(前回記事)

心の履歴(146) 
熱海の夜はふけて
2009/05/25 著

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12745000655.html
 

(今回記事)

心の履歴(147)

喜劇とは悲劇な者がいてこそ成り立つ
2009/06/01 著


関西のお笑い芸人は、いじめ役といじめられ役がいて成り立っていますね。実は子供社会からこうですから、関西での子供のいじめは無くならないはず。

さて、
珍品な白いなまこの頭に黒のマジックで輪を描き、テラスから小雨を降らした社員旅行。
高田課長企画、土・日の一泊二日の熱海温泉社員旅行は終わりました。

翌日(月曜日)の朝、高田課長は顔を合わせる都度何かを言いたげな素振りが週末まで続きました。

金曜日、彼は意を決して恐る恐る話しかけてきました。
「熱海の旅館で、二階から小便をした者がいる。誰だか知らないか?」
「あの夜は、皆、酔っていたからな」

「和田君は?」
「知らないと言うんだ」

「何かあったのか?」
「翌朝に、しっかりと叱られたよ!」

「誰に?」
「旅館の女将からだよ」

「どうして?」
「一階の部屋のお客さんが女将に怒鳴り込んだ。小便が降って来るって」

「ふぅ~ん、そんな事があったのか。誰だい?それは?」
「それが誰か分からないのだよ」

更に彼は言い難そうに、然もこそこそと。

「あの日、マジックを持っていた者を知らんか?」
「マジックって? 何で旅行にマジックが要るの?」

暫し沈黙。

うつろな目。
「ワシのあそこにマジックでいたずら書きをした者がいるのだ」
「何なの? それ? 何処に?」

「ワシのチンの先にだよ」
「誰かがマジックで? あんたのに!アハハ! そりゃ、傑作!」

「朝風呂でパンツを脱いだら先が真っ黒!」
「アハハ! そりゃ、驚くよ! それで、どうした?」

「前をしっかりとタオルで隠して入ったよ」
「マジックは洗い落ちたのかい?」

「石鹸をいっぱい付けたタオルで何度もこすったよ」
「そんじゃ、ムクムク大きくなったろうに!」

「馬鹿な事を言いなさんな!」
「マジックは、とれたのか?」

「直ぐにとれんわ!」
「奥さんに見せたのか?」
「見せる訳ないやろ。こすりすぎて皮がむけたよ」

「じゃ、赤チン塗らなきゃ!」
「あのなぁ~、水無瀬君よ!」

「あの日はねェ、僕と小川君は宴会場から直接ラウンジに行ったよ。そしてそこの応接セットで眠ってしまったからなぁ。飲みすぎたからなぁ」
「じゃ、部屋に先に入ったのは誰だろう?」

「和田君に起されて皆で部屋に入ると、あんたが大の字で寝ていたよ」
「それから、テラスに出たのか?」
「その辺は、はっきり記憶に無いな。でも、皆で夜空を見上げた時には、あんたもいたような気がするよ」

その時、丁度和田君が近くを通りました。
「和田君!和田君! ちょと来て!」

高田課長に見えないようにして左目でウインク。
「旅館の深夜の二階テラスには高田課長も居たよね」
「おぉ~、課長もいたよ」

「そこから、誰かがテラスからオシッコをしたと言うんだよ」
「課長が、浴衣の前を広げていたよ」
「そうだ。我等は直ぐに部屋に引っ込んだからその後は分からないよ」

高田課長の肩幅は益々狭くなり、ダボハゼの目の色が灰色に。
月曜日から金曜日までの五日間、誰かを捕まえてそれとなく熱海の夜の事を聞いたのでしょう。

何せこの旅行には五十数人が参加していましたから。
和田君に松ちゃんに小川君に私の四人が口裏を合わせたなら解明の仕様がない。

誰に聞いても埒があかない。
ひょっとしてテラスからオシッコをしたのは自分かもしれない。そう思ったかも。

それからの一ヶ月間の彼は、ダボハゼの目の色を灰色にしたまま、浮かない顔でした。

社員旅行の件はこれでおしまい。

 

つづく

心の履歴(148)
昔も今も贈答品には弱い
2009/06/08 著

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12746952147.html

 

心の履歴30代①入社編:目次
2022-04-08

https://ameblo.jp/minaseyori/entry-12736672224.html