『光る君へ』の彰子姫の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

『光る君へ』での彰子は、打っても響かない感じが『源氏物語』の女三の宮のようだとネット上で言われていました。子役時代もずっと寝ていたり、客にちゃんと受け答えができなかったり、母と祖母に「言葉が遅い」と思われたりしていました。

 

道長と頼通・教通兄弟による摂関政治を「実質的には上東門院 彰子による院政だ」と言う学者もいるくらいですから、このままってことはないのでしょうけど。まひろが家庭教師として彰子を皇室のゴッドマザーへと育てるんだとしたら、任は重くして道は遠そうです。

 

 

『光る君へ』では、道長も倫子も「入内は女性を不幸にする」という考えでしたが、穆子ママの〈左大臣の妻講座〉によって方針転換。出家したはずの中宮が内裏に入って懐妊するという異常状態が引き起こした邪気を祓うため、彰子をいけにえにするという決断でした。

 

一条天皇の譲位・三条天皇の即位を当面防ぐためには、致し方ないでしょう。春宮 居貞親王の母は道長の同母姉 超子ですが、すでに死去していて影響力がない。また、居貞親王の第1皇子の母は藤原北家 小一条流出身で、九条流の道長とは縁が薄い。代替わりによって道長が権力を失えば、つぎは右大臣 藤原顕光(道長のいとこ)、ついで内大臣 藤原公季(道長の叔父)が首座になってしまいます。実資さんが『小右記』でさんざん無能呼ばわりしている人たちですやん……。

 

彰子の裳着で流れていたのは、一条天皇即位式のときと同じパイプオルガンでした。子どもが政治の犠牲になるという象徴なのでしょうか。裳着の腰結い役は詮子女院。彰子の後見人になるという意味なので、一条天皇が彰子をないがしろにしたら、詮子女院が怒鳴り込んでくるってことです。うわー。

 

 

一条天皇が尼さんのはずの中宮 定子を内裏に連れ込んで大殿籠ったのは史実です。この時点の日本では女性が正式に尼になることはできず、〈尼姿の人〉に過ぎないので、ぬるっと俗人に戻ってもいいっちゃいいんですけど、尊敬できる振舞いとは言えません。髪を切って仏教徒丸出しの姿で、三種の神器が安置された神道の聖地たる内裏に居座ってほしくもないし。

 

仏教そのものが絶対ダメってことではないんです。国家鎮護のために利用することはしますし、平安時代に入って神仏習合(日本の神々は仏が仮の姿をとって現れたものという考え方)が流行しますし、また個人的には皇族が仏教徒であっても問題はない。

 

じっさい、清涼殿の北には仏間がありますし、清涼殿の中には僧侶の詰所があります。しかし仏教用語を忌むので、仏間は黒戸(くろど。戸が煤で黒くなったあの部屋)と言い、僧侶の詰め所は二間(ふたま。3×6メートルの空間)と言ってボカします。喪中の中宮が宮中祭祀が行われる際に職の御曹司に移るのも、服喪が仏教的な行いと考えられていたからです。

 

仏教はしょせん新興宗教ですから、仏教伝来以前から続く宮中祭祀のほうが優先されるべきです。たとえば、現代の皇族が新興宗教のペンダントをつけて公式行事に出席してたら、「宮中祭祀はちゃんとやってるんですよね???」と不安になるでしょう? だから忌み言葉まで使って仏教感を消そうと頑張っているのに、仏教の尼僧っぽい姿で内裏に入るなって話なの。しかも大殿籠るなんて、「中宮が内裏を邪気で穢したから、天譴(てんけん。天罰)が打ち続く災害となって現れた」と言われても仕方がない。一条くんが目を覚ましてくれるといいんですけどね。