今回は難しすぎる記事を掲載する。

というのは、私は肺気腫。

ちょっと動くだけで息苦しい。

 

医師には肺は良くなることはないと言われている。

絶望である。

 

だが、何とか希望の光が無いものかとこの記事を読んだ次第である。

 

解釈は未だ未完だが、敢えて掲載する。

 

肺の回復・成長・再生
―肺移植と再生医療―


和田啓伸,坂入祐一,吉野一郎
千葉大学大学院医学研究院呼吸器病態外科学

千葉大学大学院総合胸部外科医学
Lung restoration, growth and regeneration
Department of General Thoracic Surgery, Chiba University, Graduate School of Medicine
Hironobu WADA, Yuichi SAKAIRI, Ichiro YOSHINO
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/52/1/52_031/_pdf


【Summary】
Human lungs are generally not believed to repair or regenerate, and regenerative medicine in the field of
respiratory organs, especially lungs, is far behind in comparison with those of other organs. 

 

【要約】
ヒトの肺は一般に修復や再生が不可能と考えられており、呼吸器、特に肺の再生医療は他の臓器に比べてはるかに遅れています。

 

Regenerative medicine is defined as medicine that replaces or regenerates human cells, tissue, or organs to restore or establish normal functions. 

 

再生医療とは、ヒトの細胞、組織、臓器を置き換えたり再生したりして、正常な機能を回復または確立する医療と定義されています。

 

On the other hand, lung transplantation is a last resort for patients suffering from end-stage lung diseases, and more than 4,000 cases have been performed worldwide. 

 

一方、肺移植は末期肺疾患の患者にとって最後の手段であり、世界中で4,000件以上の症例が行われています。

 

However, the number of patients on the waiting list largely exceeds the number of available transplantable lungs because of a severe short supply of organ donors. 

 

しかし、臓器提供者の深刻な不足により、待機リストに載っている患者の数は移植可能な肺の数を大幅に上回っています。

 

Lung regenerative medicine may be a solution for the serious issue to restore injured lungs or to supply transplantable functional lungs. 

We herein describe lung restoration, lung growth, and lung regeneration, which are related to lung transplantation.

 

肺再生医療は、損傷した肺を修復したり、移植可能な機能的な肺を供給したりするという深刻な問題の解決策となる可能性があります。

ここでは、肺移植に関連する肺の修復、肺の成長、肺の再生について説明します。

 

はじめに
一般的に「肺」は再生しない臓器と認識され,近年,劇的に進歩している再生医療分野において,肺の再生についての研究・治験は他臓器に大きな後れをとっていると言わざるをえない。

 

一方,肺移植は終末期の進行性肺疾患に対する最終治療手段として,欧米諸国を中心に実施され,年間肺移植数は 4,000 例を超え,これまでの累積件数は 5 万件を突破している1)


本邦でも,1998 年に第 1 例目の生体部分肺移植が施行されて以来,着実に症例数を重ね,脳死・生体肺移植を合わせて 2016 年 12 月までに延べ 500 例以上が実施された。

 

しかし移植先進国である欧米諸国においてすらドナー(註)不足の問題は避けられず,その対策として「肺の再生医療」の実用化には大きな期待がかかる。

 

(註)ドナー

臓器や造血幹細胞(血液のもととなる細胞)を患者に提供する人のこと。

「肺」において,再生医療と移植医療の現状にはまだ大きな隔たりがある。しかしながら,両者をつなぐ研究は日々行われており,肺再生に関する知見も蓄積しつつある。本稿では,肺の回復,成長,および再生と項目を分け,肺移植とかかわりのある知見を述べたい。

肺の回復
―傷んだ肺は回復する―

外界と接している肺はさまざまな刺激により,日々,傷害を受けては修復されることを繰り返し,ある程度の炎症や外傷による傷害であれば,適切な治療とともに自己修復機能により,もとの状態に回復する。肺移植において,レシピエント(註)の体内でもこの現象を垣間見ることができる。

 

