(前回記事)

心の履歴(55) 

発汗で湯船となった布団
2023-06-09 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12806733348.html

 

(今回記事)
2008/02/23 著

《力尽きる》

試験初日、六時起床。
ずぶ濡れの下着から、生乾きの下着に着替える。

ひやりとした冷たさ。
六時半下宿を出る。
京都の朝は、殊更冷える。
身震い。

バスで阪急河原町駅へ。
バスでは座れた。
電車は始発なのに座れず。
十三駅で宝塚線乗換え。
終始、吊り革にもたれる。

間断なく、背筋に電気のような冷気が走る。
目を開けてはいられない。
開けたらめまい。

目を閉じ、時間の経過をただじっと待つのみ。
吊り革の隣の人の眼差し、恐らく、私は蒼白。

豊中を過ぎ石橋駅下車。
それからが丘登り。
一歩一歩、倒れないように足を踏みしめて。

理学部高分子の受験教室は一番奥。
石橋駅から普通徒歩25分の所。

自分の席に着いたのが9時に10分前。
石橋駅からの徒歩で45分もかかった。

問題用紙に受験番号と名前を書いて数分待つ。
「始め!」の号令。

問題を見る。
字は見えるが読めない。
脳味噌から血が抜け、空の毛細血管に神経が走る。
頭がピリピリ。

挙手。

「トイレに行かせて下さい」
トイレの中。
ふらつく。
立っていられない。

たまらず「金隠し」に構える。
腰を落とせる。
この状態なら倒れないですむ。

両手を握り合わせ、目を閉じた。
「神よ!我の脳を正常に戻し給え!」

祈ったまま30分経過。
脳に血が流れ出したのを覚える。
これなら何とかなる。
立ち上がるも、足がしびれている。

ちんばになりながらも会場の中を歩む。
何故か顔がスースーする。

自分の席に着く。
冴えてくる。
神は私を見捨てなかった。

だが無情。

途中でタイムアウト。
その日の残る科目は何とか凌ぐ。

夜は相変わらず発熱と発汗。
次の夜も。

最後の三日目、確か、物理と化学の試験。
公式さえ思い出せない。

疲労困憊(ひろうこんぱい)。
力尽きる。

 

        つづく

 

心の履歴(57) 
生死のSS風邪薬で蘇生
2023-06-11
https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12806762267.html