御袍の話 | 星野洋品店(仮名)

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とある洋品店(廃業済み)を継がなかった三代目のドラマ感想ブログ

〈袍(ほう)〉というのは、いちばん外側に着る大陸由来の長衣のことで、位階によって形や色が決まっている位袍(いほう)とプライベート用の雑袍(ざっぽう)があります。

 

雑袍は直衣(のうし)とも呼ばれ、〈ただの衣〉の意味で色や文様には特に定めはありません。形は位袍の一種〈縫腋の袍(ほうえきのほう)〉と同型で、指貫(さしぬき。裾の緒を締めて足首に結んで履く袴)を合わせます。

 

『光る君へ』では、貴族たちの普段着が狩衣(かりぎぬ。脇を縫いあわせない運動着)になっていますが、平安中期ぐらいだと直衣が主流かと思います。外出時と家居とで服装が違うと視聴者が混乱するという配慮から、普段着を狩衣に統一してあるんでしょう。道兼兄ちゃんが第1回で返り血を浴びた後も同じ緑の狩衣を着続けていることからも、狩衣の色でキャラクターを覚えてほしいという制作側の意向が感じられます。

 

 

大陸の朝袍(官僚の仕事着)は腰をベルトで締めてあるだけなので、裾は足元まであります。日本の袍はたくしあげてから腰ひもを締めるので、裾は膝下まで。日本は床に座る文化なので、立ったり座ったりの便宜のために裾短(すそみじか)に着るのでしょう。

 

天皇の場合は腰ひもを締めない着方で、下げ直衣といいます。袴は長袴。あれさ、見てて不安になるんだよね。裾に蹴つまずいて転びそうじゃん? 円融天皇役 坂東巳之助は歌舞伎の衣装で慣れてるから平気だろうけど、花山天皇役 本郷奏多は危ないんじゃないかと、ハラハラしてしまう。

 

仮に天皇がすっ転んで流血しようものなら大騒ぎですよ。「玉体に傷がつくことは国家の危機!」という話になって、坊さんと陰陽師に取りかこまれ、一晩中祈祷されちゃいます。平安時代の貴人は30代40代で亡くなる人が多いんですが、なにかっちゃ一晩中祈祷されて、寝不足からのストレスで早死にするんじゃないかと思ってる。