(註)レシピエント

臓器を提供する人をドナー、移植を受ける人をレシピエントと言う。 

移植医療におけるドナー不足の対策として,標準的ドナー適応基準(表 1)2)を逸脱した拡大適応ドナー
(extended criteria donor 拡張基準ドナー:ECD)(註)肺の使用がある。

 

(註)ECD

心内膜床欠損症では心臓の4つの部屋を隔てる弁と壁が真ん中で十字にクロスしているところの異常がある。心房中隔と心室中隔のつなぎ目の欠損なので、房室中隔欠損とよばれたり、左右の心房と心室の間の弁である僧帽弁と三尖弁がくっついてひとつになっているので共通房室弁口とよばれることもある。

 

特に臓器提供率の低い本邦においては,メディカルコンサルタント制度の効果もあり,臓器使用率が向上してECD(拡張基準ドナー)が移植肺全体の 90% にも上る3)


多くの ECD 肺を使用していても本邦における肺移植の短期・長期予後は,欧米と比較して良好な成績を収めており4),ECD肺がレシピエント(移植を受ける人)の体内でしっかり機能していることがうかがえる。

United Network for Organ Sharing(UNOS)(註)のデータベースを用いた 10,333 例におけるドナー肺の検討では,標準的ドナー適応基準のうち,喫煙歴(>20 pack-years)のみがレシピエントの予後不良因子(註)であり,胸部 X 線像における浸潤影や気管支鏡の膿性痰,および P/F ratio<300 は予後に影響を与えなかった5)。

 

(註)United Network for Organ Sharing (UNOS) 

臓器共有のための統一ネットワーク
https://unos.org/

(註)予後不良因子

予後不良とは完治しないという意味。治療がうまくいくかどうかを予想するのに利用される要因を「予後因子」。

 

また,三好らは ECD 肺管理について,肺水腫のリスクを極力回避・軽減するよう,理想的な環境でグラフト(註)を迎え入れることで,ほとんどの ECD肺はレシピエント(移植を受ける人)体内で機能を回復すると述べている6)。

 

(註)グラフト

移植される組織や臓器(の一部)のことである(graftは「接ぎ木」の意)


一方,Pierre らは,胸部 X 線像における浸潤影(しんじゅんえい)(註)や気管支鏡で膿性痰(のうせいたん)(註)を認める症例で,術後 30 日死亡率が高いと報告し,ECD 肺を使用し術後に死亡した症例を提示して “この状況は明らかに拡張の限界を超えた拡張を表している。” と考察している7)。

 

(註)浸潤影(しんじゅんえい)

通常レントゲンを撮ると、空気の入っている場所は黒く写ります。正常な肺は1枚目(左)のように黒く写るのですが、炎症が起きると肺の組織に水が溜まり、それが写り混むことで2枚目(右)のような鮮明ではない影が現れます。

 

これが浸潤陰影です。肺炎であることが多いのですが、がん細胞が周りの細胞に影響し炎症を起こしていることもあり、浸潤陰影をきっかけに肺がんが発見されることもあります。

 

(註)膿性痰(のうせいたん)

 サラサラした水っぽいたんが硬くなり、白色から黄色や緑色に代わると、膿性(のうせい)のたんと呼ばれます。これは細菌と白血球と粘液の混ざったものと考えられます。

 急性気管支炎や肺炎などの感染症では、細菌やウイルスなどの病原菌による強い炎症が原因となります。

一般に、ウイルスよりも細菌のほうが膿性のたんを出しやすいと言われています。


 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などでは、病原菌が気道に定着しつつ慢性的な炎症が気道粘膜で続いているので、発熱がなくても膿性のたんが出ます。

 肺結核や肺非結核性抗酸菌症や肺がんでも、膿性のたんが長く続くことがあります。慢性副鼻腔炎による後鼻漏と、気管支や肺の病気を混同しないような注意も必要です。

 

