今回は、帰郷したら何故に肺気腫が治るのかが分からなかったが、偶々、「肺気腫、温泉」で検索したら、その研究記事がありましたので掲載します。

 

(前回記事)

徒歩3分の鶴舞温泉
2023-05-09 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12802140533.html

 

肺気腫(1) 

桜エビやカニが有効
2023-05-05 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12801545129.html

 

(今回記事)

慢性閉塞性肺疾患の温泉療法
岡山大学三朝分院内科
岡山大学第 2内科
(1984年 7月31日受付)

https://core.ac.uk/download/pdf/12539233.pdf

緒言
慢性閉塞性肺疾患のなかには,気管支嘱息,慢性気管支炎,慢性細気管支炎,肺気腫などの疾患が含まれる.


いずれも慢性の経過をとり,閉塞性換気障害を呈する疾患群であるが,これ らの疾患群では重症化にともない日常生活に支障をきたすようになり,同時に薬物療法のみによる治療が効を奏し難くなる。

これ らの疾患に対する薬物療法以外の治療法として,ヨーロッパ圏内では主としで慢性気管支炎を中心に温泉療法が施されている (谷崎勝朗,1984h).

そして,それなりの効果があげられていることは云うまでもない.

慢性閉塞性肺疾患に対する温泉療法は,我国ではまだその本格的な試みはなされていない。

数年前より,著者らは慢性閉塞性肺疾患,特にステロイド(註)依存性重症難治性鳴息を中心に温泉療法を試みてきた.

 

(註)ステロイド

腎臓(じんぞう)の上にある副腎皮質(ふくじんひしつ)で作られるホルモンのうち,糖質コルチコイドという成分を合成した薬。炎症やアレルギーを抑える効果があり,膠原病(関節リウマチ,全身性エリテマトーデスなど),気管支喘息,肺炎,腎臓病,皮膚病,アレルギー疾患など さまざまな病気の治療薬として使われている。ステロイドには,飲み薬,注射,塗り薬,吸入薬などがある。

本論文では,昭和57年1月より現在まで当院で行われている慢性閉塞性肺疾患に対する温泉療法の概略を述べてみたい。

対象症例
昭和57年1月より現在 (昭和59年6月30日)までの 2年半の問に,当院で温泉療法を受けた慢性閉塞性肺疾患症例は36例であった.。

その内訳は以下のごとくである.
1. 疾患別検討
対象36例の疾患別の内訳は,

 

気管支瑞息34例,

慢性細気管支炎 1例,

肺気腫 1例であった。


気管支噂息のうち,ステロイド依存性鳴息は26例,また肺気腫合併例は5例であった (表 1).

 



2. 年令
対象症例の年令分布は,表 2に示すごとくである.男女とも50才以上の症例が半数以上をしめており,より高い年令層に温泉療法の必要性が高いことを示 して い る。

(表 2).
3. 発症年令
前述のごとく,対象症例の大多数は気管支噛息であったが,その発症年令は,0-20才までの発症例 (6例)に比べ40才以後の発症例 (22例)が圧倒的に多くみられた.。

このことは,当初より温泉療法の対象として,気管支嘱息のなかでも特に重症難治化傾向の強い症例を選んだことと関係 していると考えられる (表 3).

 



4. 性別
対象36例の性別は,男性27例,女性 9例であり,男性症例が多数を占めた.

温泉療法
現在慢性閉塞性肺疾患に対して当院で行われている温泉療法は,表4に示す.

以下各療法について簡単に説明する.


表 4. 慢性閉塞性肺疾患の温泉療法

1. 温泉プール水泳訓練療法
2. 吸入療法
 温泉水吸入
 Ems液吸入
3. 飲泉療法
4. 鉱泥湿布療法
5. 治療浴
 重曹浴
6. 熱気浴
7. 呼吸休操

1. 温泉プール水泳訓練療法
対象症例の大多数を気管支嘱息症例がしめるため,盟泉プールによる水泳訓練が重点的に行われている.

