【書評】最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望
私は、年間5回~6回程度は美術館に行く。
美術に造詣が深い訳ではないが絵画の魅力は自分なりに理解していると思う。
また美術展もビジネスであるため、一連の美術展のビジネス的な裏舞台の情報も得て楽しんでいる。
本書は、“サルバドール・ムンディ”という絵画を巡る美術界とそれに関わる人々の顛末をまとめたものだ。
端的に言えば細部にまで仕掛けを施したミステリー小説と言ってもいい程の精密な内容で、それは著者がしつこく本作の来歴、鑑定や売買に関わった人々たちを取材した成果に他ならない。
また、美術品の価値や真贋、修復の規模によるオリジナリティー、オークション制度など、美術界に巣くう様々に不都合な真実に向き合いながら、“サルバドール・ムンディ”という作品が13万円から510億円に化けて行く過程を解き明かしている。
私は美術館に行ってもその作品の市場価格の多寡で作品の良し悪しを判断しない。
また著名な作家の作品の中でも好き嫌いはあり、また良し悪しもあり、基本的にアートは個人的な好みに左右されるものなので、絶対値はなく、自分と作品の間の距離だけが存在すると考えている。
自分が超富裕層だったら、やはり美術品の収集をしているかもしれないなあ・・と思いつつ、美術品を適切に保管できるような場所は限られ、本来的に美術作品が好きならば、自宅に飾っておくのは保管維持を考えてちょっと気が引けるかもしれない。
一番いいのは、美術館を建設して維持管理出来るほど富裕で、死んだら寄付出来るのが一番いいだろうと思う。
(あくまでも貧乏人の妄想だが・・)
“サルバドール・ムンディ”に510億円を支払って手に入れたのは中東に住む富裕層だと言われているが、購入後、一度も公開することなく今日に至っている。
また、“サルバドール・ムンディ”は、絵の殆どが修復部分になってしまっており、オリジナル部分は僅かであるという事実は考えさせられる不都合な真実だろう。
510億円を出してでも欲しいという人がいるという事実はあるが、貧乏人の私には理解を超えた世界だと付け加えておこう。