浸潤影や膿性痰などの炎症や外傷があっても,“延長(拡張)の範囲内で”ならば,適切なドナー手術,移植手術,および術後管理により,ECD 肺は移植後にレシピエントの体内で回復し,その機能を取り戻すことができるということであるが,胸部 X 線像や気管支鏡は客観的評価が難しく解釈に注意を要することに加え,ECD 肺において許容できる浸潤影や膿性痰の程度に明確な基準がない以上,施設毎の成否経験の積み重ねに依存しているのが現状であろう。

肺の回復
―EVLP を用いた ECD 肺の治療戦略―

ECD 肺を体外で再評価しリコンディション(註)するために開発された体外肺潅流(ex vivo lung perfusion:EVLP)が初めて臨床応用されて8)から 10 年以上の歳月が経った。

 

(註)リコンディション

基本的には、様々な要因(外傷・障害、疾病 、疲労、手術など)によって低下した身体機能、体力、体調およびパフォーマンスを最大限まで向上させ、再稼動できる状態へとする目的とした行為や行動からなるプロセス1を意味している。

EVLP(体外肺潅流)は摘出したドナー肺を体外で正常体温下にて潅流・換気する技術であり,理想的な条件下でより客観的なドナー肺の評価を可能とする。

現在では長時間の肺保存や傷害肺の治療までをも目的として欧米を中心に積極的に行われており,ドナーソース拡大に貢献している9)

EVLP(体外肺潅流)を用いた傷害肺の治療戦略として,近年ではEVLP に遺伝子治療や細胞治療を組み込んだ研究が相次いで報告されている。

Cypel らは IL-10(註)を組み込んだアデノウイルス(註)を EVLP(体外肺潅流)で潅流しているブタ肺に経気道的に投与することで長時間の虚血による炎症を軽減し,移植後の P/F ratio (註)が改善することを示した。

 

(註)IL-10 インターロイキン10

炎症サイトカインの産生を抑制することにより炎症を抑える作用を持ったサイトカイン。様々な炎症性疾患や自己免疫性疾患で産生が亢進している。

 

(註)アデノウイルス

アデノウイルスに感染すると、高熱が続き、喉の腫れや痛み(咽頭炎)が見られたり、目ヤニや目の充血(結膜炎)が見られる。よく見られる症状は咽頭炎。結膜炎も加われば、咽頭結膜熱(プール熱)と言う。プールで感染することが多いが、プールに入らなくても感染する。

 夏に流行するが、冬にも見られる。“のどの痛みと頑固な発熱”が特徴。別名“夏のインフルエンザ”とも言われ、ときどき大流行することもある。 

 アデノウイルスには、胃腸炎や肺炎、膀胱炎を起こすなど、50種類くらいのタイプがある。

 アデノウイルスに効く特効薬はない。対症療法が主体。免疫が高まれば自然に解熱するが、高熱が1週間以上続くような場合は入院が望ましい。 

 

(註)P/F ratio

肺の酸素化の能力を評価する指標の一つである。 P/F比ともいう。 この比率(ratio)は動脈血の酸素分圧(PaO2)と酸素濃度(FIO2)を用いて算出される。 空気中の酸素濃度21%であるため健康な成人は、P/F ratioは概ね400mmHg以上と言われている。

さらにヒトの移植不適合肺を用いて同様の実験を行い,IL-10 投与群でドナー肺の酸素化や肺血管抵抗が改善し炎症性マーカーが低下することを報告した10)。

さらに近年,同チームから,上述の治療をブタに行い7 日間生存させ,術後早期の安全性ならびに有用性が示された11)。

一方,間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)を用いた細胞治療と EVLP(体外肺潅流)を組み合わせた研究も報告されている。

 

Lee らはヒト移植不適合肺に大腸菌エンドトキシン(註)を注入して ARDS(註)モデルを作成し,EVLP で潅流するとともにヒトMSC(間葉系幹細胞)を気管支内に注入することで,血管透過性が改善し肺胞液が減少することを報告した12)。

 

(註)エンドトキシン
グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖。 Lipopolysaccharide とも呼ばれ、通称LPSと呼ばれている。 特徴としては、高い耐熱性が挙げられる。 オートクレープ処理程度では完全に失活することはできない。

 

