秋の夕暮れ、空はやがてオレンジ色に色づいてきた。
隣に歩く僕より背が低い彼女を風から守るように寄り添いながら照れながらも喋りかけた。
「日が落ちるのがだいぶ早くなったね」
そんな簡単なことしか話せない僕に彼女はこう呟いた。
「寒くなってきたしね、そうだまだ早いけどマフラーあげようか」
11月も末になると寒くはなるが、僕は暑がりなので一年中半袖の上にパーカーを被るようなかなりの暑がりだ。
しかも、少しでも汗をかいてしまうと体中痒くて仕方なくなる。
この事実は彼女にも言ってあるんだけれども。
少しすっとぼけな彼女だから忘れているのだろう。
「ありがとう」
そんなことしか言えない。いつになったらこの童貞頭から開放されるんだ。
イエスマンになって半年。成されるがまま。
何も成果を成し遂げていない。
今日こそキキキキキスを。
「じゃ、また明日ね!」
「あ、うん気をつけてな」
できませんでしたー!!!
辺りは暗くなってきて太陽はもう随分沈んでしまったようだ。
小さくなっていく彼女を見つめてはため息が出る。
こんな僕でいいのだろうか。
そんなことをいつも思っている。
世間様からは男らしくないと思われているのだろう。
もちろん彼女からも押しの悪い男と思われているのだろう。
明日こそは!
そう思いながら小さく小さくなって暗闇に消えていく彼女を最後まで見送った。
すると突然電話がなった。彼女の好きなアーティストの曲だ。
「もしもし?」
「バイバイ言ってなかった!明日はチューしてみる?」
この彼女はきっと、僕の心が読めるんだな。
僕は小さな声で「うん」と頷いた。
「照れてるー?あたしも初めてなんだからね?また明日ね!じゃあね」
「まって、」
咄嗟に待ってと言ってしまった。
言葉を選んでいる時間はない。
「どうしたの?」
「好きです、僕とずっと一緒にいてくれな。」
しばらくの沈黙のあと、彼女は笑って
「当たり前でしょう?」
僕は小さな声で勝ったと呟いた。