川遊びに海水浴、花火に夏祭り、日本の夏は素晴らしい文化で溢れています。

この季節が一番好きという方もきっと多いことでしょう。

ですが、その一方であなたにも知っていただきたいこの夏特有の地獄も存在します。

それは夏になると決まって発生する病気、熱中症です。

暑さに負けて倒れるこの病は7月以降の本格的な夏入りを合図に急増し、地域によっては9月を過ぎてもなお発生のリスクがあります。

暑さなんて気合いと根性で乗り切れそう思っているいるあなたへ、熱中症はどのようなメカニズムなのでしょうか。

そもそも熱中症とはどのような病気であり、どれほど危険なのでしょうか。

まずはその点を整理しましょう。

人間は高気温条件でも正常に活動できるように汗をかいて体温を下げる機能を持ちます。

これは汗が蒸発する際に、その気化熱により、火照った体から体温を奪うというメカニズムです。

この設計は通常の環境下では非常にうまく機能します。

ですが日本の蒸し暑い夏のように、湿度が非常に高い環境では汗はうまく蒸発できず、冷却装置として機能しません。

汗の主な成分は水そしてナトリウムなどの塩分ですので、汗をかき続けるということはあなたの体から水と塩分が枯渇することを意味します。

さらに高温多湿の条件では汗が蒸発しにくいため、体温だけが上がり続け、あなたはさらに汗をかき、乾いた体からさらに水分と塩分が奪われるというように高温多湿という条件では、体温上昇と発汗という負のループが成立してしまうのです。

こうなると体内の重要な臓器が高温にさらされ、大事な水分と塩分も枯渇し、その体は正常な機能を失います。

これが熱中症と呼ばれる病気の正体であり、軽度の場合は軽い立ちくらみ程度ですが、脳が影響を受けた場合は錯乱したり昏睡状態に陥り、最悪の場合は死に至ります。

日本での熱中症は2010年以降から急激な増加傾向にあり、医療機関を受診した熱中症の患者数は年間で30万人程度、特に暑い夏であった、2018年は際立って多く、その数なんとおよそ60万人。

さらには2010年以降で救急搬送されたケースは年間4万人以上で推移しており、近年の年間死亡者数は1,000人を超えています。

ですので脅威の規模感という意味では熱中症は決して無視できないのです。

熱中症でどのような苦痛に襲われるのかについて考えてみます。

炎天下の中の作業で外に立ち尽くす、このような状態においてその体内ではまず初めに体温が上昇し、その影響で皮膚血管が拡張するとともに皮膚への血流量が増加します。

この時、血液は重力に引かれて足へとたまるため脳への血流量が減少します。

その結果、意識喪失、言い換えると立ちくらみが発生するのです。

これは 熱中症の初期症状であり、熱湿疹とも呼ばれます。

もしあなたがこのような状態に陥った場合、速やかに日陰へと逃げて、水分塩分を摂取し安静にしてください。

そのまま我慢し続けたり、運動したりすると苦しみに襲われることになります。

さて運動し続けると体は体温を下げるために、大量の汗をかき、水分と塩分を失い続けます。

喉の渇きに耐えられなくなり、大量の水をがぶ飲み。

一時的な潤いを得たようですが、この時その体内では熱中症の第2段階へと移りつつあります。

体は大量の発汗により、水分と塩分が枯渇しています。

この状態で水道水のような電解質が少ない水分を摂取するとどうなるか。

それは血液中に水だけが流れ込み、その塩分濃度がさらに薄まってしまうんです。

結果、熱痙攣と呼ばれる痛みを伴う筋肉の痙攣に襲われます。

この状態でさらに運動を続けるとどうなるのでしょうか。

体温は上昇を続け、皮膚血管はさらに拡張します。

すると体表面には血流が留まりやすくなります。

さらには動き続けるために、筋肉へ血液が供給されるため、このような二重の効果により心臓に戻る血液量が減少するのです。

その結果、脳を含む重要な臓器への血流量が減り、その機能に異常が出始めます。

激しいめまい、頭痛、吐き気に襲われ、同時に体温は上昇を続け、体温は40度近くまで迫ってくる。

体温を下げようと体は発汗を続けますが、湿度の高い日本の夏ですので、吹き出して汗は蒸発することなく、ボタボタと地面に落ちるだけ。

その液体はもや火照った体をなでるだけのしょっぱいお湯に過ぎません。

そしてとうとうその脳機能にも影響が現れ錯乱し始めます。

これは熱疲労と呼ばれる状態であり、熱中症第2段階へ突入したのです。

水分不足で汗すら出ません。

加えて皮膚血管は限界まで拡張しているため、皮膚表面からの熱放散もこれ以上は望めません。

その結果、体温は体の内部へと蓄積され続けます。

体温が40度を超えたあたりで、力を失い地面に倒れ込みます。

この体温を分かりやすく説明すると触れると暑いレベルです。

そして40度を超える体温で機能するように設計されていない人体は少しずつ壊れ始めるのです。

すでにその体温調節機能は喪失しており、時に痙攣したりおかしな言動や行動を見せたり、さらには過呼吸の症状も出つつあるでしょう。

このまま放置するとショック状態や昏睡状態に陥るかもしれません。

熱射病と呼ばれる状態にあり、これは熱中症の第3段階にあたります。

その危険度については、熱射病を放置するとその80%は死亡し、適切な処置を施しても生存者のうちのおよそ20%で脳損傷が残るといえばイメージしやすいのではないでしょうか。

最後に危険な熱中症で人が倒れた時の応急処置について。

まず、こちらからの呼びかけに応じない場合はすぐに救急車を呼んでください。

救急車の到着を待つ間に、その人を日陰のような涼しい場所へと移動させ服を緩めます。

氷嚢が準備できる場合は、これをタオルでくるんで首の両側、脇の下、足の付け根の全面に当てて冷やします。

これらの部位には太い静脈が流れているため、体全体の冷却効率が良いのです。

氷嚢が準備できない場合は濡れタオルを体に当て、うちわなどであおいて風を当てることも効果的です。

なお、呼びかけに応じない場合や意識障害がある時に、無理やり水を飲ませることは気道に水が入る危険性があるため厳禁です。

そのまま救急車の到着を待ち、点滴で水分を補給させる必要があります。