(註)ARDS

急性呼吸窮迫症候群。重症肺炎、敗血症や外傷などの様々な疾患が原因となり重度の呼吸不全となる症状の総称。


Mordantらはブタ肺を摘出し18 時間の虚血時間の後に,EVLP(体外肺潅流)で12 時間潅流するモデルを作成しヒトMSC(間葉系幹細胞)による細胞治療の効果を検証した。

 

経気道投与よりも経肺動脈投与の方がより効果的に MSC が肺に到達し,MSC により潅流液の IL-8 濃度が低下することを報告した13)。

EVLP(体外肺潅流) は体外での評価になるため,体内での評価と比較すると,副作用が少なく安全で実験も計画しやすい。

 

北米では提供者の同意があれば移植不適合肺を研究に使用できるため,ヒト肺を使用してよりトランスレーショナルな研究(註)を計画できる背景がある。EVLP と組み合わせた各種治療法はまだ臨床応用には至っていないが,それらの実現はそう遠くないのかもしれない。

 

(註)トランスレーショナルな研究
(橋渡し研究)とは、アカデミアで研究者らが基礎研究を重ねて見つけ出した新しい医療の種(シーズ)を、実際の医療機関等で使える新しい医療技術・医薬品として実用化することを目的に行う、非臨床から臨床開発までの幅広い研究を指している。

EVLP と組み合わせた各種治療法はまだ臨床応用には至っていないが,それらの実現はそう遠くないのかもしれない。

肺の成長
―グラフト肺は成長しうる―

肺移植術後にグラフト肺(移植肺)が成長することを示唆する報告がある。羊やブタにおいて,子羊や仔ブタに成獣の肺を移植した場合,体の成長とともにグラフト肺も成長することが報告されている。

 

https://medical-b.jp/c01-01-036/book038-19/?hospital=c01-01-036

 

Ibla らは成熟した羊の右上葉を生後 1 週の子羊に移植し,45 日後に犠牲死させ,移植前と比べグラフト肺(移植肺)の肺容積・肺胞数が有意に増加することを示した14)。

Kern らは,成熟したブタの左下葉を 9 週齢の仔ブタに移植し,12 週後に犠牲死させ,手術をしていない成熟したブタの左下葉と比較し,グラフト肺(移植肺)の肺容積・肺重量が有意に増加することを示した15)。

 

※例えば、ヒトの成熟した肺の一部を切り取り、成熟したブタに移植し、頃合いを見計らって、移植した肺の一部を元のヒトの肺に戻したら、ヒトは成長した肺を入手する。

これらは 1990 年代に報告されその後追随する者がないが,成熟し成長が止まった肺であっても,取り巻く環境さえ整えば,肺の成長が再度起こりうる可能性を示唆しており興味深い。

 

※肺が成長する可能性があるということである。

肺の成長が再度起こりうる環境とはどういう環境なのかは、残念だが未だ未だ研究不足である。

実臨床においてグラフト肺の成長を証明することは難しいが,呼吸機能の観点から検証した報告がある。

Yamane らは患児 5 例を含む生体肺移植 31 例の術後呼吸機能を 3 年間フォローし,術前のグラフト努力肺活量(forced vital capacity:FVC)に対する術後のレシピエント(移植希望者)FVC の比が経時的に増加することを示した。

画像上,気腫化(註)はなく,呼吸機能検査にて閉塞性パターンも認めなかったが,肺胞の新生を示唆するDLCO(註)の増加も認めなかった16)。

 

(註)気腫化

肺の気腫化とは?
肺気腫は、肺の奥にある「肺胞(はいほう)」という組織が壊れ、肺の中に空気が溜まってしまう病気。 体内のガス交換に支障をきたして息を吐き出す力が弱くなるため、軽い運動をしただけでも息苦しさを感じ、慢性的に咳や痰が出るのが特徴。


https://www.kasai-yokoyama.com/copd/

 

(註)DLCO 肺拡散能
肺胞から肺胞上皮および毛細血管内皮を介して赤血球へガスを運搬する能力を測定するものである。 DLCOは血液-ガス関門の面積および厚さだけではなく,肺毛細血管内の血液量によっても左右される。 肺胞気量および肺胞換気量の分布もまた,測定結果に影響を及ぼす。


