中編では脳のスリップ現象が起こる為、筋肉の動作でボールをコントロールするとミスが増えるので、身体(足)の質量でボールを止めると、動きの自由度が一つ上がるという話をしました。
「でもちょっと待って。プロは複雑な手順のムーブをこなしているし、身体が混乱をきたしている様にも見えないんだけど?」と思われる方もいらっしゃる事でしょう。
その通りです!
身体は3つ以上の動作を行おうとすると、大脳の各担当するエリアから運動パターンを引き出してきて小脳がそれらをコーディネートしようとします。
しかし、その特定の組み合わせを数多くこなすと回路が太くなり、回路は混線もせずに意図した順番でこなせるようになります。
いい例が下の動画の17:54にあります。
このシーンで通常であれば「ボールを右足でなめて」、「右足を地面について体重を止め」、「左足でボールを逆に弾く」という順番になります。
しかし熟練していないと、「ボールを右足でなめて」、「ボールを左足で逆に弾き」、「右足を地面について体重を止める」ように体は動こうとします。
行動の順序が入れ替わっているのに気づいてもらえるでしょうか。
なにか難しいことを言っている様に思えますが、これはテクニックをマスターするというプロセスにおいて誰にでも起こっていることです。
逆に言えば、テクニックをマスターするとは運動パターンの神経回路を太くし混乱を起こさせないようにするという事に尽きます。
では、フィールドの色々な状況ごとに、テクニックを身に着ければ素晴らしい選手になれるじゃあないかと考えがちですが、実際にはそうはなりません。
あえて断言しますが、ヨーロッパのトッププロでもそんな無意識レベルのテクニックを状況ごとに持っている選手は一人もいません。
デヤン・サビチェビッチのストップ&ゴー
セルジオ・ブスケッツのボールを引く動作
ネイマールの順足と逆足のソールでのボールを引く動作
せいぜい状況を無視して行える、いわゆるSignature Moveと呼ばれるものを2つか3つ持っているくらいです。
その確実に相手を抜ける一つのテクニックを軸に、Body Profile(身体の向き)を変えてみたり、近い動きの技に応用したりして、自信を持って使えるテクニックの体系を組み上げています。
それは何故か?
単純に一つな無意識な運動パターンを身に着けるのにも膨大な時間がかかってしまうからです。
また個人の身体の特性、ポジション毎に出来上がる身体の使い方にもとづく、各テクニックのパターン同士の相性の問題も無視できません。
すでに身体の出来上がったウィングの選手がゲームメーカーの得意技を身に着けようとするのは時間の無駄なだけでなく、故障の原因にもなります。
コーチングの世界でよく「17歳を過ぎたら全く別の種類のテクニックは身につかない」と言われます。
私自身は選手のメンタリティ次第で身に付くものもあるとは思っています。しかし、それ自体がその選手にとってポジティブな変化になるかどうかは議論の余地があります。
またそういった「テクニックの寄せ集め」を行ってもあなたのプレーレベルは全く向上しないという事だけは断言できます。
参考までに指摘すると、例に挙げたプレーの中でネイマールは最初の「右足でなめる」という動作をジャンプの終わり際で行うことで、ボールを足の筋肉ではなく足の質量で動かしています。
それ故に、その後の「右足を地面につけて体重を支える」という一連の動作の神経的負荷を減らし、スリップ現象が起こるのを防いでいる訳です。
選手の時間が有限である以上、様々なパターンを身に付け、テクニックで状況に対処するという事には必然的に限界があります。
相手を抜けるドリブルを獲得したいのであれば、様々な状況に応用できる身体の使い方の質自体を向上させましょう。
"千招有るを怖れず、一招熟するを怖れよ"
千個の技を持つ者を恐れるな。
一つの技に習熟する者を恐れなさい。 李書文
"四方投げひとつができればええんや" 植芝盛平
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