一体、感情とはいかなるものでしょうか。
一般に、感情と感覚とを同一視する傾向がありますが、両者は本質的には異なるものです。
例えば、身体に危険が起こった場合、これを避けようとする衝動運動が起こりますが、その時同時に恐ろしいという感情が起こってきます。
この恐ろしいが感情です。
また、危険という環境刺激の変化についての感受性が感覚です。
欲求が起こると、すべての場合において身心の緊張状態が生じますが、それと同時に緊張の感情が起こってきます。
この場合、その欲求が充足されるまでこの感情状態も続きますが、欲求が満たされると、欲求不満における緊張状態の感情が解消されて、喜びの感情が起こってくることは一般的に体験されることです。
その欲求の充足行動が妨害されると、その感情は怒りとか悲しみに変わることも体験されていることです。
感情は欲求行動の裏をなしているものであるとも言えます。
また、感情は行動や精神作用を呼び起こすところの動機であるとも言うことができます。
感情は欲求と裏腹をなすものですが、感情が必ずしも欲求にだけ見られる現象であるとは限りません。
意志においても見られることであり、知覚、感覚、その他、生理的現象において裏腹をなして見られる現象です。
感情は、われわれの心理的生活において、広い範囲を持っていることが分かります。
感情を分析すると、その感情の根底には、快・不快の感情があります。
ある雰囲気に自己が浸かったとしましょう。
その雰囲気というのは一つの感情の世界です。
その雰囲気が快=プラスであれば、自己は満足していることになります。
この満足したということは、自分にとってよかったことであり、このよかったことは、一つの印象となって自分の心の奥にしまわれるでしょう。
その印象が再びあるときに想起されると、もう一度その雰囲気に浸かりたいという欲求を引き起こさせます。
雰囲気が不快=マイナスであれば、自分はその雰囲気に不満であり、それを悪かったことという印象として心の奥にしまわれ、もう二度とその雰囲気には浸かりたくないと思うようになるでしょう。
また、その時の雰囲気が、快でも不快でもないとしたならば、感情現象と言うよりも別な印象が残るか、あるいは何も残らないでしょう。
さてさらに、これから先を知っておかなければなりません。
それは、快の感情が必ずしも肉体にとって有益であるとは限らないことです。
かえって害になる場合もあるとことを知っておくことです。
煙草や麻薬は快であっても、肉体的には有益でない場合が多く、これと反対に不快の感情が必ずしも肉体にとって害になるとは限りません。
例えば、良い薬は苦いし、注射は痛いけれども肉体にとっては益になる場合があります。
すなわち、マイナス感情であっても、それはプラス要因を含んでいるマイナス感情である場合があり、プラス感情であっても、それはマイナス要因を多く含んでいるプラス感情である場合があることを特に注意しなければなりません。
ここでカウンセリング(心理相談)に適応する一例をあげておきましょう。
例えば、夫婦喧嘩の末、仲人または カウンセラー (相談員)のところに来て、自分の不満や夫の悪口を言うことは不快な感情でありますが、それを聞いてもらうことが、むしろ快の感情であったりする場合など良い適応例であります。
「情緒」が起こると、人間の場合は表情が変わります。
例えば、顔が紅くなったり、蒼白になったり、呼吸や脈拍が激しくなったり、ゆっくりなったりする現象が伴います。
また、体が震えるとか、唾液、胃液などの分泌に変化が起こる。
このような変化を、電気抵抗の変化によって知ろうとしたものが「バイオフィードバック」です。
今日においては、脳波計や心電図計、呼吸計など機械的な心理検査機が作られています。
医学的には脳波計、心電図などがかなり高い位置において用いられています。
それでは、一体、なぜこのような変化が起こるのでしょうか。
それを生理的に解析してみましょう。
まず、感情が起こるということは、肉体にある緊張状態が起こったことを意味します。
この緊張状態を引き起こすということは、そこに何らかの反応を表わすことになります。
それは顔面に起こる場合もあるし、筋肉に起こる場合もあります。