 

気管支嘱息では,各種の刺激,環境の変化,連動などにより発作が誘発されやすいため,水泳訓練は室温 26-C,水温30oC (冬期32oC)の一定の条件下に保たれた温泉プ-ルにおいて,主として平泳により行われている.。


また訓練時間は1回30分とし,週 3-4回を原則としている.

 

運動誘発曙息 exercise-inducedasthma,EIA は水泳が最もおこし難いと云われており (FITCH,K.D.eta1.,1971,GoDFREY,S.,eta1.,1973),

実際30分間の水泳訓練による運動誘発嘱息はほとんどみられない.。

2. 吸入療法
三朝温泉の温泉水 (含重曹食塩放射能泉)あるいはEms液 (0.2% 重曹,0.1% 食塩)の吸入が行われている。

 

1回 10mlとし超音波ネブライザーによる吸入を原則として朝,夕 2回行っているが,疾の排出困難な症例に対してはサルブタモール(註)0.2mlが加えられる

 

(註)サルブタモール
短時間作用性β2アドレナリン受容体刺激剤であり、喘息や慢性閉塞性肺疾患における気管支痙攣のリリーフに使われる。
米国ではアルブテロールと呼ばれる。 サルブタモールは世界中でもっともよく処方されている気管支拡張剤であり、吸入、経口の形で投薬される。 ウィキペディア


3. 飲泉療法
温泉プールでの水泳訓練後あるいはリ-ビリテーション室での呼吸体操後に,飲泉室で休憩をとりながら飲泉を行う.

 

啄族の粘調性を低下させる目的で飲泉療法が行われているが,水泳訓練,吸入療法とともに気道の清浄化作用が期待される.

4. 鉱泥湿布療法
啄疾量が多 く,しかも粘桐でしばしば噴出困難をともなう症例に対 して鉱泥湿布療法が行われている.。

背中両側に鉱泥湿布を行った後毛布で全身を被い,約30分間bed上で安静臥床する。


.この療法により,啄出困難な粘桐な疾の排出が容易となる.


慢性閉塞性肺疾患では,近床時から午前中-かけて疾による気道の閉塞症状が出現Lやすいため,この療法は原則として午前中に行っている.。

5. 治療浴
慢性閉塞性肺疾患に対する治療浴としては,重曹浴が行われている.。

重曹は粘膜の保護作用があると云われ,重曹浴後には皮ふがなめらかとなり,啄疾(たくしつ)の排出が容易になる.

6. 熱気浴
高温皮の温泉浴槽を有する地下分室で,温泉熱 (室温40℃前後)とその湿気 (湿度約75-87%)を利用して熱気浴室として使用している.。

モルモットを使った実験では,初期は熱気浴後に白血球の著明な変動がみ られるが,慣れてくるにつれてその変動は小さくなる (小田康広,他,1982,谷崎勝朗,他,1982).。


したがって,熱気浴療法は初期は短時間とし,慣れてくるにつれて時間を長くして行くことが望ましい。

慣れてくれば,1回15分の入室を2回くり返す方法で,浴後噛息発作や体の変調をきたすことはない.

 

熱気浴療法により疾(しつ)の排出,気道の清浄化が期待されるが,その他鼻の症状,特に鼻閉塞に有効である.。

7. 呼吸体操
リ-ビリテーション室を利用して呼吸体操が行われている.

換気機能の改善に役立つものと期待される.。

臨床効果
慢性閉塞性肺疾患特に気管支嘱息を対象に,主として温泉プールによる水泳訓練を中心とした温泉療法の臨床効果については,現在までにいくらかの報告を行ってきた (谷崎勝朗,他,1983b,1984i,1984k,TANIZAI(I,Yeta1.,19841,1984m).。

そして,温泉プールによる水泳訓練が運動誘発嘱息をひきおこすことなく,長期的には換気機能の改善が期待できることを報告 してきた。
(周藤真康,他,1983,1984,谷 崎勝 朗,他,1984kTANIZAXI,Y.,eta1.,1984b).