Sritippayawan らは,平均年齢 14.3 歳の患児を対象とした生体肺移植 20例,脳死肺移植 11 例の術後呼吸機能をフォローし,術後 1 年で患児の成長とともに TLC(総肺気量)は増加するものの,DLCO/VA は低下することを示した17)。

これらの報告ではいずれも,移植後に DLCO(肺拡散能) の増加を認めていないことから,呼吸機能の改善は,肺胞数の増加や血管床の新生よりも,肺胞の拡大を伴う肺容積の増加であろうと考察している。

 

Toyooka らは特発性肺高血圧症の 10 歳児に,母親から提供された右下葉のみを移植する生体片肺移植を行い,5 年間の長期成績を報告した18)。

DLCO(肺拡散能)は測定されていないが,VC(肺活量),FEV1(努力性呼気1秒量)が著明に改善しただけでなく,片側肺移植にもかかわらず安定した循環動態を維持できており,肺容積の増加のみならず肺胞腔の拡大に伴って血管床が増大することが循環動態の安定に寄与したのではないかと考察している。

 

胸郭(註)に対して比較的小さな肺を移植する生体肺移植の術後には,グラフト(註)肺の容積は経時的に増加し,呼吸機能も改善する。

 

(註)胸郭

人間の 胸部に位置し12個の胸椎(きょうつ い)、12対の肋骨(ろっこつ)、1個の胸骨 から構成される籠状の骨格。 
 胸郭 で囲まれた空間には、心臓や肺などの 重要な臓器が収められており、胸郭は これらを保護する重要な役割を果たしている。 もう一つの重要な役割が呼吸。

 

(註)グラフト

移植される組織や臓器(の一部)のこと。


この容積の増加が,新たな肺胞の新生によるのか,単なる肺胞腔の拡大なのか,もしくは両者ともに生じているのか,明確な解答はない。

呼吸機能の改善が肺胞の新生と拡大のどちらに寄与するのかも結論は出ておらず,新たな知見が望まれる。

 

ヒト肺は小児期まで肺胞の数が増える。肺胞数が増加しつつある乳幼児の胸郭内で成人のグラフト肺がどのように変化していくのか,画像検査や呼吸機能検査で綿密にフォローしていくことで,新たな見解を得ることができるかもしれない。

肺の成長
―肺切除後の代償性肺成長―

生体肺移植ドナーにおいても臓器提供後に残存肺が成長している可能性がある。

ある一定量の肺を切除すると,切除した損失分を代償するように,残存肺の容積,重量,蛋白量および DNA 量が増えることが齧歯類(げっしるい)(註)や犬を用いた動物実験で証明されており,肺切除後の代償性肺成長(compensatory lung growth:CLG)と呼ばれる19)。

 

(註)齧歯類

動物分類上の哺乳類のなかの目(もく)の1つネズミ目のことで,ネズミ・リス・ヤマアラシなどを代表とする動物群。上下に1対ずつの門歯があり,門歯は無根で,絶えず伸びつ続けるので,物をかじっても一生涯歯がなくなることはない。

CLG(代償性肺成長)の機序は明確にされていないが,われわれが行ったラットおよびマウスの左肺全摘モデルを用いた網羅的遺伝子解析では,左肺全摘後残存右肺の遺伝子発現変化は,肺の過膨張過程における血管・神経・胸膜などの支持組織の増殖・リモデリング(註)を示唆する所見が主体で,肺胞の再生を示唆する所見は乏しかった20,21)。

 

(註)リモデリング

不全心(註)では、血行動態的負荷や神経体液性因子の活性化などの関与により、ミクロからマクロまで変性が起き、心筋細胞の肥大、変性、脱落や間質の線維化が生じるといわれている。 結果、心室の肥大や拡大、心機能低下といった心臓の構造変化をきたし、この変化をリモデリングと呼んでいる。

 

