「経営学の巨人」の名言・至言(週刊ダイヤモンド)

(前回記事)

ドラッカー名言/至言 [13][14][15]
2023-06-01 

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12805443838.html

ドラッカー [16]
経済を決定するのはマクロ経済ではなく個人と企業
『新しい現実』より

「現在の経済学では、経済の動きを予測することはもちろん、説明することもできない」(『新しい現実』)


 マクロ経済学のモデルは、支配的な地位にあるのは、「主権国家の経済」であるとする。しかしドラッカーは、従者たる個人と企業が、主人たるマクロ経済に屈服したことは一度もないという。個人と企業は常に主人を裏切ってきた。


 経済学者シュンペーターが一九三〇年代中頃に指摘したように、個人と企業はいかなる経済政策とも関係なく、貨幣の回転速度を予想できないかたちで急激に変えることができる。


 経済政策によって経済的な目的を達成しようとする試みはすべて、この個人と企業が持つ「貨幣の回転速度変更の能力」によって失敗させられてきた。

 

経済的に何が合理的であるかを決定するのは、マクロ経済ではなく、個人と企業のミクロ経済のほうである。もちろん起業家精神とイノベーションを動かすものも、マクロ経済ではない。


 経済学は経済の「天候」を支配することを約束したがゆえに、今日の高い地位を得た。

 

だがその効きめは、効能書きほどのものではなかった。経済学はよりよい「気候」をもたらすうえで役には立つが、目先の「天候」には無力であることを認めなければならないときがきたようだ。


 「今やわれわれは、経済の『天候』を動かすべき行為者としての政府から、正しい『気候』を維持すべき政府へと重点を移すべきときがきた」(『新しい現実』)

ドラッカー [17]
周辺業務の唯一の生産性向上策はアウトソーシング
『未来企業』より

 「生産性を向上させるには、仕事を立派に行うことによって昇進できなければならない」(『未来企業』)


 これが可能となるのは、周辺的な仕事の場合、外部に仕事を任せたときだけである。アウトソーシングして初めて、それらの仕事に機会と敬意と将来性を付加できる。


 たとえば大学職員である限り、学生食堂の主任はいかに有能でも、いつまでたっても大学の一職員である。学生食堂の運営は、大学の価値体系の中心には位置付けられていないからだ。


 しかし、独立した給食会社の社員であれば、昇進していくつもの大学食堂を管轄する事業部長になれる。うまくいけば社長にもなれる。問題に直面しても、会社には手を貸してくれる経験者がたくさんいる。仕事や設備の改善提案は、真剣に受け入れられる。


 ほとんどの周辺的な仕事は、社内に置き続ける限り独占事業である。したがって、生産性を向上させるインセンティブがほとんど働かない。そこでは競争も働かない。仕事ぶりを批判されると、人員増で応えようとする。


 ところがアウトソーシング先の場合、サービスの向上とコストの削減に努めなければ、いつ競争相手に委託契約を奪われても仕方のないことを承知している。


 「昇進の機会のない仕事はすべてアウトソーシングが常態になる。これこそ事務処理的、保守管理的、補助的な仕事にとって、生産性向上の唯一の方法かもしれない」(『未来企業』)

ドラッカー [18]
eコマースが生む心理的な地理は距離を消滅させた
『ネクスト・ソサエティ』より

 「IT革命のインパクトは現われはじめたばかりである。問題は情報そのもののインパクトではない。人口頭脳のそれでもない。意思決定や政策や戦略に対するコンピュータのそれでもない。

 

一〇年、一五年という、ついこの間まで予測どころか話題にもなっていなかったもの、すなわちeコマースのインパクトである」(『ネクスト・ソサエティ』)


 一九四〇年代半ばにコンピュータの出現とともに始まったIT革命は、今日では、IT革命の前から存在していたもののプロセスを変えたにすぎない。情報自体には、いささかの変化ももたらしていない。


 ところが、そこへeコマースが現われた。
 ドラッカーは、IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じだという。いずれも人類にとって、まったく新しく、まったく予想外の展開である。


 今まさに、一七〇年前の鉄道と同じように、eコマースが新しい時代を招き入れつつある。経済と社会と政治を、一変しつつあるという。


 鉄道が生んだ心理的な地理によって、人は距離を征服した。eコマースが生む心理的な地理では、人は距離を消滅させるのだ。


 「eコマースは経済、市場、産業構造を根底から変える。製品、サービス、流通、消費者、消費行動、労働市場を変える。さらにはわれわれの社会、政治、世界観、われわれ自身にインパクトを与える」(『ネクスト・ソサエティ』)

ドラッカー [19]
問題なのはリスクを冒さないこと
冒せなくなること

『マネジメント』より

 「企業活動に伴うリスクをなくそうとしても無駄である。現在の資源を未来の期待に投入することには、必然的にリスクが伴う」(『マネジメント』)


 複雑な世界にあって、見えない未来に向けて、ヒトとモノとカネを投入する。そして、投入したものをはるかに超えるものを得る。それが企業の成長であり、社会の繁栄である。そこにリスクが伴うのは当然である。わかりきったものからは、わかりきったものしか手に入れられない。


 ドラッカーが気にするのは、この当然のことに対する無知や無理解ではない。それ以前の問題として、頭もよく知識も豊かな人たちが、リスクについて持っている考え方である。リスク抜きを是とするメンタリティである。


 それは世界からリスクを取り除くことはできるし、取り除かなければならないとする考え方である。


 そうではなく、より大きなリスクを負えるようにすることが必要なのである。


 たとえば、毎年数百億円を研究開発につぎ込めるようになることが肝心なのである。


 経済活動において最大のリスクは、リスクを冒さないことである。そしてそれ以上に、リスクを冒せなくなることである。


 「リスクの最小化という言葉には、リスクを冒したり、リスクをつくりだすことを非難する響きがある。つまるところ、企業という存在そのものに対する非難の響きがある」(『マネジメント』)

ドラッカー [20]
自社の強みと弱みを知るよい方法は顧客に聞くこと
『創造する経営者』より

 「他社はうまくできなかったが、わが社はさしたる苦労なしにできたものは何かを問わなければならない。同時に、他社はさしたる苦労なしにできたが、わが社はうまくできなかったものは何かを問わなければならない」(『創造する経営者』)


 自社のことは自社ではわからない。特に強みはわからない。ところが、いかに恵まれた市場環境にあって、いかに強い使命感に燃えても、自らの強みを知らなければ、卓越した事業によって業界リーダーの地位を得ることはできない。


 しかも、企業をはじめとする組織体の強みに公式はない。いかなる強みがいかに獲得されるかはわからない。学者が解き明かしてくれるのを待っているわけにもいかない。自社の強みは一日も早く見つけてどんどん伸ばし、フルに発揮していかなければならない。


 そこで自社の強みを知るための工夫が必要になる。公式がないとするならば、観察するしかない。そして聞くしかない。


 比較の対象は他社とは限らない。自社の成功と失敗を比較しなければならない。そしてその違いの原因を考えなければならない。


 さらには、自社を最もよく知る者に、辞を低くして聞かなければならない。


 「上得意の顧客に対し、わが社は他社にできないどのような仕事をしているかを聞かなければならない。顧客が常に答えを知っているわけではない。しかしどこに正しい答えを見つけたらよいかは明らかにしてくれる」(『創造する経営者』)
https://www.iot.ac.jp/manu/ueda/column/030830.html

 

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