「ごめんなさい」
彼女は確かにそういった。
彼女の挙動がおかしくなったのは三ヶ月前からで、朝帰り、夕方からの外出。
デートの約束もすっぽかしてた。
俺は浮気と確信した。
長年連れ添った関係が一気に崩れた。
「でもねこれだけはきいて」
俺は耳を塞いだ。
「あなたとの為だから」
聞こえない何も聞こえない。
これは浮気だと思ったから。
「人の話聞いてる?」
聞いてない。怒りで殴りたくもなるそこはぐっと抑えたが。
「今週末空いてる?大事な話があるの」
俺は別れ話と気づいた。
今でいいじゃん。そう伝えると彼女は確かにと首を縦に頷いた。
「結婚してください」
耳を疑った。どういう事だ?
「寝る間も惜しんで指輪買っちゃった!つけて」
逆プロポーズですか?
「心配かけてごめんね。私あなたより年上だから、このくらいやらなきゃ」
と言って指輪を差し出した。
シンプルなデザインのペアリングだった。
浮気じゃないの?
と問詰めると。
「給与明細見る?」
と返してきた。
信じるしかない。
28にもなって、彼女にリングさえ渡せない自分を呪った。
疑ったことを呪った。
ごめん。
「結婚してください」
勿論俺はオーケーと言った。
だけどもう少し待ってほしい。
俺がいい指輪買ってやるからそれまでは。
彼女は頑張ってくれたんだから俺も頑張らなければならない。
彼女は泣いていた。
「ありがとう」
と繰り返し泣いていた。