10数年前だが、会社の上司とケンカになった。

 

ケンカの原因は仕事とは関係なく、「登山」についてだった。

上司は低中高山の登山が好きで、1000mクラス~2000mクラス辺りを散策気分で行っていた。

 

彼は週末に登山をすると色々な話をしてくれるのだが、

彼の登山行動を聴いて我慢出来なくなり、一言申し上げた。

 

ちなみに私は長野県出身の人間だ。

長野県出身者で小学校、中学校を地元で過ごした人間は、必ず登山教育を施される。

小学校高学年までに1000~1500m級への日帰り登山が何度かあり、中学生になれば、3000m級の山に一泊二日をかけて登る。

この経験を通じて、長野県人は登山の基礎知識を叩きこまれ、それが常識となる。

(しかしこの経験が本当に生かされているのか疑問を呈する情報があり、それは後述する)

 

さて上司と対立したのは、彼の登山行動がいつも午前中の遅めに開始しており、登頂が午後遅めになることが多かったからだ。

その中で、下山が18時過ぎになって、途中で道が暗くなって迷ったなどと笑いながら言っていることもあった。

 

登山の常識として、低山なら頂上には昼前頃までに到着するように出発し、15時~16時までには下山を完了する。

3000m級であれば朝5時位には出発し、午後早い段階で登頂を終え一泊する小屋で17時には夕食、19時には寝る。

翌日は16時頃までには下山を終えるように行動をする。

山の気候は誰にとっても予測が困難なので、気候の急変による体温低下や行動不能になるような無理な予定を立てず、また低い山でも最低限の準備を怠らないという原則がある。

 

私は上司に”あなたには山に登る資格がないのでお止めください”と率直に言った。

”あなたのような人が山に登ると遭難の確率が高まり迷惑だし、誰かがそれへの対応をしなければならない。山の神を侮ると大変なことになりますよ”とも伝えた。

 

当然大げんかになった。

 

でも私は引かなかった。

上司が自分で命を短めるような行為をしていることを理解していなかったからだ。

 

登山は気楽な娯楽に思えるが、決して山を侮ってはならない。

登山には試験もなければ資格取得の方法もありません。

だから誰でも登山出来るのだが、

無知で登ると自分の命を危うくし、

場合によっては同行者、また救助者をも危うくする。

 

山の神に敬意を払い、経験を積み、準備を怠らず、様々な事故の情報に接しておき、その上で原則を守っていても不幸な事故は起こるものです。

それすらもしなければ、自殺をするのに等しいのです。

 

無知と過信は登山者を殺します。

 

山のない場所で生まれ育った人にはこれが理解出来ないのです。

でも本来、理解をしている長野県の人たちでもどうやら理解していない人が多いようです。

毎年北、中央、南アルプスで死者が出ます。

 

令和4年度の長野県の山岳遭難(低山含む)のレポートが以下だ。

https://www.pref.nagano.lg.jp/police/toukei/documents/r4sangakusounantoukei.pdf

 

長野県在住者の遭難は51件で約16%を占めている。

その内31件がいわゆる低山と呼ばれる山で、遭難者の多くは高齢者だ。

山菜取りやちょっとした散策なのだろうが、自分の体力を過信した上での遭難に見える。

残り20件はアルプスと呼ばれるような山岳地帯での遭難だ。これだけだと6%程度だ。
これが多いのか、こんなものなのかはやや判断が付かない。


いわゆるアルプス級の遭難者の多くは県外者で、特に大都市圏からの登山者が多い。

いずれにしても登山は事前の準備、自分の実力など、様々な要素を総合して判断出来ない人には向いていない。

行けば何とかなると思う段階で止めておいた方がいいだろう。

 

また遭難すれば、山岳救助隊が危険を承知で救助に向かう事になる。

この経費は税金から賄われている。

彼らにとっては仕事なのだが、命がけの仕事であることは肝に銘じておくべきだろう。

ギリギリの条件下でも救助に向かってはくれるが、

2次遭難のリスクを冒す事はない。

 

以下に過去の遭難事案を解説している動画がある。

これを見れば私の言いたい事が判るだろう。

経験者でも判断を誤れば死に直結するのが登山という娯楽なのだ。