4月22日、iPhone の販売を行っている Apple が預金サービスを開始すると発表しました。
アメリカの銀行から預金が流出し、銀行が経営危機に直面している状況ですが、そうした中で金融業界のみならず話題となっています。
このアップルが提供する預金というのは、預金金利が4.15% もつくということで既存の銀行の10倍以上になりますので、ますます銀行がピンチになるのではないかそんな話も出てきている。
実はそんな簡単な話ではないというのがあります。
アップルはアップルカードの利用者に銀行預金口座のサービスを開始すると発表しました。
このアップルカードというのは2019年から金融大手ゴールドマンサックスと組んで始めたクレジットカードのことです。
このクレジットカードの利用者にゴールドマンサックス銀行の支店の口座が割り当てられるということで、このサービスは電子マネーとかではなくて預金保険の対象となる正規の銀行預金ということです。
この口座を提供するゴールドマンサックス銀行が破綻した場合には、25万ドルまで保護される口座ということになります。
そしてこのアップルとゴールドマンサックスが提供する預金の金利は4.15%になる見込みだとされていまして非常に高水準といえます。
全米の銀行の平均値の10倍以上ということで金利水準だけ見ると非常に魅力的に映ります。
ちなみに JP モルガン アメリカの普通預金金利は0.01%となっています。
iPhone の利用者などがこの預金を利用するという見方から、既存の銀行から預金が流出してしまうのではないかそうした声が上がる一方、意外とそう簡単には行かないという見方もあります。
というのは、銀行預金の流れというのは金利だけで決まってくるものではないということです。
実は地銀やネット銀行などを中心に普通預金の金利を4%程度に設定しているところは他にもあります。
これらの銀行に預金が集まっているかというと、そうはなっていないというのが実状です。
アップルと組んで預金の提供を行うことになったゴールドマンサックス銀行もその苦戦をしている銀行の一つです。
ゴールドマンサックスはもともと投資銀行だったので預金はやっていなかったのですが、リーマンショックを境に商業銀行に移行しまして2016年に預金サービスを開始しました。
ゴールドマンサックスの預金サービスはマーカスという消費者向け融資業務の中の一つですが、投資銀行で確固たる地位を築いてきたゴールドマンサックスとはいえ、新しい分野では苦戦をしているという状況です。
このマーカスというサービス 、ゴールドマンサックスがこれまで相手にしてきた富裕層や機関投資家ではなく、ネットの顧客をターゲットにしていてサービスの多くはインターネットで提供されています。
2016年にサービスを開始した直後は預金及び貸し出しが伸びて事業は順調に成長していくかに見えた時期もありましたが、システムの開発コストや預金を他社から取り込むための高い預金金利などに大きな費用がかかり、2022年時点でサービスを開始してからの累計の損失額が40億ドル、日本円で5000億円を超えたと言われていました。
ゴールドマンサックスは高いコストを払ってでも預金を増やす戦略を取っていて、預金金利を3.9%に設定していますが大きな効果は得られていないといったところです。
今回、アップルと組んで4.15%の金利は払うということで、これまでよりもさらに金利を上げるわけなんですが元々3.9%でしたので劇的に上げているというわけではないということです。
この辺を見ていくとなんだかアップルと組んだからと言って、ゴールドマンサックスが預金の獲得ができるのか怪しいなと感じてくると思います。
そもそもどこの銀行に預金をするかは、金利だけでは決まらないというのがあります。
信用力も非常に重要になってきます。
この信用というのはアナリストが信用力を分析してどうか、一般の人達からのその銀行のイメージみたいな部分も非常に重要になります。
例えば 日本の証券会社の大和証券という会社があります。
この大和証券は傘下に大和ネクスト銀行という銀行を持っています。
まだ日銀がマイナス金利政策を行っていなかった頃、この銀行も積極的に高い預金金利を設定して預金を取り込もうとしていました。
それなりに伸びてはいましたがメガバンクから急速に預金が流れていくようなことになったかといえばそういうことにはならないわけです。
ゴールドマンサックスに関してもそれと似た状況なのかもしれません。
それもあって自分で単独でやる道からアップルの看板を借りてビジネスをする方向に舵を切ったのかもしれません。
それからもう一つ、銀行が選ばれる要因として生活の一部であるということです。
買い物に例えると、どこのスーパーで買い物をするか、どのようなアプリを使うのかということも共通する部分だと思いますが、生活の一部になっているものというのはよほどのことがないと変えようとはしないものです。
どこのスーパーマーケットで買い物をするかというのは、その人の生活の一部なのでよほ大きなメリットがないと長年利用している店から別の店に帰るというのはなかなかしたがらないものです。
企業側からすると人々の生活に根付いているものを変えてもらって、顧客を取り込もうとなるとよほどのメリットがないと普通の人はやろうとは思わない訳です。
銀行とかクレジットカードとか電子決済とかも同じで、日本でも paypay などが当初ものすごい金額のコストを払って普及させようとしていたのを覚えている方もいると思います。
何百億円も使ってキャンペーンを行ったりしていました。
paypay を使った後に当たりが出るとお金が全額戻ってくるとか色々あったと思います。
そこまでしないと人々の生活に溶け込んでいる決済手段というのは変えられないというのがあります。
そこまでしてもそれほど大きく普及しなかったと言えるかもしれません。
そういう意味ではアメリカでは既存のクレジットカードであったり、大手銀行のサービスというのが多くの国民の生活の一部として定着していますので、それを切り崩していくというのは容易なことではありません。
これはアメリカだけではなく、先進国全般に言えることですがクレジットカードや銀行のサービスが定着しているので、新規参入者が少しくらい良いサービスを提供しても顧客を獲得できないというのがあります。
生活の一部として根付いているようなサービスに対抗するには、よほどの魅力がない限り、勝ち目はないというのが現状です。
ですのでアメリカではこれまで Apple Pay なども徐々に普及はしているものの、クレジットカードに代わる決済手段になるような勢いはなく、そういう意味ではアップルとゴールドマンサックスの預金のサービスについても大きく状況を変えるようなものにはならないのでは。