「ねぇ、お母さん、お母さん!」
美猫姫が、楽し気に話しかけてきた。云いたいことはわかっている。
「ダメだよ。お母さんはただいま激しいジェルメ・ロスなんだから、あなたの押しキャラの話なんて、聞きたくない!」
猫ののろけ話(?)をシャットアウトする。
そう、sei-seiはただいま「ジェルメ・ロス」に苦しんでいるのだ。
「ジェルメ」とは、チンギス・ハーンの「四駿四狗」と呼ばれる8人の最側近のひとりで、テムジンの親衛隊を率いていたと云われる人物だが、もちろん史実の「ジェルメ」のことではない。
とある漫画に出てくる「ジェルメ」が最近の大のお気に入りだったのだ。
その漫画を、無料チケットを使って電子上でレンタルして楽しんでいたのである。
それが読み終わってしまった。
しかもレンタルだから、期限が切れた。
あまりにマイナーな作品の、主要でもないキャラクターだから、検索をかけても全く以って何ひとつ、二次創作のイラストすら引っかかってこない。
「買えよ」
美猫姫が云った。
「買って、ちゃんと貢げよ」
……。
「お母さん、検索してんの?」
「そう。楽天に出てる中古でいいからさぁ~、来月のわたくしの誕生日に、あなた方ふたりにおねだりしようかと思って」
「ぶんぶん、どうする? お母さんが、うちらに漫画を買えって云ってきてるよ」
「中古なら、4000円弱で、全巻揃えられるよ。でも、誕生日までにジェルメ熱、冷めるかもしれないけど。冷めたらいらない」
「面倒くさい親だなぁ~。誕生日の前日に『もういらない』とか云い出さないでよね」
ん~、保証はできない。