世間は狭いものだな、と思う。
先日、10年来の友人と久々に話をした。
彼女は隣町に住んでいる。ぶんぶん丸と同じ、中学2年生の息子を持つ母親だ。
「ぶんぶん丸のクラスに、同じ中2の男の子の転校生が来てね……」
男子の人数が増えてよかった、そんなことを話したときのことだ。
ちょっと変わった、その転校生の子の苗字を告げると……。
「もしかして、〇〇君?!」
彼女の息子さんの、元同級生だったのだ。彼女の息子さんは普通級在籍である。ということは、〇〇君は転校を機に、普通級から支援級に移動したということなのだろう。
彼女の話によると、小学校でも中学校でも、いろいろと問題を起こしていたらしい。彼女の息子さんも、トラブルに巻き込まれたことが何度もあるのだとか……。
「ぶんぶんに、あまり関わり合いを持たないよう、注意しておいた方が良いよ」
そんな忠告を受けたが、ぶんぶん丸のクラスは全員で8人だ。どう頑張っても、「関わり合い」を持たないことは無理にちがいない。
授業参観の折に、様子を観察してみることにした。授業参観は「体育」、生徒の様子の観察にはうってつけだ。
当日、彼の家族は、誰も来ていなかった。4月中旬にあった保護者会も、欠席だった。
授業中、彼は、想像よりは落ち着いて見えた。時折、「腹が痛い」だの「疲れた」だの云って、列を外れることはあったが、それなりに参加している。
そして、自分が「一番」だったときは上機嫌で、誰かにとってかわられると、舌打ちをして悪態をついた。
「ごめんね」
勝った子が、謝っていた。
彼は、体育館の出入り口付近でひとの気配があると、必ず視線を送る。度々、保護者たちが群れている壁際に、視線を彷徨わせもした。
自分が一位になったときは、挑むような眼で、観覧中の保護者達を見た。自分に、賛美の視線が集まっていることを、確認したがっているようだった。しかしながら、残念なことに、保護たちは、常に「我が子が一番」で……。
彼の要求に、十分には答えられない。
彼は寂しいのだ。何があっても「彼が一番だ」と云ってくれるひとを求めているのだ。
暗い目で、皮肉な笑みを浮かべながら、彼は待っている。
家庭には家庭の事情があろう。しかし、彼が満たされていないのは、事実である。
わたしの友人は、「かかわるな」と云った。彼と彼の家族は、何年、そんな他人の視線を受けてきたのだろう?
学校は、いばらの中になってしまったか?
それでも、彼は逃げずに、学校に通いつづけている。
気のイイクラスメートたちに囲まれ、この教室が彼の居場所になることを、祈らずにはいられない。