フェンス越しに空を眺めていた。
思えばこの20年間、いい事なんてなかった。
特に楽しいこともなくて、お金もない。
仕事から帰るバイクで目を瞑って帰った日もあった。
でも死ねなかった。生きてた。
風が吹くとフェンスがカタカタと音を立てた。
精神科の医者には薬を飲めば楽になると言われたが効かなかった。
手が震え焦点が合わない。
何度も医者に言ってきた。家族には言えない。
ネットで相談もした。
医者を変えろと言われた。
でも、もうその力がない。
疲れた。楽になりたい。
フェンスに跨りフェンスの向こう側に立った。
こちら側へ来ると街の景色が綺麗に見えた。
キラキラと大きなイルミネーションの様だった。
風が細い体に吹き付ける。
ろくに食べず寝ていたから少しの風でもよろめいた。
そのまま真っ逆さまに落ちれれば良かったのに踏ん張ってしまった。
ため息をついてブロックの上に座った。
思い出してもいい人生ではなかった。
友達もいなかった。親は兄と比べるし、先生は贔屓した。
会話にも溶け込めず、何しても否定される毎日。
笑うってなんだっけ。
人の気持ちが怖いし、さらけ出すのも怖い。
だからといって、この世に未練があるわけでもないからさっさとここから立ち上がれば逝けるのに。
考えが纏まらない。
そうだもう、いってしまおうと思った。
立ち上がり、強風が吹くと。
僕は落ちた。
真っ逆さまに。
怖くなって帰りたくなった。
気づくこともなく無にいくんだろう。
僕は、この世から消えた。
何もない自分が望んだ世界へ。