がんになっても働ける人、生計維持のため働きたい人は多い。
 

治療の進歩で早期がんならほとんどが就労でき、進行がんの多くも通院治療が可能だが、問われるのは企業の対策だ。

 

厚生労働省が進めるプロジェクト「がん対策推進企業アクション」には約1900の企業や健康保険組合が登録し、早期発見のための検診率アップ、就労継続の推進に取り組む。

 

新たにがんを発症する人の割合(罹患率)が勤労者に高まっている理由に、労働人口構成の変化を挙げる。

 

定年後も働き続ける人が増えたが、がんが増える年代でもある。

 

働き盛りの30代後半から40代にがん発症が多い女性も、社会進出が進んだからだ。

 

国立がん研究センターによると、がん患者の3人に1人は就労可能年齢で診断される。

 

2014年度の1年間にがんと診断された従業員がいた会社は回答企業の46%に上がり、従業員千人以上の企業では94%に達した。

 

大手下着メーカー、ワコール(京都市)の健康保険組合は加入者の約85%が女性。
 

乳がん検診車を自前で購入して受診率アップに力を入れる一方、喫煙室の削減や社員のがん研修などで意識改革に取り組んできた。
 

検診率を上げるには財布要らず、手間要らず、休み要らずが大切だ。

 

個人による費用の立て替え払いを、組合が直接清算する形に改め、受診が1度で済むように定例検診の日にがん検診も受けられるようにした。

 

検診車を会社に横付けし、仕事の合間の受診をしやすくした。

 

小さな企業ほど経営者の考え次第で工夫の余地がある。

 

症状や治療の選択、年齢、体調により、がん患者ができる仕事は千差万別。

 

会社がどんな規模でも、働く環境づくりには本人の状況に合わせたきめ細かい対応が必要だ。
 

従業員200人余りの建設会社、松下産業(東京)は子育て支援やキャリア相談、労務・健康管理などの相談を一括して受ける部署を設けている。
 

がんになってから1年以上働いた人が過去10年で10人。

 

13年に脳腫瘍が見つかった社員は手術と放射線治療などを経て3か月後に職場復帰。

 

再手術などの治療の間も断続的に職場に戻った。

 

対策の要点として強調したのが社外の専門家の活用だ。

 

主治医のほか、社会保険労務士(社労士)や産業医、医療ソーシャルワーカーが助けになる。
 

会社の業務内容を知る産業医は病状を把握し、治療中の働き方を助言する。

 

各地のがん拠点病院にある(相談支援センター)ではソーシャルワーカーが治療の進め方のほか、生計や就労の悩みを聞く。

 

社労士は社会保険や労務のプロ。

 

福祉や年金の制度に詳しく、がん患者の傷病手当や健康保険、障害年金の取り扱いなどについても相談に応じる。

 

社員が安心して働けることは事業継続に必要なだけでなく経営にもプラス。