奥田英朗作 『沈黙の町で』
この小説について、何度もブログに書いてきましたが、今回でおわりにします。
新聞で連載されていた間も、書籍になって読んだ時も、物語の世界に、たいへんひきこまれました。
奥田氏による、学校生活における「いじめ」問題の描かれ方が、真に迫っていたからです。
上の画像は、本の表紙を撮影したものですが、銀杏の樹が表紙です。
この小説の舞台となる中学校の部室棟の隣には、樹齢100年を超える銀杏の樹があるのです。
物語のはじめ、学校内で遺体で発見された少年(名倉くん)は、この木から落下したのではないかと思われます。(名倉君の手のひら、衣類に樹皮が付着)
部室棟から、銀杏の樹に飛び移る事は、男子生徒たちが日常的にやっていた「度胸だめし」でした。
しかし、運動が苦手で、おとなしい性格の名倉君が、自分からすすんで飛び移るだろうか?
いじめにあっていたとしたら、だれかに強要されたのではないか?
警察は、その可能性を視野に入れ捜査を開始、日頃、名倉君と行動を共にすることが多かった4少年に疑いをかけるのですが…。
捜査が進むにつれ、4少年の逮捕・補導は『勇み足だった…』との声が、警察内部からも出る事態となります。
名倉君の死に、4少年が関わっているかどうかは、まったく証拠がない状態での『別件逮捕』でした。
4少年は「傷害容疑」(名倉君の背中をつねった事実を認めた)により、身柄をおさえられてしまったのでした。
私は、この本を読むまで、漠然と、男子生徒の世界について、不良グループと一般生徒グループは完全に分離しているんじゃないかと思っていました。
そうでも、ないのですね?
「不良の餌食にならないようにする」という事は、一般男子生徒にとって、大事なテーマだったのですね…
逮捕された1人、瑛介君は、弱い者いじめはしないけれど圧倒的なケンカの強さ、男気のある性格により、不良グループからも、一目おかれていました。
その瑛介君でさえ、不良の作為的なふるまい(不良少年が、瑛介君の携帯を使って、名倉君にたかりメールを送信する。一見すると、瑛介君が、たかりの首謀者のようにみえる)に翻弄されているところもありました。
あ、しかし、不良グループが、名倉君の死に関与していた、という事もないです。
(真相は、本を読んでたしかめてください)
この小説の、すぐれているところの一つに、「さまざまな視点から、読者に状況をみせていく」手法が、あげられます。
登場人物ごとの視点により、事象のとらえかたが、大きく変化し、物語にいっそう深みをもたせています。
たとえば、前記事でかいた「キャンプ事件」で、生徒たちがテントを抜け出していることに気づいた先生は、中村という学年主任ですが…。
生徒の規則違反を見逃さない、強い教師といえます。
学年集会で、違反生徒たちを「集団生活を乱す馬鹿者」と叱り、他の生徒たちには、「先生は悲しい。どうして門限破りを止める生徒がこの中にいなかったのか。先生に知らせてくれる生徒がいなかったのか」と言います。
「いるわけないじゃん」と心の中で、茶々をいれる生徒たち。
「先生たちは自分が中学生のとき、大人に告げ口をしたというのか。もしそうなら、とても嫌な奴だ。自分の中学時代のことはもう忘れたのだろうか?不思議でならない」
↑先生と生徒の生息地がちがうことが、このようなかたちでしめされます。
この中村先生は、学校の「危機管理」に関する意識もしっかりしており、なにかと後手にまわる校長と対極に位置し、報道陣や遺族に対する姿勢についてハッキリ意見をもっている人です。
この人以外にもアクの強い人物が次々と登場し、物語にメリハリ(笑)をもたせています。
名作です。読んでみてくださいね(*^ー^)ノ