 

ここでは,気管支瑞息を対象に現在までに得られた成績をもとにして,温泉療法の臨床効果の概略を述べてみたい.。

1. 全般的臨床効果
3ケ月間の温泉療法を受けた気管支嘱息14例の臨床効果は,著効 2例 (14.3%),有効 8例 (57.1%),やや有
効 3例 (21.4%),無効 1例であった。

すなわち,著効を含めた有効例は14例中10例 (71.4%)であり (谷崎勝朗,他1984k),薬物療法の限界をこえた重症難治性聴息症例 (木村郁郎,他,1978)に対 しては,温泉療法がかなり有効であることが示されている.

2. 発症機序別臨床効果
気管支噴息の発症機序として,IgE抗体(註) ・肥満細胞 ・好塩基球 ・好酸球系の反応系の関与が明らかにされている (KIMURA,Ⅰ.,eta1.,1974,1975,TANIZAXI,Y.,
eta1.,1984g).。

 

(註)IgE抗体とは、

1型アレルギー反応を引き起こす免疫グロブリン。 特に特定のアレルゲン(ほこりやダニなど)に感作され反応するものを「特異的IgE抗体」という。 一般的に行われている血液検査では、この「IgE抗体」の総量、何に反応するかどうかの「特異的IgE抗体」を調べている。

この反応系では IgE抗体に仲立ち(mediate)される好塩基球の反応 (形態 的変 化,Chemicalme・diator遊離)(KIMURA,Ⅰ.,eta1.,1973,1981a,1981b,1982a,1983a,In press,木村郁郎他,1984a,TANIZAKI,Y.,eta1.,1983h,1984a,
1984m,谷崎勝朗,他,1984f) がみられる.

 

アトピー型気管支鳴息はこの反応系により発症するが,一方非アトピー型鴨息では IgE 抗体の関与は明らかでない.。

温泉療法の臨床効果は,アトピ-型と非アトピ-型の間には一般的には明らかな差はみられていない。


句寺にアレルギ-反応がそろそろ減弱傾向をみせはじめる30才以後の症例では,両型問の差は明らかでないが,アレルギー反応の程度が比較的高度である30才未満の症例では,温泉療法の臨床効果はアトピ-型に比べ非アトピー型においてより高い傾向がみられる。

.このことは,温泉療法の作用粍序として抗アレルギー作用はあまり期待できないことを示しているかもしれない.

3. 病態別臨床効果
気管支嘱息をその病態別に分類すると,気管支撃縮型,気管支響縮+過分泌型,綿気管支閉塞型の 3型に分類することができる (谷崎勝朗,他,1984k,TANZIAKI,Y.,eta1.,19840).

これらのうち,和気管支閉塞型に対して温泉療法は最も有効であり,次いで気管支撃縮+過分泌型に対して有効であるが,気管支撃縮型に対してはその臨床効果はそれ程高くない。

特にアレルギー反応の程度がなお強い30才未満の気管支撃縮型に対 してはその有効率はむしろ低く,これらの症例に対する温泉療法はなおかなりの改善の余地を残していると考えられる.。

4. 年今別臨床効柴
前述のごとく,温泉療法は全般的には30才未満の症例ではその臨床効果は比較的低く,なかでもアレルギー反応の関与がより強いと考えられる症例において有効率が低い.

 

一万30才以後の症例では,アレルギ-反応の関与の程度よりはむしろその病態に影響されることが多い.。

特に40才以後に発症する所謂中高年発症型 嘱息 1ateonsetasthmaにおいて,より高い有効率がみられる.

若年発症塑晴息 earlyonsetasthmaの大多数がアトど-型を示すのに対し,所謂中高年発症型嘱息の発症機序は全く不明であるが,少くとも IgE抗体に mediateされる反応系の存在は兄い出し難い 

(木村 郁郎,他,1982b,1984b,MoLINA,M.etal.1977,谷崎勝朗,他,1983j).。

そして,これらの中高年発症型嘱息では,過分泌や細気管支閉塞をともなうことが多い.