また、その他の器官にも緊張状態を引き起こす場合があります。
これらの緊張状態が長く続くと、そこにストレス「Stress」 と言われる現象が起こります。
また、緊張は筋肉的緊張だけではなくて、そのような緊張状態を内蔵にももたらすことになります。
そのもっとも主な形は、脳下垂体に緊張を起こさせるホルモン S.T.H. Somatotrope Hormone (成長ホルモン)を放出させることです。
また、副腎を刺激して、副腎皮質ホルモン DOCA(ドーカ)Desoxycorticosterone acetate (デソキシコルチコステロン)を分泌させることになります。
この S.T.Hや DOCAは、心臓や腎臓の障害、血圧症状、関節炎などを引き起こす原因を作ります。
常に自然が要求する適量であれば、このようなホルモンは大切なものですが、度を越すと生理的バランスを崩し、このような症状を引き起こさせることになるのです。
そこでセリエ「Selye」という学者は、このままの状態におくとついに肉体は滅びてしまうはずなのに、なぜ、これらによる症状が起こっても、肉体がある程度これに抗していくことができるのかを研究し、これを究明しました。
すなわち、S.T.H.や DOCA を中和してしまう物質に注目し、1938年にその物質を発見したわけです。
その物質は A.C.T.H. Adreno-Corticotropic hormone と言います。
物質そのものは1930年スミス「Smith」によって発見されたのですが、中和作用を発見したのはセリエ「Selye」であります。
ある事象が起こる。起こるにはそこに何かの原因があり、その事象が消失するには何かそこに原因があるはずです。
この考え方の中にも、さらに次の思考の発展があります。
この中の事象が起こる原因についても、起こるには、起こる原因である事象とその事象を促進するところの事象があります。
すなわち、これをあるときには媒体的な要素として考える場合もあり、促進的な事象として考える場合もあります。
また、さらにその原因である事象の以前の要因にまでも思考範囲を広げていかれるように、頭脳の開発をしておくことが大切であるという事例として記憶しておいてください。
この A.C.T.H. という物質ですが、この物質を正確に言うならば、副腎皮質刺激ホルモン(脳化垂体における向副腎皮質ホルモン)です。
このホルモンが分泌されることによって、副腎皮質ホルモンの分泌が促進されます。
分泌された、すなわち、コーチゾン Cortison (束状層分泌)がそれですが、このコーチゾンは DOCA とか S.T.H. から起こる症状を中和させる作用を持っています。
これによって中和作用が理解できると思います。
まず精神的な緊張が起こるとアドレナリン Medullo adrenal hormone (これは副腎髄質ホルモンで、一般にアドレナリン Adrenaline と呼んでいるホルモンです)が血中に放出されます。
すると、心臓、欠陥収縮筋、気管支拡張筋、唾液腺、子宮神経などの機能が促進されます。
このため、脈拍が増加したり現象したりする傾向が起こるのです。
一方においては、抹消血管が収縮されるため顔面が蒼白となったり、内臓の血管は収縮するため血圧が亢進(上がる)し、眩暈(めまい)、耳鳴り、意識亡失、唾液分泌増加、呼吸困難、糖尿、嘔吐などの現象が引き起こされます。
このアドレナリンが血中に放出されますと、前途のように冠状動脈が収縮し、結局、心臓の筋肉は十分な血液の供給が受けられなくなって、ついには狭心症などを起こす原因を作ることになります。
一方、このアドレナリンは人間の危険に対処する作用を持っております。
それは、血管が収縮されるために出血を防いだり、反面、他の機能を促進する作用を一面において持っているからです。
このように、感情と内分泌器官との関係は、非常に密接な関係を持っていることが明らかになり、そこに情緒という現象をもたらしてきていることがわかったことと思います。
感情における精神的緊張状態の累積は、いかに心臓に負担を与えるかが想像できるでしょう。