寝付けない、夜中に目が覚めるなどの不眠症状を抱えている人は、日本では約3人に1人。
不眠症として睡眠薬を利用するなどの治療を受けている人も多いが、服用する睡眠薬が高用量で多剤併用というケースが増え続けており、高齢者では転倒などの問題も出ている。
最近、日本で開発された新たな睡眠薬が普及し始め、不眠症の治療が変わっていきそうだ。
現在、日本では3種類の睡眠薬が使われている。
一昨年から使えるようになった新睡眠薬のスボレキサント(商品名ベルソムラ)は、これまでと異なった経路で眠りをもたらす。
今、日本で最も使われているのは1960年代に登場したベンゾジアゼピン(BZ)系の睡眠薬。
この睡眠薬は脳の興奮を抑えるGABAという神経伝達物質の受容体を介して働く。
筋弛緩作用や鎮静作用が強く、抗不安作用薬や睡眠薬として「よく効く」という実感が得られ、切れ味がいい薬とされる。
同時に長期間の服用で依存性が出るとされ、覚醒レベルの低下や、高齢者では夜間の効果が翌日まで続き、朝目覚めてときに転倒する危険があることなども指摘されている。
2010年に発売されたのが、体内時計に関係するメラトニン受容体に働く睡眠薬ロゼレム。
14年に発売されたスボレキサントは、覚醒に関わるオレキシンという神経伝達物質を阻害することで眠りをもたらす。
睡眠薬の使用に関する意識調査結果を見ると、副作用が気になるという人が約8割、やめられなくなるのではないかという不安を持つ人も約8割いる。
全体的に不安感が強いのが特徴だ。
今の睡眠薬の問題点は、BZ系を中心に高用量で多剤併用の人が増えていること。
長期連用や高齢者で睡眠薬服用による転倒やせん妄発症の危険性があることなどだ。
日本睡眠学会のガイドラインなどによると、これからの睡眠薬に求められるのは①単剤で使用でき増量の必要がない②中止できる③健忘・筋弛緩・転倒などのリスクが低いの3点という。
高齢者では非BZ系の睡眠薬がよさそう。
スボレキサントはGABA系の薬と異なり、意識レベルが下がらないので安全性が高いとされ、やめやすく、単剤で使えそう。
最初からやめやすい睡眠薬を使っていくことで、出口が見える不眠症治療が可能になるのではないか。
スボレキサントは飲むとすぐ効果があるのも長所。
一方のメラトニン系のロゼレムは効果がでるまで2週間かかる。
スボレキサントは発売からまだ1年半のためデータ集積が課題だが、長期大量服用が多い現在の睡眠薬使用状況を変えられるかもしれないという。
不眠症で受診するかどうかの判断で一番わかりやすいのは、昼間、特に午前中に我慢できない眠気がある場合。
高齢者は8時間ぐっすり眠りたいという人が多いが、高齢者はそれほどの睡眠は必要ない。
よく眠るにはまず、体を動かすなど昼間の活動性を高めることが大事だ。