現在30代から40代前半より若い人にとって、江副浩正氏の名前を聞いても誰だか分からないだろう。
彼がどのような人物であるかは、検索すればなんとなく判るだろうと思うから調べて欲しい。

我々の世代にとって江副浩正氏は、リクルート事件により政界を巻き込んだ大スキャンダルの中心人物であったと言う印象しかない。
従って、ほとんどの人にとって江副氏には余り良く印象がない。

私は本書を、とある一部上場企業のCFOの執務室で見つけた。
定年退職の挨拶で訪問したのだが、彼の広い机にうずたかく積まれた数多くの本の中に本書があった。

どう考えてもそのCFOが読むようなタイプの本ではないと訝しく思った。
何故彼が江副氏のバイオ本を選んで読んでいたのか?
気になった私は、早速本書を探して読んでみた。

かなりの分量を読み終わって、私はそのCFOが読んだ理由が判る気がした。
驚くべきことだが、リクルートと言うモンスター企業を設立した江副氏は、起業経営者として、既に40年先にある経営、つまり2020年代にも通用するような経営を1980年代にやっていたのだ。

件のCFOは、それを察知したに違いない。

簡単に言えば、両利きの経営だ。

その詳しい秘密は本書を読んでみれば判る。
実際読んでいて本当に40年前のことなのかと思うようなことばかりが書かれているのは驚きだった。
そういう意味で江副氏は天才だったのだろう。

本書を執筆したのは、元リクルートの社員であり江副氏に鍛えられた社員らだ。
江副氏の陰陽に触れて立体感のある描写は読むものを全く飽きさせない。

リクルート事件のみが印象的な江副氏だが、再評価する時期だろうと感じる次第だ。