一条天皇の好きなものの話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

第13回から本格的に登場した高畑充希。演じている藤原定子は数え14歳または15歳なのですが、おおむね良かったのではないでしょうか。我々はすでに数え11歳の北条泰時(坂口健太郎 当時30歳)を受け入れてしまったのだから、実年齢32歳の14歳役なんて、どうってことないさ。

 

小中学生くらいの年齢の役を大人の俳優が演じるのは仕方ないと思います。陽気な従姉妹のお姉ちゃんであり、姑から微妙な悪感情を向けられて戸惑う嫁でもある役を小中学生に演じさせるのは酷だもの。うまくできるかわからない子役に賭けるより、童顔の俳優にやらせる方がいいでしょう。時間制限のある中で芝居の稽古をするのは限界があるし、児童虐待になりかねない。

 

 

清涼殿 昼御座(ひのおまし)に置かれた大床子(だいしょうじ。天皇が座る長方形の台)に座った一条天皇は、定子から好きなものを問われて、「母上、椿餅、松虫」と答えました。

 

定子は「お上のお好きなものを、わたくしも好きになります」と言いながら、「虫だけは苦手」なのだそうです。きっと、詮子義母上のことも苦手だよね? 少なくとも向こうは定子を嫌ってるよ……。

 

詮子女院が自身の姪にあたる皇后定子を嫌っていたことは、歴史上の謎のひとつです。従来は、姑の嫁いびりであるとか、詮子女院が道長を気に入りすぎて、ほかの兄弟や甥姪に冷淡であったせいだと説明されていました。

 

本作では、兼家パパが円融天皇に毒を盛り、詮子が犯人と疑われたことから、夫に嫌われる原因を作った父を憎み、父に唯々諾々と従う道隆のことも嫌いなので、定子もトバッチリを受けたという解釈ですね。

 

松虫と鈴虫は、平安時代と現代では名前が入れ替わっています。平安時代の松虫は現代のスズムシで、リリリリーンと鳴きます。平安時代の鈴虫は現代のマツムシで、チンチロリン。一条天皇はリリリリーンの松虫(スズムシ)がお好き。

 

椿餅

 

写真は一条天皇の好物だという椿餅(つばきもち/つばいもちひ)の現代バージョン。道明寺粉を使った関西風桜餅から食紅を抜いたものをツバキの葉で挟んであります。平安時代のものはアンコを入れず、甘葛煎(あまづらせん)で甘みをつけます。

 

『源氏物語』第34帖「若菜上」では、蹴鞠の会のあとで軽食として供されています。参加者の若者たちはふざけあいながら食べていましたが、柏木衛門督(かしわぎ えもんのかみ。頭中将の息子)だけは、女三の宮を垣間見た衝撃から沈み込んでいました。高貴な女性の立ち姿という激レアポーズを見てしまったことに運命を感じちゃったんだね。一緒に見ていた夕霧(光源氏の息子)は常識人なので、女三の宮の軽率さにドン引きしてたけど。

 

甘葛煎は、『枕草子』の「あてなるもの(高貴なもの)」の段で、削り氷(けずりひ。かき氷)にかけて食べたというシロップです。原料には諸説ありますが、奈良女子大の再現実験ではナツヅタの樹液を煮詰め、10グラムで2万円ほどになるとか。甘葛煎そっくりの味に調整されたシロップは、200ミリリットルで1,500円で市販されているそうですよ。