さんはどれくらい歩いているのだろう?