(註)不心全
『心機能低下に起因する循環不全』と定義され、心臓が全身の組織における代謝の必要量に応じて、血液を十分駆出できない状態。 発症の仕方により、急性心不全(acute heart failure:AHF)と慢性心不全(chronic heart failure:CHF)に分けられる(Fig.4)。


CLG(代償性肺成長)がヒト肺で起きているかどうかはまだ明らかではないが,実臨床では肺切除後に残存呼吸機能が術前予測以上に回復する症例をしばしば経験する。

Chenらは生体肺移植ドナー 33 例の呼吸機能評価を前向きに行い,FVC(努力肺活量),FEV1(努力性呼気1秒量)が経時的に改善し,術後 1 年では両者ともに術前値の 89% に達したと報告した22)。

この結果は下葉切除によって失う区域数から算出した予測値を明らかに上回っている。

CLG(代償性肺成長)がこの呼吸機能の改善に寄与する可能性についてはいくつかの報告がある。

ヒトでは肺切除後残存肺の質的評価ができないことから,仮想肺重量(radiologic lung weight:RLW)による評価が報告されている。

RLW とは,平均肺 CT値から平均肺密度(g/ml)を求め,肺容量(ml)と掛け合わせて算出され,肺組織量を反映すると考えられている。

 

Mizobuchi らは,生体肺移植ドナーの下葉切除後には,健常な残存肺容量が両側ともに増加するだけでなく,術側では術後 RLW が 128% と増加することを報告した。

 

非術側の RLW は術前後で変化なく,術側のみの RLW の増加は,肺切除後の CLG(代償性肺成長)を示唆すると考察している23)。

原発性肺がん患者においても同様の検証が行われ,切除亜区域数≧10 亜区域(註)の群で,術側の RLW がより増加し24,ある一定量の肺切除後には CLG(代償性肺成長) が生じていることを示す結果であった。

 

(註)亜区域

区域より小さな構造を「亜区域」と呼ぶ。

 

(参考例)香川大学医学部付属病院

 区域間に近い病変でも最小限の切除範囲で切除可能(2区域切除、区域+亜区域切除)
 肺区域切除を行う際、病変が切除区域の中心にあることは少なく、区域間近傍に位置していることが多くあります。
 その切除を1区域で行うと切り口から腫瘍までの距離が近く局所再発してしまう可能性があります。

 

そのため我々は、そのような病変の切除の際、隣接区域を切除する2区域切除や亜区域を追加切除する区域+亜区域切除を行うことにより最小限の切除範囲で病変の確実な切除を行っています。
https://kagawa-u-dainigeka.jp/thoracic/mio


また,超偏極 He3ガス(註)を利用した MRI による CLG(代償性肺成長)の評価も報告されている。

 

(註)超偏極 He3ガス

 ヘリウム4(4He)の同位体で原子核の中性子が1つ少ない原子がヘリウム3(3He)(陽子2個、中性子1個)。安定同位体ですから放射線は出さない。地中から産するヘリウム4と違って、ヘリウム3は人工的に作られる。(中略)


 この他、肺や食道など呼吸器系を磁気共鳴イメージング(MRI)で診断するときの理想的なトレーサーガスとしてヘリウム3ガスを使った医療機器(超偏極ヘリウム3-MRIとよばれる)が実用化の段階にきている。ヘリウム3は核スピンをもち強い信号強度を長時間保つことができる、拡散性が高く細部のイメージングに適している、人体に無害、など多くの利点があるから。

 

症例報告ではあるが,肺全摘後 15 年間で CT にて肺容積,肺密度が増加するとともに,超偏極 He3 ガス MRI により肺胞数の増加が示された25)。

この手法による画像評価は,マウス肺全摘モデルにおいても CLG(代償性肺成長) を反映することが同チームより報告されている26)。

このように,実臨床で成人における CLG(代償性肺成長)を画像的に証明しようとする試みが行われており,今後の成果に期待がかかる。

肺は再生するのか?
肺は肝臓などと異なり,一般に再生しない臓器と考えられている。

その一方で,細胞レベルでは肺傷害ののちに修復される過程で,幹細胞(註)(または前駆細胞)が肺組織へと分化する現象が確認され,機能回復という意味での再生現象は確認されつつある。

