『光る君へ』の中国語の話 | 星野洋品店(仮名)

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「粛静! 我是新任的越前的国守!」(静かにせよ。私が新任の越前守である)

 

『光る君へ』第21回の藤原為時のセリフを書きとってみました。うーん、たぶん現代中国人にも当時の宋人にも通じないわ。演者の岸谷五朗の失敗ではなく、そういう演出だと思う。ほんものの宋人と接触したことがないのに、あそこまでしゃべれるのは立派なことですよ。ちなみに、オウム(声は人気声優 種崎敦美)の言っていた「ニーハオ」も声調(アクセント)が間違ってましたね。オウムなので仕方ない。

 

『光る君へ』での中国語は、いわゆる普通話(プートンホア)のようです。北京官話(北京の役人の話し方)をもとにして作られた中華人民共和国の共通語です。これは「中国語を名乗るんじゃねぇ!」ってレベルで訛ってるんですね。日本語の漢字読みのほうがまだマシ。

 

第21回(996年)時点での中国の王朝は北宋(960-1127)。ここまではまだ全国的にマトモな中国語です。書き言葉と話し言葉の差異も少ない。ところが、このあと黄河流域は女真族の金(1115-1234)とモンゴル人の元(1271-1368)に支配されたため、異言語話者にも覚えやすい発音・アクセントに変化します。

 

いちばんわかりやすい変化が、入声韻尾(にっしょういんび。語末の子音)の消滅です。粛はシュクからスーに変わりました。普通話では、粛・粟・素がぜんぶ同じ sù になっちゃうんです。日本語の漢字音は変化前の中国語の音を残しているので、韻を踏めているかどうか判定するのは、現代北京人よりも日本語話者のほうが有利だったりします。

 

ほんとうに北宋っぽくしたかったら、発音の歴史的変化が小さい台湾語がよかったかもしれません。『鎌倉殿の13人』で陳和卿役だったテイ龍進さんなら台湾系なので、監修できるでしょうし。たとえば「我」は普通話で「ウォー」、台湾語では「グァー」。日本語の漢字音では「ガ」ですよね。まあ、そこまで凝った演出をしたって、ほぼほぼ誰も気づかないけど。