現在、いじめ問題が世間の大きな関心事となり、大津事件ほか連日、報道が続いている。
この問題で多くの人が、疑問と怒りを感じたのが、教育者サイドの「情報の隠蔽」であろう。
隠蔽は、なぜおこるのか。
「あってはならないこと」と思っている事が、周知の事実となれば、自分自身の立場も危うい…そう判断する状況で隠蔽の心理が働くのではないだろうか。
「いじめはあってはならない」
「いじめの被害者を救済できず、加害者に加害行為をやめさせることができなかった。この事実が周知されたら教育者の権威失墜は免れない。それはあってはならない」
…という心理で隠蔽に、はしったんだろうな。さらに「隠蔽したこと」じたいが恥なので、それも知られたくなかっただろう。その対応は、苦しみを被害者サイドに全部おしつけるかたちになってしまったのだが…。
こういった例をみて思うこと。
私たちは、頭の中で「あってはならない」と唱えるよりも、いっそ、
「人間社会に弱い者いじめはつきもの」「隠蔽もつきもの」
と、思って生きていったほうが、まだマシなのかもしれない。
さて、このところ、がん医療について記事に書いてきたが、この世界においても同様のことが言えるかも。
医療サイドが、医療をうける側に必要な情報をつたえてくれない、ということはめずらしいことではない。
がん医療(検診をふくむ)の、こういう問題について医療サイドに身をおきながら指摘し続けているのが、近藤誠先生。
近藤先生は乳がんの「温存療法」のパイオニアとして知られる存在だが、多数の著書をとおして、過剰診療について問題提起をされてきた。(もう20年近く)
それによって論争がおこり、ベストセラーになった著書もある。
この先生の主張、どのくらい受け入れられたのかな。医学界からはかなり反発があったときいているが。
私は、近藤先生は正直な発言をされているように思えた。
がんに関して、まだ未解明の部分は多い。近藤先生は、現時点での医療の限界について、かなりふみこんで言及している。また、「がん医療産業化」の構造が、医療サイドのための医療をつくりあげている問題を浮かびあがらせた。
私は保健師なので、近藤先生が問題を指摘している、検診事業を推進する側で働いていた時期もありました。
近藤先生が著書にかかれた「早期発見神話」には衝撃をうけた。検診受診率の向上は早期発見につながり、それは、がんの死亡率を下げるほうに作用すると信じていたから。
しかし…「早期発見、検診の重要性」を掲げたわが国は、がんによる死亡率を下げることができなかった。(検診よりも生活習慣(とくに食)改善を、うちだした米国は、罹患率を下げることに成功している)
早期発見が重要視されてきたのは、早期治療につなげるため。
これは間違った考えとは言えないが、上記の啓蒙が、「がんという病気は手遅れになった場合、死に至る」という恐怖感とセットになったとき、いやおうなく積極的治療のレールに押し上げられる。
近藤先生は、がんに対する「無治療・様子見」も立派な対処法のひとつと言い切る。
検診の有効性や早期治療の推進に対し、疑問を呈する姿勢は一貫している。
「早く治療しないと転移する」という社会通念は、本当に正しいのか?
これについての、近藤先生のお答を以下に書きます。
※転移は通常、初発病巣が発見されるずっと以前に成立している。ただ転移病巣が検査で発見できる大きさではないので、初発病巣発見時には、転移の存在がわからない。
(このことは、転移の出現時期と、がんの成長速度から推察できる)
※多臓器への転移は、初発病巣を治療してから2年~3年のうちに出現するケースが多い。
それで「5年生存率」が治癒の目安として、よく用いられてきた。
※転移病巣の成長速度について。直径倍増時間の平均はおよそ6か月。