 

(註)幹細胞
皮膚や血液のように、ひとつひとつの細胞の寿命が短く、絶えず入れ替わり続ける組織を保つため、私たちは失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞を持っている。 また、組織が怪我をしたりダメージを受けたりしたときも失われた組織を補充する能力を持った細胞が必要となる。 こうした能力を持つ細胞を「幹細胞」と呼ぶ。


骨髄に幹細胞があることは広く知られている。この骨髄由来の間葉系幹細胞(註)が心筋細胞や血管内皮細胞,神経細胞など他の組織において分化し,組織再生に寄与していることが明らかになっていることから同様の再生機序が肺においても期待された。

 

(註)間葉系幹細胞 MSC
成体内に存在する幹細胞(ステムセル)の一つで、中胚葉由来の組織である骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化できる能力をもつ細胞。 近年では、外胚葉由来の神経細胞やグリア細胞(神経細胞を支持するなどの機能をもつ)、内胚葉由来の肝細胞にも分化できることが報告されている。


Kleeberger らは骨髄移植後のヒト肺において,ドナー由来の細胞がレシピエント(移植を受ける人)の II 型肺胞上皮細胞や気管支にあることを示した27)。

動物モデルでも,骨髄由来の間葉系幹細胞が肺の傷害部位に局在し,肺細胞としての形質を示し組織修復に寄与していると報告された28)。

 

その一方で,しばしば骨髄由来の細胞は上皮転換し組織に組み込まれることなくその組織修復機能・保護機能を示すことから,直接的な再生というよりも液性因子(註)などを介した間接的な再生に寄与しているとも考えられている29)。

 

(註)液性因子

これらの知見をもとに,間葉系幹細胞による細胞移植の治験が行われている30,31)が,現在のところその結果は限定的で肺移植に代わるものとは言い難い。

より直接的に傷害肺の修復に関与する細胞ソースとして,組織幹細胞も注目されている。以前より II 型肺胞上皮細胞(註)は肺胞を主に構成している I 型肺胞上皮細胞(註)に分化することに加え,肺胞におけるサーファクタントの産生や恒常性の維持に関与していることが知られている。

 

(註)I型、II型の肺胞上皮細胞

肺胞は体に必要な酸素を取り込み不要な二酸化炭素を排出するガス交換を行うための構造で、I型、II型の肺胞上皮細胞に覆われている。

 


I型肺胞上皮細胞は平たい形をしてガスを通しやすい形をしており、II型肺胞上皮細胞は肺胞がつぶれるのを防ぐために活性物質(サーファクタント)を分泌し、自己を複製しながらI型肺胞上皮細胞にも分化できるという肺における幹細胞としての重要な役割を担っている。

このII型肺胞上皮細胞の異常は、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺がんなどの様々な難治性呼吸器疾患とも関連すると考えられている。

https://www.amed.go.jp/news/release_20171003-01.html


動物レベルでは II 型肺胞上皮の気道移入モデルでブレオマイシン肺障害モデル(註)が修復されることが示された32)。

 

(註)

特発性間質性肺炎(註)において,ヒトを対象とした臨床試験も始まっておりその安全性が検証されている33)。

 

(註)

さらに,倫理的な問題や免疫系の問題をクリアし,安定して供給可能な iPS 細胞由来の II型肺胞上皮細胞にも注目が集まっている。

細胞レベルでは分化にも成功しており34,35),今後の細胞移植治療への応用が期待されている。

II型肺胞上皮細胞は肺胞における前駆細胞(註)であり,多能性は持たない。したがってより上流にある多能性幹細胞(註)に修復を超えた再生の期待がかかっている。

 

(註)

 

(註)

2011 年に報告されたヒト肺幹細胞36)は上皮のみならず,血管内皮など他の肺の構成要素への分化が確認された。

 

2015年に報告された Krt5 陽性細胞(註)37)は,肺胞上皮だけでなく気管支上皮にも分化することが確認されている。

 

