医師が患者の自宅や介護施設などを訪ねて診察する訪問診療だけを専門に行う診療所の開設を、厚生労働省が4月から認めた。
急速に進む社会の高齢化に伴い、在宅での医療を望む人が増えることを見込んだ対応だ。
こうした診療形態は今後地域に増えていくのか、注目される。
要介護で通院が難しい高齢患者への訪問診療は、持病の悪化や体調の急変を予防する意味もある。
厚労省はこれまで、訪問専門の診療所を公式には認めてこなかった。
公的医療保険制度の中で診療する医療機関は外来患者に対応するのが基本との考え方からだ。
ただ実際には、ごく短い時間でも外来に対応していれば、開設を容認する例もあった。
背景にあるのは、通院が困難な高齢者の急増だ。
厚労省の推計によると、2014年に急病時の往診を含む訪問診療を受けた患者は1日当たり15万6400人。
1996年の7万2300人から倍増した。
厚労省は在宅での医療を充実させるため、外来に加えて訪問診療も担う「在宅療養支援診療所」の普及に力を入れてきた。
だが、日中に外来患者を診た診療所の医師が、深夜や早朝にもニーズがある訪問診療もこなすのは負担が重く、訪問専門の解禁を求める声もあった。
こうした中、政府の規制改革会議が、14年、厚労省に規制緩和を要請。同省は解禁へかじを切った。
日本医師会は解禁に原則反対の立場だったが、都市部で在宅医療に取り組む医師が不足している現状があることから、国の方針変換を消極的ながらも受け入れた。
しかし、訪問専門の診療所には同じ施設を巡回するだけで、効率よく軽症者ばかりを診察して荒稼ぎするのではと、医療の質低下を懸念する声も根強い。
このため厚労省は「地域医療に貢献してほしい」と、開設に厳しい条件を付けた。
具体的には①緊急時にいつでも連絡出来る態勢づくり、②患者の半数以上は重症者、③みとりは年20人以上、④施設入居の患者は全体の7割以下など。
これらを満たさなければ診療所が受け取る報酬は2割減となる。
訪問診療専門でやろうとすれば報酬が減ることになる。規制強化と言えるほど厳しい条件。クリアできる所は少ないのではないか。
本来は、患者の状態に合わせて外来から在宅医療まで手掛ける診療所が理想。
だが、患者に身近なかかりつけの診療所であっても、スタッフが手薄でケアに手が回らないこともある。
補完する形で24時間態勢の訪問専門診療所が連携すれば、患者のメリットになり得る。