 

したがって,温泉療法がこれら中高年発症型晴息に有効なのは,その病態と関連している可能性が強い.。

さらに年令が高くなり,例えば60才以上になれば,細気管支領域の病変は加令現象と重なり合ってより高頻度となる (谷 崎勝顔,他,1983C,1984e).。

これらの組織学的変化は気管支肺胞洗浄法 Bronchoalveolarlavageによってもある程度推測し得る (木 村 郁郡,他,198lc,谷 崎勝顔,他,1984C).。

そして,細気管支領域の病変をともないやすい年令層の症例に対する温泉療法は,アレルギ-性素因の有無を問わず極めて有効である.。

併用薬剤
近年における抗曙息薬の開発は,気管支棉息の治療をより容易なものにしつつあるようにみえる.。

特に嘱息予防薬と呼ばれるDSCG(Intal⑧),tranilast(RizabeI一㊨),Ketotifen(Zaditen⑧)などの臨床応用 (KIMURA,Ⅰ,etal.1980,谷崎勝朗,他,1978b,1980,1984j),
持続型 β2選択的刺激薬 (谷崎勝朗,他,1979)や吸入用ステロイド薬 (谷崎勝朗,他,1978a)などの開発は,嘱息の治療方法を少しずつ変えつつある.。

しかし,一方ではこれらの薬剤の開発にもかかわらず,薬物療法のみではなお効果が十分期待できない症例も多数残されている。

特に過分泌や細気管支閉塞に対しては,有効であり得る薬剤はステロイド以外には見当らない.。

このことが,ステロイド依存性嶋息をつくり出しやすい 1つの原因ともなっている。

.温泉療法はこのような通常の薬剤ではコントロールできない症例により有効であり,この点からすれば薬物療法と温泉療法 とはお互いに補い合う治療法であるとも云える.。

すなわち,薬物療法の効かない部分は温泉療法で,反対に温泉療法の効き難い部分は薬物療法で補い合うことが可能である.。

それでは温泉療法そのものの有効性を助長し得る薬剤はないであろうか.

現在までの著者 らの臨床経験からは,Ca乞+括抗英 とへバ リンにその可能性を兄い出しつつある.。

最近抗原刺激時の肥満細胞の Ca2+取りこみとchemicalmediatorの遊離との関係が明らかにされてきており (TANIZAKZ,Y‥eta1.,1983a,谷崎勝朗,他,1983f),かかる観点から Ca2+ 括抗薬の抗アレルギー作用が注目されてはいるが (TANIZAXI,Y.,eta1.,1983C,1983g,谷崎勝朗,他,1984d),Ca乞+括抗薬には過分泌に対する抑制作用も期待される.

 

一方、ヘパリンの抗アレルギー作用はなお十分明らかではないが,その治療効果は末梢気道領域の閉塞の強い症例により有効であることが示されている (谷崎勝朗,他,1983d,1983i).。

すなわち,現在使用されている通常の抗嘱息薬は,過分泌および細気管支領域の分泌物による閉塞に対してはほとんど無力に近い.。

そして,このような病態を改善し得る治療法として,温泉療法は有用な手段であり,その臨床効果を高めるためには類似の作用を有する薬剤の併用が望ましいと考えられる。

将来の展望
気管支瑞息を中心とした温泉療法の臨床効果の検討からは,温泉療法が有効な症例と無効な症例との間にかなりの臨床上の差異があることが示されつつある.。

すなわち,若年型,アトピー型で,その病態が気管支轡縮型である場合には,温泉療法の効果はそれ程期待できない。

一方中高年発症型,非アトピ-型で,過分泌,細気管支閉塞をともなうような症例では,温泉療法の有効性が極めて高い.。

これらの結果は,年令が高 くなるにつれてその発症頻度が高くなる慢性気管支炎や肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患に対 しても温泉療法がかなり有効であり得ることをある程度示 している。

今後これらの疾患に対 しても積極的に温泉療法が行われるべきであり,さらに温泉療法と併用される薬剤の検討も十分行われなければならないと考えられる。

 

※参考資料などは省略

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温泉と呼吸器疾患    
谷崎 勝朗
光延 文裕
岡山大学医学部・歯学部附属病院三朝医療センター

https://onsen-forum.jp/enterprise/hoyochigakukoza/group-medicaltreatment/medicaltreatment02.html