みなさん、矢田部……じゃなくて、田邊教授がとうとうやりましたよ! キレンゲショウマを発見! 長かった。ほんとうに長かった。休憩のためにそこら辺に座っただけで新種を発見してしまうどこかの天才と違って、血と汗と涙と帝国大学の予算と人員の結晶です!
発見地は四国山地の最高峰・石鎚山。オランダ東インド会社が派遣したケンペル、シーボルト、ツンベルク、そしてロシアのマキシモビッチが、日本のたいていの植物を発表しちゃったあとなので、外国人があまり行かない四国の、標高の高いところを探したのは正しい判断でした。
学名の属名は日本語のまんまで Kirengeshoma palmata (掌状葉の黄蓮華升麻)。作中では Kirengeshoma turbinata (倒円錐形の)でしたが。和名のキレンゲショウマは、キンポウゲ科のレンゲショウマ(蓮華升麻)に似ていることから。キレンゲショウマはアジサイ科(古くはユキノシタ科)です。
もともとキンポウゲ科のサラシナショウマ(晒菜升麻)という薬草があって、それに少しでも似ていれば〈なんとかショウマ〉と名づけちゃうんです。なので、キンポウゲ科、アジサイ科、ユキノシタ科、バラ科、メギ科にまたがって、なんとかショウマが存在します。トガクシソウ(メギ科)も別名をトガクシショウマといいます。ややこしい。
せっかく新属を立てる大発見をしたのに、田邊教授は帝国大学を追放されてしまいました。ムジナモの花の発見が田邊教授の実績になってれば、こんなことにはならなかったかもしれません。おのれ、万太郎め!
追放されたとはいえ、田邊教授がアメリカから植物学を持ち帰った功績まで消えるわけじゃない。シダは地上の植物たちの始祖にして永遠。聡子ちゃんがこの言葉を田邊教授から聞いた時、なんのことか分からないと言っていましたが、ちゃんと覚えていたんですね。こんなに慕われて、田邊教授は幸せ者だよ。