(註)

これらの細胞による包括的な再生は,将来的に移植に代わる新しい治療のアプローチとなる可能性を秘めている。

Tissue engineering を用いた再生医療
最後に,呼吸器再生医療分野における tissue engineering について紹介する。

「気管」は喉頭と肺をつなぐ管状の空気の通り道で,複雑なガス交換の必要はなく,「肺」と比べて単純な構造であることから,再生医療の分野では「肺」よりも先進しており38),2008 年に世界で初めて脱細胞化したヒト気管を使用した気管移植が施行され39),2010年には小児に対して同様の手術が行われた40)。

いずれの症例も長期生存を得て社会復帰を遂げている。

Macchiarini らは,気管・気管支結核による気管支軟化症(註)に苦しむ 30 歳の女性に対して,左主気管支切除を行い,脱細胞処理を行ったヒト気管から作成したグラフト(註)を移植し気管支再建を行った。

 

(註)

 

(註)グラフト

移植される組織や臓器(の一部)のこと。


グラフトは,提供されたヒト気管を 6 週間かけて脱細胞化し,bioreactor(註) を用いてレシピエント(註)の気管支上皮細胞と骨髄由来間葉系幹細胞とともに 96 時間培養して作成された39)。

 

(註)

 

(註)

グラフト自体の開存は移植後一貫して良好だったが,術後 6 カ月頃より中枢側の気管支吻合部の瘢痕性狭窄(註)を認め繰り返すステント留置を要した41)。

 

(註)

 

移植後 4 日で微小血管の新生を認め,術後 30 日にはグラフト気管の内腔は完全に上皮細胞に覆われ,粘膜からの出血も確認された39)。

Elliott らは,先天性気管狭窄(註)の 10 歳男児に対して,脱細胞化したヒト気管を移植した40)。

 

(註)

喀血を伴う緊急手術だったため,本症例では1 例目で行われた bioreactor を用いた in vitro での培養は省略された。

 

グラフト気管の強度に問題があり,術後に虚脱・狭窄を認め複数回のバルーニング(註)およびステント留置(註)を要したが,術後 18 カ月頃より安定した呼吸状態を維持し,学校生活に復帰した。

 

(註)

 

(註)

いずれの症例も,4 年以上の長期フォローにて免疫抑制剤を要さずともグラフトは安定して定着しており,特筆に値する41, 42)。

「肺」における tissue engineering は異なる 2 つの施設からラットを用いた動物実験がほぼ同時期に報告されている43,44)。

脱細胞化した肺と上皮細胞および血管内皮細胞を培養し,再血管化および内皮細胞生着を証明した革新的な結果であった。

 

グラフト肺はガス交換が可能であり,移植した後もラットの体内で,短期的にはある一定のガス交換能が確認された。「気管」と異なり,まだ実用化には多くの課題が残るが,今後の進展に大きな期待がかかっている。

おわりに
再生医療は臓器移植を代替ないしは補完する治療として大きな期待が寄せられている。本稿では,肺の回復・成長にかかわる知見,そして肺・気管の再生医療の現状について紹介した。近い将来,「肺」の再生医療が臨床へ応用されることを期待している。

(以降の文献等は省略)

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肺気腫(1) 
桜エビやカニが有効
2023-05-05 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12801545129.html


肺気腫(2) 
温泉療法
2023-05-10

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12801487817.html
治療浴
慢性閉塞性肺疾患に対する治療浴としては,重曹浴が行われている。重曹は粘膜の保護作用があると云われ,重曹浴後には皮ふがなめらかとなり、啄疾(たくしつ)の排出が容易になる。

 

吸入療法
三朝温泉の温泉水 (含重曹食塩放射能泉)、あるいはEms液 (重曹0.2% , 食塩0.1%)の吸入が行われている。

 

肺気腫(3) 

食塩水スプレーが有効
2023-05-12

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12802223089.html

500miのボトル水に10mgの食塩を溶かしスプレーボトルに入れる。それを顔の前で噴射し、鼻や口から吸いこむ。風邪にも良い。